最高益更新見込みの小型株にも、株価指標で見て割安な株はある

 この連載に書いている通り、日本株は「買い場」と判断しています。配当利回りや買収価値から「割安」と考えられる銘柄が多数あるからです。不安材料が残っていて株価が割安なうちにコツコツと投資していくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。

 さて、それでは何を買ったら良いか?「銘柄選択が難しくて良く分からない」という方は、「日経平均インデックスファンド」から始めたら良いと思います。

「個別株を買ってみたいが短期的な株価変動を見るのは苦手」という方は、まず、大型の高配当利回り株から投資したら良いと思います。日本たばこ産業(2914)(10月16日株価2,394.5円、予想配当利回り6.4%)や、三菱UFJ FG(8306)(株価550.3円、予想配当利回り4.5%)などから始めたら良いと思います。

「小型成長株を買ってみたいが短期的な株価変動を見るのは苦手」という方は、今日ご紹介する最高益を更新する小型割安株から投資するのも良いと思います。

 最高益を更新する小型株は、最高益が評価されて株価が上昇し、株価指標(PER:株価収益率やPBR:株価純資産倍率、配当利回りなど)で見て割高になる傾向があります。特に、高人気のAI(人工知能)・IoT(モノのインターネット化)・バイオ関連の小型株では、利益や配当を出していなくても「夢」で買われてとても高いバリュエーションがつくことがあります。そういう人気株は、株価の乱高下が激しいので、投資タイミングが難しく、初心者向きではありません。

 ただし、最高益を更新していても人気テーマに乗らない株はあります。そういう「不人気」「最高益」株には、株価の低迷が続いていて株価指標で見て割安な銘柄がたくさんあります。株式投資の初心者には、そういう割安な最高益銘柄に、じっくり長期投資していく投資戦略も、良いと思います。実際、私はファンドマネージャー時代に、そういう投資をよくやっていました。最高益更新が続いていれば、いつか見直されて株価が大きく上昇するものです。

 ただし、そうなるまでに何年も辛抱しなければならないこともあります。それでも、株価指標で見て割安で、最高益を更新していれば、誰にも見向きもされず、株価低迷が長期化しても、黙って持っている価値はあると思います。

 それとは対象的に、高人気の小型成長株は、株価変動が激しいので要注意です。投資タイミングが悪いと、急落する中、損失確定売りを出さなければならないこともあります。機動的な売買ができない初心者には、難しい投資対象です。

最高益を更新する見込みの割安小型株

 今日ご紹介するのは、最高益を更新する不人気割安株のほんの一例です。これ以外にも似たような割安小型株は多数あります。

最高益更新見込みの割安小型株3選、株価バリュエーション:10月16日時点

コード 銘柄名 株価 配当利回り PER:倍 PBR:倍 最小投資金額
9303 住友倉庫 1,481 3.1% 14 0.7 148,100
9882 イエローハット 1,610 2.5% 10 0.9 161,000
8566 リコーリース 3,485 2.6% 9 0.6 348,500
出所:楽天証券経済研究所が作成、配当利回りは2020年3月期の1株当たり年間配当金(会社予想)を10月16日の株価で割って算出

 上記の株価バリュエーションを見ていただくと、配当利回りは高め、PERは低め、PBRも低めで、株価指標で見て割安であることが分かります。特に、注目されるのは、PBRの低さです。3銘柄とも、解散価値と言われるPBR1倍を割り込んでいます。最高益を更新する見込みの株でPBR1倍割れは珍しいことです。

 住友倉庫は、保有する賃貸不動産に585億円もの含み益があります(2019年3月末時点、出所:同社有価証券報告書)。含み益の7割を自己資本に加えて計算し直した、実質PBRは0.58倍です。最高益を更新する見通しにしては、あまりに低い評価と考えています。

上記3銘柄の営業利益:2019年3月期実績と2020年3月期会社予想

出所:各社決算短信より作成、営業利益率は今期会社予想ベース

 ご覧いただくとわかる通り、3社とも、今期最高益の更新を予想しています。今期の第1四半期(2019年4-6月期)の営業利益実績は既に出ています。

 住友倉庫の第1四半期営業利益は、前年同期比38%増の26億円で、第1四半期の実績が出た時点で、上期(第1・2四半期)の営業利益見通しを、50億円から52億円に引き上げました。通期見通しは、据え置いたままですが、今期の業績は順調な滑り出しと言えます。
 イエローハットの第1四半期営業利益は、前年同期比53%増の21億円でした。また、リコーリースの第1四半期営業利益は、前年同期比5%増の45億円で、第1四半期として5期連続の最高益でした。いずれも、今期の滑り出しは順調と言えます。

住友倉庫・イエローハット・リコーリースはなぜ割安か

 ところで、こうした銘柄はなぜ、株価指標で見て、割安なのでしょうか? 割安というのは、言い方を変えると、不人気ということ。上記3社は、時代の流れに取り残された企業という誤ったイメージを持たれています。

【1】    住友倉庫

 住友倉庫の業績を牽引しているのは、物流事業です。Eコマースの拡大によって倉庫、港湾運送、陸上運送、国際輸送の営業収益拡大が続いています。不動産事業(賃貸ビル)で安定収益を稼ぎながら、物流事業の収益を拡大させていく理想的な「安定成長企業」になってきたと考えています。

 ところが、住友倉庫は、過去には、成長ドライバーのない停滞企業だったことがあります。そのイメージが抜けないために、株価は株価指標で見て割安に留まっていると考えています。

 今、活況な倉庫は、高速道路のインターチェンジなどにある内陸型倉庫です。かつて重要だった、海岸線の倉庫(輸入原料など貯蔵するのに使われた)の役割は低下しました。住友倉庫など業歴の古い上場倉庫会社が保有する倉庫は、昔は、海岸線にありました。その倉庫の役割が低下し、内陸型の倉庫が活況になっていったため、当初は、Eコマース拡大による物流活況の恩恵を受けられませんでした。

 住友倉庫など上場倉庫会社は、海岸線にあった倉庫の役割低下を受け、倉庫を賃貸ビルに変えてきました。それが安定的な不動産収益につながっています。安定収益はあるが物流業界活況の波には乗れない「停滞企業」というのが、かつての住友倉庫のイメージでした。

 ただし、近年、状況は変わっています。住友倉庫は、内陸型倉庫を強化することで、新たな成長をつかみつつあります。収益性に課題がありますが、国際物流にも成長性があります。最高益を安定的に更新していく企業としてのイメージが定着すれば、株価は見直されて上昇すると予想しています。

【2】    イエローハット

 カー用品大手イエローハットは、構造改革を成功させ、高収益の安定成長企業に生まれ変わりつつあると考えています。ただし、10年くらい前には、経営危機に瀕していました。その時のイメージをまだひきずっているために、株価は低評価に留まっていると考えています。

  同業最大手は、オートバックスです。最大手のオートバックスが成長企業だった1990年代に、イエローハットは競争力でも収益性でも劣後していました。それでも1990年代は、自動車の保守・タイヤ交換・カーナビ設置・車検などを、ガソリンスタンドや自動車ディーラー、小規模の自動車修理工場などよりも安くやることで、成長してきました。

 ところが、2000年代に入り、業界は飽和、過当競争から収益性が悪化しました。小売が少なく、卸売りが多かったイエローハットは収益悪化に苦しみ、打開策としてホームセンター事業を始めましたが、これが裏目と出ました。激化する競争に勝てず、ホームセンターからは撤退を余儀なくされました。

 ただし、そこから、地道な構造改革に取り組みました。卸売りを低下させ、最終顧客にカー用品を直接売る小売りを強化しました。消費者が望むきめ細かなサービスを強化し、地道に小売店舗を増やしてきました。今でも、小売ベースを拡大する改革が続き、それが最高益更新につながっています。

 イエローハットは構造改革を成功させ、収益率が低いままのオートバックスと、収益性で逆転しました。オートバックスの今期営業利益率(会社予想ベース)が3.6%と低いのに対し、イエローハットは7.3%まで上昇しています。

【3】    リコーリース

 リコーリースの株価バリュエーションが低評価に留まっているのは、2つの理由があると思っています。ひとつは、親会社リコーの収益が低迷していること。もう1つは、金融業であることです。金融業全体に、低金利の長期化で収益が悪化するイメージから、株価は低評価となっています。

  ただし、実際の業績は、イメージと異なり、安定成長が続いています。収益性の高い中小企業向けの小口リースが収益の柱となっています。メンテナンスなどのサービスをからめて収益を得ているので、低金利になっても影響を受けません。さらに、1万社以上の顧客を持つ集金代行サービスや介護ファクタリングなどの金融サービスでも収益を積み上げ、最高益を少しずつ更新してきています。

  中小企業向けの金融サービスは手間暇かかりますが、ひとたび軌道に乗せればリコーリースのように差別化された安定収益源となります。

 

▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー

10月10日:続・不動産ブーム!巨額の含み益がある不動産・電鉄・倉庫株リストと割安株
10月3日:もしバフェットが日本株ファンドマネージャーだったら買うかもしれない株を探す
8月29日:配当利回り6.9%、株主優待でも人気のJT。投資価値を再評価