毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:HEROZ(4382)ALBERT(3906)

1.AI市場の最近の動き-AI開発が活発-

 今回の特集はAI(人工知能)関連銘柄です。日本のAI市場の最近の動きを概観します。

 日本のAI関連市場は順調に成長しています。上場しているAI専門会社、HEROZ、ALBERT、Pksha Technologyの直近四半期の増収率は、HEROZの2019年5-7月期が前年比27.0%増(約50%を占める企業向けAI[B2B]は2倍以上)、ALBERTの2019年4-6月期が同94.6%増(ビッグデータ分析が多い)、Pksha Technologyの2019年4-6月期が同58.7%増でした。これを見ると、日本のAI開発市場はおおむね前年比50~100%の高い成長率を維持していると思われます。

 AIのユーザー業種も通信、自動車、金融、ゲーム・エンタテインメント、製造業など多方面にわたっており、各分野で仕事が増えているもようです。

グラフ1 国内AIシステム市場予測

単位:億円
出所:IDC Japan2019年5月21日付けプレスリリースより楽天証券作成

2.AI人材の獲得競争が始まる

 AIのアルゴリズムを一から開発できる会社は、日本ではごく少数と言われています。上場企業では、HEROZ、ALBERT、Pksha Technology、日本電気、富士通、NTTグループなど、未上場企業では、プリファードネットワークス、アベジャなどです。

 一方で、AI需要は前述のように各分野で拡大し続けています。そこでこの業界内で人材獲得競争が起きています。最近では、日本電気、富士通、ソニー、NTTデータなどのIT系企業が、技術系や研究職の新卒、若手に対して、実績に応じて従来よりも高い報酬を支払う制度を作るようになってきました。目的の一つはAI人材の獲得です。

 例えば、日本電気は2019年10月から、新卒でも学生時代に著名な学会での論文発表などの実績があれば1,000万円を超える報酬を支給する制度を始めます。日本のAI関連技術者の給与は海外に比べて見劣りするため、従来より高い報酬を支払うこれらの制度は、日本のAI開発のレベルアップに貢献するものと評価されます。

 一方で、これら大手IT企業の報酬制度改革は、AIベンチャーにとっては、彼らも従業員の賃金を引き上げなければ重要な人材を獲得できなくなるかもしれないという問題をもたらしています。これは、これらAIベンチャーの給与水準が低いからでもあります。ちなみに、直近年度の有価証券報告書から平均年間給与を見ると、HEROZが576万円(2019年4月期)、ALBERTが645万7,000円(2018年12月期)、Pksha Technologyが659万9,000円(2018年9月期)となっています。大雑把に考えると、各社とも今後数年かけて20~30%以上給与水準を引き上げなければ優秀な人材が獲得できなくなるリスクが生じると思われます。

 今回は、HEROZとALBERTを取り上げます。いずれも投資価値は依然としてあると考えてはいますが、今期以降の業績予想と目標株価を引き下げました。これは主に人材獲得リスクを織り込んだためです。

3.銘柄レポート

HEROZ

2020年4月期1Qは27%増収、7%営業増益

 HEROZの2020年4月期1Q(2019年5-7月期)は、売上高3億7,600万円(前年比27.0%増)、営業利益1億1,100万円(同6.7%増)となりました。

 売上高の約50%がB2C(「将棋ウォーズ」などのアプリゲーム)で、「ポケモンコマスター」の配信を2019年10月から停止することになったため、アイテム課金を前もって停止しました。そのため、今1QのB2Cは推定で前年比5~10%の減収となったと思われます。一方で、売上高の約50%を占めるB2B(企業向けAI開発)は前年比2倍以上になったもようです。このため、全社では比較的高い増収率を実現しました。

 ただし、営業利益は前年比6.7%増と低い伸びにとどまりました。人件費、GPUサーバーへの設備投資に伴う減価償却費増加、採用関連費用の増加が営業利益の圧迫要因となりました。

 2020年4月期通期は、会社側は当初の業績予想、売上高16億3,000万円(前年比18.4%増)、営業利益5億2,000万円(同23.8%増)を変えていません。楽天証券では、AI開発の引き合いが多いため、上方修正があると考えていましたが、技術者の稼働率が高く、前期のように予定外の仕事を受注する余裕がないもようです。このため、楽天証券でも会社予想と同水準の業績を予想します(前回の楽天証券業績予想を引き下げます)。

表1 HEROZの業績

株価 11,960円(2019/10/10)
発行済み株数 6,987千株
時価総額 83,565百万円(2019/10/10)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

グラフ2 HEROZの分野別売上高

単位:百万円
出所:2019年4月期まではヒアリングより楽天証券推定、それ以降は楽天証券予想

重点分野は、エンタテインメント、金融、建設

 会社側はAIアルゴリズム「HEROZ Kishin」を将棋AI(「将棋ウォーズ」に使われている)のようなエンタテインメントだけでなく、建設、金融、メディア、人材、その他に展開しています。

 この中で重点分野は、エンタテインメント、金融、建設です。

 エンタテインメントは、ゲーム用AIをゲーム会社に販売しているほか、HEROZのAIが搭載されたAIカードゲーム「ゼノンザード」(バンダイナムコホールディングス)が9月10日から配信開始されています。また、コーエーテクモホールディングスと共同開発したAIバトルボードゲーム「三国志ヒーローズ」が2019年秋に配信開始される予定です。

 金融では、SMBC日興証券が個人顧客向けに始めた「AI株式ポートフォリオ診断」(2019年3月から)、「AI株価見守りサービス」(2019年7月から)にAIを提供しています。マネックス証券向けには、2018年1月から同社が提供しているFX取引の診断ツールである「トレードカルテFX」にHEROZのAIが搭載されています。

 建設向けでは、竹中工務店向けに建築構造設計支援用AIを開発中です。納入時期は不明ですが、第一段階として構造設計チェック用AIを今期に入ってから納入したと推定されます。

 日経アーキテクチャー2019年6月27日号によれば、竹中工務店がHEROZと2017年から共同開発してきた建築構造設計支援用AIは、「リサーチAI」「構造計画AI」「部材設計AI」と呼ぶ3つのAIを設計の各段階に応じて使い分けます。そして、構造設計に伴う単純作業の約70%を削減することができます。竹中工務店では2020年度(竹中工務店の会計年度では2020年12月期)を目標に開発するということです。

 上記の各分野とも、AI納入時に発生する「初期設定フィー」と、顧客がHEROZ製AIを使っている間に発生する「継続フィー」の2種類の料金を受け取るもようです。AIの納入が増えるにしたがって継続フィーが積み上がることになるため、HEROZにとっては安定的に成長する基盤ができることになります。

楽天証券業績予想を下方修正し、目標株価を引き下げる

 2021年4月期、2022年4月期の楽天証券業績予想を、前回予想から引き下げます。2021年4月期予想は、前回の売上高24億円、営業利益10億6,000万円から、今回は売上高22億円、営業利益8億6,000万円へ、2022年4月期は前回の売上高35億円、営業利益18億3,000万円から、今回は売上高31億円、営業利益14億円へ引き下げます。

 この理由は、人材採用についてリスクを織り込んだこと、賃上げをある程度考慮したことです。ただし、HEROZの場合は、B2C事業からB2B事業へ技術者を移動させていること、建設構造設計支援用AIのような技術者にとって魅力的なプロジェクトがあること、2019年4月末従業員数45名に対して今期の増員を5名としており、採用予定数が少ないことから、賃上げを適宜行えば採用については目標を達成できると思われます。

 今後6〜12カ月間の目標株価を、今回は1万9,000円とします。株価は今1Q決算で営業増益率が低かったことを懸念し急落しました。楽天証券では今回業績予想を下方修正しますが、HEROZの将来性には依然として大きいものがあります。ただし通常、急落後の株価回復には時間がかかるため、今後6~12カ月間の目標株価を1万9,000円とし、前回の3万円から引き下げます。2022年4月期楽天証券予想EPSは137.4円ですが、これに2022年4月期予想営業増益率62.8%、想定PEG(注)2.0~2.5倍から導いた想定PER140倍を当てはめました。

 前回の目標株価は強気すぎましたが、今も投資妙味はあると思われます。

 注:PEG(ペッグ)は成長企業に対して使う投資指標。PEG=PER÷増益率(ここでは営業増益率)と計算する。通常はPEG=1倍が基準になるが、高成長企業のPEGは2~3倍以上へ高くなる傾向がある。

ALBERT

2019年12月期2Qは95%増収、営業利益10倍

 ALBERTの2019年12月期2Q(2019年4-6月期)は、売上高5億8,000万円(前年比94.6%増)、営業利益5,700万円(同9.5倍)でした。

 通信向けではKDDIグループからの受注が多く、スマートフォン関連のデータ分析、マーケティング分析など各種のビッグデータ分析が増加したもようです。自動車向けも、自動運転関連のビッグデータ分析やAI開発(自動運転シミュレーター用AIなど)が増えたもようです。特にトヨタ自動車向けは継続的に増加すると予想されます。

 金融、製造向けも増加しました。金融向けは資本業務提携先の東京海上日動火災保険から自動運転関連の保険関連データ分析が増えているもようです。また、7月には三井住友フィナンシャルグループと業務提携しており、金融向けは今後も増加すると予想されます。

 会社側は2019年12月期業績予想を変更していません。仕事が下期に偏る傾向があり、データサイエンティストやエンジニアの稼働率も高いため、引き合いは多いものの、上乗せは難しいかもしれません。そのため、前回の楽天証券業績予想を引き下げ、会社予想と同じ水準にします。

表2 ALBERTの業績

株価 9,050円(2019/10/10)
発行済み株数 3,226千株
時価総額 29,195百万円(2019/10/10)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表3 ALBERTの産業別売上構成比

単位:%
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

ビッグデータ分析だけでなく、AI開発にも注力

 2020年12月期、2021年12月期も、通信、自動車、金融、製造とバランスの取れた成長が期待できます。

 前述のように、ビッグデータ分析は、通信、自動車、金融などの各分野で需要増加が予想されます。

 また、従来ALBERTの主力事業はビッグデータ分析でAI開発の比重は小さいものでしたが、会社側は今後はAIプロダクト開発に注力する意向です。例えば、金融向けのAIプロダクトの開発を展開したいとしています。

 2019年8月には、AI開発会社であるABEJA(アベジャ)と提携しました。ABEJAのAI開発力を使い、ALBERTのAI画像認識サービス「タクミノメ」の機能を強化する目論見です。

企業成長は続くと予想されるが、楽天証券予想は下方修正する

 このように、ビッグデータ分析、AI開発の需要は引き続き増加が予想されます。

 ただし、今回の楽天証券予想は前回予想から下方修正します。これは、主に採用面に不透明感があるからです。会社側は年間約50名の増員を計画しています。2019年6月末の従業員数は198名でうちデータサイエンティストは161名なので、毎年大きな増員を計画していることになります。

 また、会社側では今のところ大きな給与引き上げはないともしています。この理由は、ALBERTに在籍していれば、各業界のビッグデータ分析を行う経験や、トヨタの自動運転開発に関わることもできるからです。しかし、ビッグデータ分析の市場では給与引き上げが始まっており、AI開発でもいずれ始まると思われます。ALBERTの場合、優秀なデータサイエンティストの数を確保しなければ成長が鈍化する可能性があるため、給与引き上げを十分せずに十分な数のデータサイエンティスト、あるいはAI技術者が集まるのかどうかが今後の注目点になります。

 このような不透明感があるため、楽天証券ではALBERTの業績予想を、2020年12月期は前回の売上高38億円、営業利益8億円から、今回は売上高34億円、営業利益6億円に、2021年12月期は、同じく売上高58億円、営業利益15億円から、売上高46億円、営業利益9億円へ下方修正します。

 今後6~12カ月間の目標株価も前回の1万8,000円から1万2,000円へ引き下げます。2020年12月期の楽天証券予想EPS158.1円に対して、営業増益率66.7%、想定PEG1~1.5倍程度より想定PERを80倍として、これを当てはめました。

 時間がかかるとは思われますが、ある程度の株価上昇が期待できると思われます。

本レポートに掲載した銘柄:HEROZ(4382)ALBERT(3906)