米中協議は部分合意で、貿易戦争激化は回避
世界中が注目していた米中通商協議は、10月15日に予定されていた対中制裁関税引き上げの見送りや農産物の購入拡大などの部分合意によって貿易戦争の激化する事態はひとまず回避されました。
"Buy the rumor, Sell the fact."という相場格言があります。「噂で買って、事実で売る」という意味です。例えば、ドル/円で経済指標発表を控えている場合、期待や予想(噂)によってドルが買われ、その通りの強い数字が出ると、その事実が出たことを契機に、既に買っていたドルを売るという行動が多く見られます。
このように、投資家は何事も事前に行動する習性があるため、相場も事前に動きやすいということになります。しかし、実際に事実が出たときには、事前に行動を起こしているため、逆の方向に動くことになります。このような動きについて「材料出尽くし」「相場に織り込み済み」という表現で説明されています。
これまでの相場は、トランプ米大統領のツイッターによって期待が膨らみ、上昇しました。ここから、" Buy the twitter, Sell the fact.(ツイッターで買って、事実で売る)"となりますが、米中通商協議で部分合意が決まったという事実の後に、相場は下落していません。おそらく、部分合意では先行きの視界は晴れないとの見方に加え、事前の買いも力不足だったことから、事実が出た後の売りも力不足だったのではないかと推測されます。
円安は米中通商協議の結果ではない
ドル/円は今週に入って108円台後半まで上昇しましたが、これは英国とEU(欧州連合)との離脱交渉の合意への期待から、ポンド、ポンド/円が買われ、ポンド/円の円安に支えられて、ドル/円も円安に動いたようです。つまり、米中通商協議の「合意と利下げ期待後退」によってドル高が進んでいるわけではないようです。合意は部分的合意とはいえ、一部マーケットで好感されていますが、通商協議後に米中両サイドから先行きに不透明感を漂わせる発言や動向が報じられているため、合意文書の署名にはまだ数週間かかることから、この先も状況が変わるかもしれないという不透明感は払拭されていません。そのため無条件で買いを誘うには至っていないようです。
ポンドの動きにも注意が必要です。EU首脳会議が10月17~18日に控えていることから、数日中に英国とEUは合意に達するのではないかとの期待が急速に高まっていますが、前述した" Buy the rumor, Sell the fact(噂で買って、事実で売る)"がポンド相場で起こるかもしれません。もし、起こった場合、逆の動き、つまり、ポンド安が生じてポンド/円も円高に動き、ドル/円もその円高につられることが予想されるため、警戒しておく必要があります。
IMFの経済見通しは5回連続下方修正
今後の相場の焦点としては、米中通商協議は部分合意とはいえ、短期的に材料が出尽くしたことから、景気動向や、今週から発表される米企業の四半期決算、シリア、トルコの中東地政学リスクに移ることが予想されます。
10月15日、IMF(国際通貨基金)は3カ月に一度の経済見通しを発表しました。
2019年の世界全体の経済成長率を前年比3.0%とし、7月時点の予想から0.2%下方修正しました。この水準は、リーマン・ショックの影響でマイナス成長だった2009年以来、10年ぶりの低水準。下方修正は2018年10月以降、5回連続の引き下げとなっています。米中貿易摩擦の悪影響が世界全体に及んでいるとし、景況感や投資判断が打撃を受けていると分析しています。下表の通り、日本は横ばいですが欧米、中国の成長見通しは引き下げています。
表:IMF 世界経済見通し(2019年10月時点)
次は米国×EU関税報復合戦勃発か
米国とEUとの関税報復合戦も起こりそうです。
10月18日、米国がEUへの報復関税を発動します。年間最大75億ドル(約8,100億円)相当の輸入品が対象となります。航空機、ワインやチーズなどの農産品に10~25%の関税を上乗せする方針のようです。これらの報復関税は米国とEUの景気に影響を及ぼすことが予想されます。
また、中国に対する追加関税は延期されましたが、これまでの関税引き上げによる影響は続いているため、今後発表される決算や経済指標によっては今月の利下げ期待が高まることが予想されます。米長期金利の低下やドル安を促す材料になるかもしれません。
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