日経平均株価は、しばらく上値の重い展開が続きそうです。ここはじっくりと、割安な銘柄を仕込んでいく局面と考えています。

 今日は、保有不動産に巨額の含み益を有する銘柄への投資アイデアを紹介します。

不動産ブーム続く

 アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が改善しました。都市部のオフィスビルでは空室率の低下、賃料の上昇が続いています。今、都市部は、不動産ブームの様相を呈しています。

都心5区オフィスビルの募集賃料・空室率平均の推移:2004年1月~2019年8月

(出所:三鬼商事より作成、都心5区は東京都千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)

 不動産市況はブームと下落を繰り返しています。2005~2007年にかけて「不動産ミニバブル」と言われるブームがありました。ところが、2008年に不動産ミニバブルは崩壊しました。その後、しばらく不動産市況は低迷しましたが、2014年から再び底打ちし、今、新たなブームに入っています。

賃貸不動産に巨額の含み益が存在する銘柄のリスト

 2010年より、上場企業には、賃貸不動産の時価開示が義務付けられました。それ以来、賃貸不動産に巨額の含み益がある企業が明らかになりました。不動産、電鉄、倉庫業で含み益が大きい上位3社をあげると以下の通りです。

不動産・電鉄・倉庫業で賃貸不動産の含み益が大きい企業(上位3社ずつ):2019年3月末時点

業種 コード 銘柄名 賃貸不動産の含み益


8802 三菱地所 3兆8,984億円
8801 三井不動産 2兆7,496億円
8830 住友不動産 2兆7,033億円

9020 JR東日本 1兆4,661億円
9021 JR西日本 3,741億円
9005 東急電鉄 3,806億円

9301 三菱倉庫 2,662億円
9302 三井倉庫HD 1,198億円
9303 住友倉庫 585億円
出所:2019年3月期有価証券報告書(住友不動産のみ決算短信)より楽天証券経済研究所が作成

 トップの三菱地所は、なんと3兆8,984億円の含み益があります(含み益とは、時価と簿価(帳簿上の価格)の差額のこと)。例えば、1兆円で買った不動産の時価が、1兆3,000億円に値上がりしていたら、そこに3,000億円の含み益が存在することになります。その不動産を時価で売却すると、3,000億円の利益が上がります。

 あり得ないことですが、もし三菱地所が保有する賃貸不動産をすべて時価で売却すると、3兆8,984億円の利益を得られるわけです。

「実質PBR」で割安企業を見つける

「含み益の大きい企業を買えば儲かる」という程、株式投資は単純ではありません。賃貸不動産の時価自体は、開示情報です。そこに存在する含み益は、各社が公表している有価証券報告書を使えば、誰でも計算することのできる数字です。含み益を織り込んで、株価が既に高くなっていれば、投資魅力が高いとは言えません。

 そこで見るべきは、PBR(株価純資産倍率)という指標です。PBRとは、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを示す指標です。資産価値からみて、株価がどの程度割安であるかが分かります。

含み益の大きい各社の10月9日時点の連結PBRと実質PBR

コード 銘柄名 連結PBR (10月9日) 実質PBR (10月9日)
8802 三菱地所 1.61 0.64
8801 三井不動産 1.10 0.62
8830 住友不動産 1.56 0.61
9020 JR東日本 1.28 0.97
9021 JR西日本 1.62 1.31
9005 東急電鉄 1.67 1.27
9301 三菱倉庫 0.78 0.49
9302 三井倉庫HD 0.88 0.32
9303 住友倉庫 0.67 0.56
(出所)各社有価証券報告書(住友不動産のみ決算短信)から楽天証券経済研究所が作成
(注)実質PBRは、実効税率を30%として含み益の70%を自己資本に加えて計算

 ここで、注目していただきたいのは、実質PBRです。解散価値といわれるPBR1倍を下回っている銘柄(赤字部分)は、割安と判断することができます。ただし、ただ含み益を持っていて、株価が資産価値から見て割安というだけでは、積極的に投資する理由とはなりません。足元の業績も見ていく必要があります。

持っているだけでは意味がない、活用してこそ価値がある「含み益」

 では、実質PBRの低い銘柄を買えば、将来値上がりする可能性が高いといえるでしょうか? ハゲタカファンドがたくさんいて、買収が活発に行われる国では、実質PBRが極端に低い企業に対しては、敵対的買収がかかります。すると、株価は即座に上昇します。ただし、日本は敵対的買収が起こりにくい国なので、そのようなことはあまり期待できません。

 あくまでも含み益を活用して、企業価値を高めていく経営をしているか否かが、重要です。含み益の上に、ただあぐらをかいているだけの企業は、投資してもなかなか株価は上がりません。

 そこで、見るべきは、足元の業績です。業績を見て、最高益を更新していく力のある企業かどうか考える必要があります。

今期(2020年3月期)の純利益(会社予想)、最高益更新を予想しているか?

コード 銘柄名 純利益 (会社予想) 前期比
8802 三菱地所 1,370億円 最高益 +1.8%
8801 三井不動産 1,700億円 最高益 +0.8%
8830 住友不動産 1,400億円 最高益 +7.0%
9020 JR東日本 3,010億円 最高益 +2.0%
9021 JR西日本 1,185億円 最高益 +15.3%
9005 東急電鉄 580億円 +0.3%
9301 三菱倉庫 125億円 +8.1%
9302 三井倉庫HD 57億円 最高益 +9.8%
9303 住友倉庫 88億円 +27.3%
(出所:各社決算短信)

投資判断

 三菱地所、三井不動産、住友不動産は、最高益更新が予想されています。それぞれ2~3兆円の含み益を有し、含み益を勘案した実質PBRは、それぞれ0.64・0.62・0.61倍です。この3社は過去には実質PBR1倍前後で評価されることが多かったことを考えると、今の株価は、かなり割安と思います。株価上昇のカタリストがまったく見当たりませんが、割安な株価を考慮して、少しだけ投資しても良いと思います。

 JR東日本・JR西日本は、新幹線が成長ドライバーとなり、最高益更新が続いています。これからも、外国人観光客の増加にともない、新幹線・観光事業が業績拡大に寄与すると判断しています。長期でじっくり投資して良い銘柄と判断しています。

 東急電鉄は、JR各社の新幹線のような成長を牽引する事業がないので、投資魅力は乏しいと思います。アジアで手がけている都市開発が利益貢献するようになれば、投資魅力が高まりますが、それにはまだかなりの時間がかかると思います。

 倉庫3社は、実質PBR0.3~0.6倍と株価がきわめて割安で、ハゲタカファンドがいれば狙われやすいと思います。ただし、ハゲタカファンドはほとんど日本から撤退済みです。そうなると割安でもなかなか買われない状況が続く可能性があります。ただ、注目すべきは、最近物流事業が好調で、利益が伸びていることです。株価上昇のカタリストがまったくありませんが、割安な株価を評価し、倉庫株も少しだけ買ってみても良いと思います。

<参考1>実質PBRの計算方法

 実質PBRとは、各社が保有する含み益の70%を自己資本に加えて、計算したPBRのことです。三菱地所を例にとって説明しましょう。三菱地所には、2019年3月末時点で、3兆8,984億円の含み益が存在します。もし、賃貸不動産をすべて売却すると3兆8,984億円の売却益が得られますが、売却益には税金がかかります。税率を30%と仮定すると、税引き後で、含み益の70%に当たる2兆7,289億円が残り、自己資本に加えられます。実質PBRは、自己資本に含み益の70%に当たる2兆7,289億円を加えて計算したものです。

<参考2>PBRを理解するためのイメージ図

<参考3>なぜ、2006年以降、ハゲタカファンドは日本から撤退したか

 2005年ごろ、割安な含み資産株をハゲタカファンド(買収ファンド)が買い占めて大暴れしたことがあります。巨額の含み益を有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが実質1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。

 ただし、短期的な利益を狙って株主権を濫用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。敵対的買収への嫌悪感が広がり、2006~2007年には上場企業に買収防衛策の導入ブームが起こりました。そこで、ハゲタカファンドは去り、敵対的買収ブームは鎮静化しました。

 今、株主権をたてに企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。企業と対話しながら、企業価値を高めていくことを目指すファンドが増えています。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。

 こうして企業と株主の対話は改善されました。一方、含み資産を持つだけの割安株には、長期投資家も短期投資家も、見向きもしなくなりました。巨額の含み資産を保有しながら、株価が割安な銘柄は、割安なまま放置されるようになりました。

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