毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:ヒビノ(2469)アミューズ(4301)

1.日本の音楽産業の最近の動向

 今回の特集は、「音楽関連企業の最近の動向」です。

 日本でも世界でも音楽ライブのブームが続いています。日本の2018年暦年のコンサート・ライブ売上高は3,448億2,300万円(前年比3.7%増)となりました。2006年の924億7,500万円を底にして、2016年の一時的な減少を除いてほぼ毎年増加してきました。この間、音楽ソフト生産高(CD、音楽DVDとBD)は最近は緩やかに底打ちしたものの傾向的に減少しており、音楽配信も伸びてはいますが急増とまではいかないため、日本の音楽産業のけん引役はライブとなっています。

 グラフ2を見ると、ライブ・コンサートの年間公演件数が頭打ちになっており、動員数の伸びも鈍っていますが、チケット代の上昇やグッズ売り上げの増加がコンサート・ライブ売上高の伸びに寄与しているもようです。

 ライブブームのネックは会場不足問題です。最近では、2019年9月から2020年9月まで武道館改修(東京オリンピック・パラリンピックで一時的に使用)が行われます。ただし、横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナなど既に改修が終了した大型ホールも多く、武道館改修で大きな影響はなさそうです。

 また2020年以降、収容人数1万人前後の新しいコンサートホールが首都圏で複数オープンする予定です。ぴあが2020年開業予定でみなとみらいに建設する1万人規模のアリーナ、バンダイナムコホールディングスが渋谷に建設する予定のライブ施設(規模不明)、ケン・コーポレーションがみなとみらいに建設する予定の2万人収容のアリーナ(2023年竣工予定)などです。

 このように、2020年以降、首都圏で大型ホールが相次いで開業する予定であるため、ライブブームは更に続く余地があると思われます。

2.2020年東京オリンピック・パラリンピックの影響

 2020年7月22日から8月9日まで開催される2020年東京オリンピック・パラリンピックは、首都圏での音楽ライブ開催に大きな影響を与えると思われます。

 芸能プロダクションやレコード会社の見方を聞くと、聖火リレーがスタートする(福島からスタートします)2020年3月26日から実質的に東京オリンピック・パラリンピックが始まるため、2020年4-6月期から首都圏での音楽ライブやその他の大きな催しは、治安の観点からやりにくくなるということです。そして、2020年7-9月期になると首都圏での音楽ライブはほぼ開催されなくなると思われます。地方で行う考え方もありますが、機材、スタッフを東京から地方へ送る必要があるため、採算面から難しい面があると思われます。

 ただし、オリンピックが終わった後の2020年10-12月期、2021年1-3月期は、首都圏で音楽ライブの開催ラッシュが予想されます。通常はライブの閑散期である2021年1-3月期も、首都圏で平日開催も含めてライブ開催が多くなることが予想されます。

 その結果、2021年3月期の全国のライブ開催件数は、上期に大きく落ち込むことが予想されますが、下期に取り返すことで、年度では2020年3月期に比べて横ばいになると予想されます。

 また、東京オリンピック・パラリンピックは、今回取り上げるヒビノにとってはさまざまな音響、映像機材の需要が増えることになり、アミューズにとっては、オリンピック関連のさまざまな催しが増えることによってタレント需要が増えることになるため、特にヒビノにとってですが、恩恵が大きいものになると思われます。

グラフ1 日本の音楽産業

単位:百万円、暦年
出所:音楽ソフト生産高、音楽配信売上高は日本レコード協会、コンサート・ライブ売上高はコンサートプロモーターズ協会

グラフ2 ライブの年間公演数と動員数

出所:コンサートプロモーターズ協会より楽天証券作成

3.銘柄レポート

ヒビノ

2020年3月期1Qは42%増収、営業利益は黒字転換

 ヒビノは、放送局や音楽ライブ、演劇、各種イベントで使う音響、映像機器の販売、貸出の最大手です。

 2020年3月期1Q(2019年4-6月期)は、売上高90億4,200万円(前年比41.5%増)、営業利益1億7,600万円(前1Qは2億1,200万円の営業赤字)となりました。

 大幅増収となりましたが、これは、前期までに買収した「日本環境アメニティ」(音響工事)、「Sama Soundグループ」「テクノハウス」(いずれも音響機器販売)、「TLS PRODUCTION」(アメリカにおけるコンサート・イベント事業)の4社の連結効果によるものです。今1Qはこの4社の連結効果が、売上高で23億6,800万円、営業利益で2億2,800万円分ありました(この4社の売上高、営業利益の単純合算)。この効果を除くと4%増収、約5,000万円の営業赤字になりますが、通常は1Qはライブ、イベントの閑散期になるため1億円を超える赤字になるため、今1Qは順調と言えます。ライブや各種イベントが多かったためです。

表1 ヒビノの業績

株価    2,295円(2019/10/17)
発行済み株数    9,960千株
時価総額    22,858百万円(2019/10/17)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表2 ヒビノのセグメント別損益

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成。

2020年3月期は会社予想上方修正の可能性

 今2Q以降の受注状況は不明ですが、日本全体では音楽ライブが前期並みに予定されており、演劇も含めて映像演出が多くなっています。そのため、当社にとって採算の良い映像機器の貸し出しが増えると予想されること、ラグビーワールドカップ、東京モーターショー、即位の礼などの大型イベントも予定されていることから、順調な業績拡大が予想されます。

 2020年3月期会社業績予想は、売上高435億円(前年比28.3%増)、営業利益18億円(同25.8%増)です。この中で買収した4社の寄与は、推定で売上高約100億円、営業利益3億円弱なので、これを除くと会社予想は売上高335億円(前年比1%減)、営業利益15億円(同5%増)となる見込みです。ただし、前述のように音楽ライブ、大型イベントなど上乗せ要因があります。楽天証券では、ヒビノの2020年3月期を売上高460億円(前年比35.7%増)、営業利益21億円(同46.8%増)と予想します。前回予想から若干ですが上方修正します。

2021年3月期はオリンピック特需が期待できる

 来期2021年3月期は、前述のように、上期の音楽ライブ開催は今上期比で大きく減少すると予想されるものの、それをオリンピック関連受注で十分補えると予想されること、来下期はライブの開催ラッシュが予想されることから、業績好調が予想されます。楽天証券では、2021年3月期を売上高520億円(前年比13.0%増)、営業利益27億円(同28.6%増)と予想します。

 なお、2022年3月期については、オリンピック特需の反動が予想されるものの、ライブブーム、演劇ブームの継続、首都圏における新規ライブ会場の開業によるライブ、演劇開催数の増加、ライブ会場の開業や放送局の建替え、改修による音響、映像機器需要の増加が期待できます。業績の大きな落ち込みは考えにくいと思われます。

 今後6~12カ月間の目標株価は、前回の3,300円を維持します。2021年3月期楽天証券予想EPS150.6円に想定PER20~25倍を当てはめました。引き続き投資妙味を感じます。

アミューズ

2020年3月期1Qは11%増収、営業利益2倍

 アミューズは、芸能プロダクションの大手で音楽に強いことが特徴です。近年はドラマ、演劇にも注力しています。

 2020年3月期1Qは、売上高177億6,400万円(前年比11.2%増)、営業利益29億8,800万円(同2.0倍)となりました。

 2019年3月末から6月にかけて行った「サザンオールスターズ」全国ツアーや「SEKAI NO OWARI」のツアーが好調でした。「サザン」はチケットだけでなく、グッズ販売(Tシャツ、タオルなど)も好調でした。他のアーティストも全般的にグッズがよく売れており、ライブの採算向上に寄与しているもようです。

 また、俳優では「安田顕」「賀来賢人」「吉沢亮」「三浦春馬」など、女優では「茅島みずき」「清原果耶」などが映画、ドラマへの出演によって人気が出た結果、採算の良いCM出演が増えており、これが業績に寄与するようになりました。

表3 アミューズの業績

株価    2,841円(2019/10/17)
発行済み株数    17,302千株
時価総額    49,155百万円(2019/10/17)
単位:百万円、円    
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。    
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

会社側は2020年3月期業績予想を上方修正した

 今1Qの好調な結果を見て、会社側は2020年3月期通期業績予想を上方修正しました。期初会社予想は売上高502億6,000万円(前年比8.9%減)、営業利益36億1,000万円(同19.4%減)でしたが、これが売上高535億円(同3.0%減)、営業利益43億4,000万円(同3.1%減)に上方修正されました。

 ライブが好調で、今1Qだけでなく、今2Q以降も盛り上がりが予想されます。今2Qは「ポルノグラフィティ」「SEKAI NO OWARI」「BABYMETAL」のライブが、今下期は「ONE OK ROCK」「Perfume」「福山雅治」のライブが予定されています。

 会社側が注力している演劇では、「柚希礼音」「ソニン」主演の「Factory Girls~私が描く物語~」が9~10月に上演されており、成功裏に推移しています。

 また、今2Q以降も、今1Q同様グッズ売上やCM出演料が業績に貢献すると予想されます。

 このため、楽天証券では、会社予想は再度上方修正される可能性があると考えています。楽天証券の今期業績予想は、売上高545億円(前年比1.2%減)、営業利益46億円(同2.7%増)です。小幅ながら営業増益になると予想します。

2021年3月期も堅調な業績が予想される

 2021年3月期を展望すると、前述したように、東京オリンピック開催に先立って2020年4-6月期には首都圏のライブ開催数が減少し、同7-9月期は首都圏ではライブがほぼ開催されなくなると予想されます。ただし、2020年10月以降はライブの開催ラッシュになると予想されます。また、来上期はオリンピック関連の各種イベントが予想されるため、タレントの出番はある程度増えると思われます。そのため、楽天証券では来期業績を、売上高550億円(前年比0.9%増)、営業利益46億円(同0.0%増)と予想します。

 今後6~12カ月の目標株価を3,500円とします。2020年3月期楽天証券予想EPS161.3円に想定PER20~25倍を当てはめました。投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:ヒビノ(2469)アミューズ(4301)