過去3カ月の推移と今回の予想値
前回のレビュー
BLS(米労働省労働統計局)が先月発表した9月の雇用統計は、非農業部門雇用者数は+13.6万人で、事前予想を下回る結果となりました。詳細を調べると民間部門の雇用は予想に届かず、さらに製造業部門の雇用はわずかとはいえマイナスに落ち込むなど、心配な要素がところどころ見つかっています。とはいえ、8月の雇用者増加数が上方修正されるなど良い面もあり、全体としても10万人の大台を維持するなどまずまずの結果でした。
また失業率は3.5%に低下。労働参加率が横ばいのなかでの失業率低下は良い傾向といえます。一方で平均労働賃金は前月比、前年比ともに伸び悩む結果。特に前年比については昨年7月以来の弱さとなりました。
10月雇用統計の予想
11月1日に発表される10月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が+8.5万人の見通し。失業率も上がって3.6%に。平均労働賃金は、前月比+0.3%、前年比+3.0%という予想になっています。
10月は雇用者増が10万人に届かないという予想ですが、雇用市場が急激に悪化しているのか、といえばそうでもありません。レイオフが増加しているという調査も出ていますが、先週の新規失業保険申請の件数は逆に減少しています。BLSによると、米国の失業者数600万人に対して求人規模は720万人なので、米雇用市場はまだ旺盛な「売り手市場」の状態で、企業側は雇用を抑えるどころか社員の引き留め策に苦労しているといえます。
米アマゾンは先月、米国内で3万人の新規雇用計画を発表したのですが、インターネットによる応募はたった1週間で約21万件に達したと報告されています。1分につき18件以上の応募があった計算です。また同社が米国の都市で開いた就職説明会にも数千人規模の求職者が集まる賑わいぶりを見せたそうです。
労働賃金が伸びない
雇用が強いわりに、労働賃金の伸び悩みは続いています。リッチモンド連銀の調査によると、クリスマス商戦を前にして賃金は2017年以来の最低水準まで急落しています。
米国の工場では、雇用が堅調に見えるが実は労働者の就労時間が短縮されているという調査もあります。人手は確保しておくが、それに見合った生産があるわけではなく、部門全体を見ると逆に生産を縮小しているところもあります。労働時間短縮で賃金を減らされた労働者は、外食に出かけたりレジャーにお金を使ったりしなくなるため、製造業の負の影響がサービス業へと広がりつつあります。
今は良くても、将来は?
全米産業審議会(コンファレンスボード)が実施した雇用の景況感についてのアンケート調査によると、現状について「仕事が十分ある」の回答は前回よりも減少。先行きについては、6カ月後に今より仕事先が「増えると期待する」が減る一方で「少なくなっている」は増加。別の調査では、民間部門の雇用は約10年ぶりに減少に転じる可能性を指摘しています。
今はまだタイトな米雇用市場ですが、「伸びしろ」は残り少なくなっているようです。将来の仕事に対する不安は、消費者マインドの後退につながります。雇用者増加の鈍化がトレンドとしてはっきり表れてくるならば、これまで強気だったパウエルFRB議長も見解を変える必要に迫られそうです。
過去分の修正データにも注目
今回の雇用統計でも、速報値だけではなく改定値にも注目したいと思います。雇用の実態をより正確に表しているという意味では改定値の方が重要といえます。9月の改定値は半年ぶりに上方修正となりましたが今回はどうでしょうか。速報値では見逃された雇用市場の「衰退」のサインを見逃さないようにしたいと思います。
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