米中貿易戦争と景気変動に左右される米半導体

 米中貿易戦争の行方に依然として不透明感が漂う中、その影響が懸念されるのが米半導体業界です。世界の半導体の半分以上は中国が消費していると言われており、米国の半導体メーカーの中には中国に製造工場や合弁会社を有しているものが少なくないからです。

 半導体業界への影響は目に見える形で現れています。半導体メーカーのマイクロン・テクノロジー(MU)は2019年9月26日に2019年6-8月期決算を公表しましたが、その後、株価は下落しました。2019年9-11月期予想のEPS(1株当たり利益)が市場予想を下回った上、中国のスマートフォンメーカーであるファーウェイ向けの販売制限が続く可能性が高まったためです。

 これから本格的な決算発表シーズンに入りますが、半導体メーカーの株価は米中貿易戦争の結末と、景気動向によって大きく左右されるでしょう。

中長期では年成長率約50%が見込まれる市場も

 長期的には成長ストーリーが描ける分野があります。筆者が注目しているのはデータセンター向けのアクセラレーターです。市場調査会社のMARKETS AND MARKETSによると、2017年の市場規模は16億ドル(1ドル107円換算で約1,700億円)でしたが、2023年までには211億9千万ドル(同2兆2,700億ドル)まで拡大する見通しです。年成長率は49.47%に上ります。

 データセンター・アクセラレーターとは、データセンターのパフォーマンスを高めるハードウェアを指します。データセンターのAI化を促し、ディープラーニングや機械学習、ワークロードを高速化するパワーを持ちます。

 各産業からのニーズを背景に、高スペックのデータセンターに対する需要は高まるとみられます。前回のレポート 「成長するゲーム市場の黒船、アップルとアルファベット」で述べたように、ゲーム業界では今後、クラウドをハブにしたストリーミング型ゲームの競争になる兆しが出ています。他の分野でも同様に、重たいデータ処理を高機能のデータセンサーに担わせ、蓄積され続ける様々なデータを効率的に分析・処理する取り組みが予想されます。

 データセンター・アクセラレーター分野でリーディングカンパニーと言えるのは、高速の計算能力を有するプロセッサGPU(画像処理装置)で高いシェアを有するエヌビディア(NVDA)です。同社は2019年3月に、スーパーコンピュータやサーバー向けの通信機器メーカーであるメラノックス・テクノロジーズ(MLNX)との買収契約締結を公表するなど、大量のデータ処理技術をさらに磨く動きを見せています。

 ただし、インテル(INTC)アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)ザイリンクス(XLNX)といった他の半導体メーカー、さらに、アルファベット(GOOGL)マイクロソフト(MSFT)などのクラウドサービス提供企業が新しいチャンスをつかむ可能性もあります。各社は近年、独自のGPUや、用途によってプログラムを書き換えられる半導体チップFPGAなどを活用した製品で、エヌビディアとは異なる強みをアピールしています。各製品には機能面、コスト面で一長一短があるとみられ、今後、各産業でどの製品が普及していくかに注目が集まるでしょう。