9月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 月が替わるタイミングで、相場付きが変化することが本当に多いですね。米中貿易摩擦の再燃でリスクオフ一色だった8月から一変、9月はリスクオン地合いとなりました。米中関係の好転などもあり、米長期金利が明確に底入れ。これをシグナルとしてアンワインド(巻き戻し)が炸裂。債券が売られ、株が買われ、円が売られ、米ドルが買われ、金が売られ、原油が買われ…。

 株式市場で強烈だったのは、金利反転を受けて、ダメダメだった銀行株が急反発する場面を作ったこと。低PBR(株価純資産倍率)のいわゆる“バリュー株”が買われ、一方で“グロース株”が売られる地合いに一変。「過去最大級のリターン・リバーサル」と表現する市場関係者もいたほどでした。

 バリュー株の逆襲が進む場面で、“世界のバリュー株”とも呼べるであろう日本株が米株など先進国株の中でアウトパフォームしました。象徴的だったのが、日経平均株価が3日~17日に10連騰したこと(結果的には海外投資家の先物買い主導だったことが後で判明しましたが)。ただ、その波に乗れなかったのがマザーズ(買戻し要素が無いためですが)。10連騰中の日経平均の騰落率が+6.7%だったのに対し、東証マザーズ指数はわずか+0.4%(しかも勝率は5勝5敗)。

 東証1部の売買代金は急増しましたが、マザーズは変化なし。東証1部とマザーズは、同じ日本株でも“別物”だと改めて感じます。バリュー株優位の地合いで、バリュー株がほぼ皆無のマザーズが上がらないのも仕方ないところでしょう(バリュー株だらけのジャスダックでは、日経ジャスダック平均が5日~26日まで14連騰を記録)。

 そんなマザーズですが、19~26日の5営業日に限り、異様に雰囲気が上向く場面もありました。起点は、マザーズ指数の寄与度が大きいサンバイオの急騰により、バイオ株の連れ高が始まったこと。

 加えて、東証1部のコロプラが、新作ゲーム『ドラゴンクエストウォーク』の大ヒットで売買代金を急増させながら急騰。コロプラやKLabなど東証1部のゲーム株の回転売買で利益を重ねた資金が、マザーズ市場にも巡る資金循環の効果が大きかったように思われます。

9月の売買代金ランキング(人気株)

 9月の月間騰落率は、日経平均株価+5.1%、TOPIX(東証株価指数)5.0%。東証1部銘柄には劣りますが、東証マザーズ指数+4.1%、日経ジャスダック平均+2.6%と新興株も堅調でした。とはいえ、売買代金に関していえば、新興株はさっぱり。東証1部市場の9月の1日平均売買代金は前月比で15%増加しましたが、マザーズ市場は同15%減です。8月は「夏枯れ相場」でしたが、9月も新興株市場は枯れたまま…。

 個別のランクイン銘柄でも流動性低下は進んでいます。例えば、売買代金トップを守ってきたそーせい。前月の売買代金25日移動平均値は92.9億円でしたが、これが49.1億円とほぼ半減し、順位も3位に落ちました。その分をサンバイオとアンジェスがカバーしたとはいえ、全体的に売買ボリュームは小ぶりです。顔ぶれとしては、8月に続いてゲーム株が人気化していたこと、サンバイオ効果でバイオ株全般が復調したことがうかがえました。

市場 コード 銘柄名 9月末終値 時価総額
(億円)
売買代金
25日移動平均値
(億円)
月間騰落率
(%)
東証マザーズ 4592 サンバイオ 4,490 2,325 51.8 34.4%
東証マザーズ 4563 アンジェス 671 718 51.4 10.5%
東証マザーズ 4565 そーせい 2,423 1,865 49.1 6.2%
ジャスダック 7564 ワークマン 7,840 6,417 46.2 35.9%
東証マザーズ 4393 バンクイノベ 3,100 122 32.4 15.1%
東証マザーズ 7803 ブシロード 3,105 499 31.1 6.8%
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,685 4,100 28.1 8.0%
ジャスダック 3758 アエリア 1,300 307 24.8 11.3%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 1,906 825 18.1 5.3%
ジャスダック 4579 ラクオリア 1,408 291 15.2 7.0%
東証マザーズ 4588 オンコリス 2,205 313 13.9 11.4%
東証マザーズ 6067 インパクト 1,744 105 12.6 -16.5%
ジャスダック 2146 UT GROUP 2,309 932 11.9 18.4%
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 3,865 398 11.7 22.1%
東証マザーズ 4382 HEROZ 13,110 916 10.8 -22.2%
ジャスダック 6324 ハーモニック 4,700 4,527 10.5 11.4%
ジャスダック 2702 マクドナルド 5,230 6,954 10.1 4.9%
東証マザーズ 3990 UUUM 5,270 999 10.1 6.9%
東証マザーズ 2121 ミクシィ 2,273 1,778 9.7 2.1%
ジャスダック 4241 アテクト 1,214 53 8.8 -4.0%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 サンバイオ(4592・東証マザーズ)

 13日に発表した今中間期業績は、営業損益が23億円の赤字。期初想定より10億円程度赤字幅は縮小しましたが、バイオ株ですので決算自体は当然ですが材料視されず。9月の株価急騰の起点になったのは、19日の中間決算説明会のタイミングでした。

 説明会の開始前に、慢性期外傷性脳損傷を対象に開発中の再生細胞薬「SB623」について、米FDAに優先審査してもらえる「RMAT」の対象品目に指定されたとの発表でした。米国での認知向上、承認までの時間短縮につながる好材料を受けて、翌20日は18%高に。ひさびさの好材料を受け、月間の売買代金でトップ、月間騰落率も5カ月ぶりのプラスとなりました。

2 アンジェス(4563・東証マザーズ)

 9日に9月安値540円を付け、一旦底入れ。この日の午後、遺伝子治療薬「コラテジェン」について、山田社長が「今後は患者数が圧倒的に多い米国で承認申請する」と発言したことが一部で報じられると急反発しました。

 2月に国内で了承された「コラテジェン」。ただ、日本で決まった収載薬価が市場予想より低く、失望で売られた経緯もありました。市場規模の大きい米国での販売に向けたやる気アピールに加え、月後半のバイオ株人気も後押しに。

3 ワークマン(7564・ジャスダック)

 上昇値幅で前月比2,070円、上昇率で+35.9%と圧巻の上昇を演じた9月のワークマン。月間上昇率では、2001年11月の上場来で最大でした。月初早々、3月28日に付けた分割後高値5,870円を更新すると、モメンタムが付いた株価は手が付けられない状態に。

 毎月月初に月次売上を発表しているワークマン。8月分を発表したのは月初2日でしたが、この数字が超絶サプライズをもたらしました。8月の既存店売上高は、前年同月比54.7%増(7月は同16.3%増)! 猛暑の夏場に、空調ファン付作業服など夏物商品がバカ売れしていたようです。進撃のワークマン…時価総額はマクドナルドに迫りジャスダック2位の6,417億円に。

4 ジーエヌアイ(2160・東証マザーズ)

 今期の業績予想の上方修正を6日に発表。翌9日に商いを伴って急伸し、昨年3月以来となる株価2,000円台奪回に成功しました。

 中国で特発性肺線維症の治療薬「アイスーリュイ」の売上が好調で、売上高を従来予想の71億円から73億円に増額修正。営業利益も従来予想の7.5億円から11.6億円へ大幅増額したことがサプライズになりました。最終黒字転換の確度が高まっています。

5 ラクオリア創薬(4579・ジャスダック)

 月前半は、明治製菓ファルマにライセンス供与した治療薬「ジプラシドン」のフェーズⅢ試験失敗が売り材料に。マイルストン収入が見込めなくなり、今期1.5億円の最終黒字予想を1.0億円の赤字予想に下方修正しました。

 月後半は、18日に発表した創薬支援企業と共同での創薬研究開始、24日に発表した韓国CJヘルスケアとの戦略的提携拡大の買い材料2発が手掛かりに。月の前半「急落」、月の後半「急騰」と、前後半で値動きが真逆な1カ月に。

9月の株価値上がり率ランキング

 9月は東証1部のゲーム株から、コロプラの月間+158.8%、オルトプラスの同+155.8%など強烈な銘柄が輩出されました。その中にあって影の薄い新興株の値上がり銘柄群…とはいえ、時価総額でジャスダック2位のワークマン、マザーズで2位のサンバイオがランクインしたのは驚きでした。日経ジャスダック平均の14連騰に寄与したのは、間違いなくワークマンでしたね。

 全体としての傾向はいつもと同じ。時価総額100億円未満の小型株が20銘柄中10銘柄と半数。ジャスダックの超小型株で、材料も無いはずなのに急騰した銘柄や、この材料でここまで上がるの?な銘柄がかなり多かったように思います。

市場 コード 銘柄名 月間騰落率(%) 9月末終値 前月末終値 時価総額(億円)
ジャスダック 7577 HAPiNS 80.7% 347 192 52
ジャスダック 4240 クラスターテクノ 79.6% 573 319 33
ジャスダック 6757 OSGコーポ 68.9% 1,265 749 70
東証マザーズ 3623 ビリングシス 53.2% 1,529 998 100
東証マザーズ 6580 ライトアップ 47.0% 1,420 966 41
東証マザーズ 3913 sMedio 39.5% 1,038 744 21
ジャスダック 2436 共同PR 38.2% 1,700 1,230 69
ジャスダック 7895 中央化学 37.9% 426 309 90
ジャスダック 8256 プロルート 37.5% 110 80 23
東証マザーズ 4428 シノプス 36.2% 2,629 1,930 159
ジャスダック 7564 ワークマン 35.9% 7,840 5,770 6,417
東証マザーズ 4592 サンバイオ 34.4% 4,490 3,340 2,325
ジャスダック 8938 LCHD 31.6% 817 621 45
東証マザーズ 4424 Amazia 31.3% 3,480 2,650 115
ジャスダック 7777 3Dマトリックス 30.9% 615 470 182
東証マザーズ 7034 プロレド 30.6% 8,920 6,830 463
ジャスダック 4837 シダックス 29.3% 296 229 121
東証マザーズ 6548 旅工房 29.1% 1,322 1,024 63
ジャスダック 4970 東洋合成 28.8% 2,430 1,886 198
東証マザーズ 4399 くふう 27.0% 1,294 1,019 232

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 OSGコーポレーション(6757・ジャスダック)

 9日に発表した中間決算がビッグサプライズに。中間期の営業利益が、期初計画の2.6億円を大幅に上回る3.6億円で着地。浄水器など水関連機器事業は苦戦するも、宅配関連などのフランチャイズ事業が急成長しているようです。営業利益の通期予想は5.8億円で据え置いていますが、上期までの進捗率は6割超と上振れペースといえます。

 決算で想像以上に上がった小型株ですが、発表前の9日終値は764円。この時点の配当利回りは4.6%もあったわけですので、それだけ割安放置されていたとも言えますね。

2 ビリングシステム(3623・東証マザーズ)

 20日に、話題のPayPayとスマホ決算サービス「PayPay」利用加盟店の開拓業務で提携したと発表。「PayPay」利用加盟店が、同社のスマホマルチ決済サービスに追加対応することで利用者の利便性が高まるようです。

 10月の消費増税を前に、キャッシュレス決済に関連する強材料が出たことで翌24日は1日で+30%! 今期は業績の急激悪化が見込まれ、株価も低空飛行状態だっただけに、株価反応も強烈でした。

3 共同PR(2436・ジャスダック)

 超小型の低流動性株から飛び出した“宇宙”ネタに短期筋が群がりました。26日、超小型衛星の実利用に向けた研究開発の第一人者である東京大学大学院教授など4社と共同出資で、宇宙ビジネスを手掛ける「スペース・バジル」を設立したと発表。この新会社で、宇宙空間を利用したマーケティング事業を行うようです。PR会社から宇宙ビジネスの話が出た“意外感”がサプライズですね。

4 プロレド・パートナーズ(7034・東証マザーズ)

 昨年7月のIPO後、これほど順調にセカンダリーで上昇した銘柄は希少です(初値3,585円→9月末終値8,920円)。市場で評価された理由は、期初計画を上回る業績で期待に応え続けてきたから。

 12日に、顧客紹介などでコンサル取扱案件が伸びていることから、今19年10月期の業績予想を上方修正。また、15.7万株の立会外分売の実施も発表しています。今回の分売実施は、東証1部昇格に向けた準備で間違いないでしょう。

5 旅工房(6548・東証マザーズ)

 香港デモに振り回されたネット旅行代理店の小型株です。デモ激化を理由に、8月は月間▲27%。ただ、4日に香港政府トップが「逃亡犯条例」改正案の完全撤回を表明。これを受けてモリモリ切り返し、9月は月間+29%でした。香港旅行・ツアーの需要が回復するのでは?なる期待感が理由だそうです。

10月に注目したい新興株の動き

 新興株の雰囲気変化、その判定基準は「売買が増えるかどうか」です。極度に低下した流動性が回復に向かうのは、いつになるのでしょうか…。9月は指数で見れば上昇したものの、マザーズ市場の1日平均売買代金は前月比15%減。日経平均のブルベア型ETF(上場投資信託)や、狂喜乱舞のコロプラ相場などへ短期資金が向かい、新興株は蚊帳の外でした。

 東証1部の売買ボリュームは底入れしたようにも見えますが、9月に個人投資家が買いポジションを積み上げた銘柄が何だったか? これを検証すると、「日経平均が上がった」という喜ばしそうな話が、実は個人投資家にとっては不幸なんじゃないかとすら思えてきます。

 個別株にETFも加えた全上場銘柄の中で、9月末時点で信用買い残が最も多い銘柄は何か? これを金額ベース(9月27日時点の信用買い残×9月27日終値)で計算してみました。結果、ダントツがSBG(9984)です。投資先の米ウィーワークのIPO(新規公開株)を巡る誤算(結局、IPO撤回を表明)が続き、SBG株もダダ下がり。9月末の信用買い残は2,315万株と今年最大に積み上がり、金額に直すと「1,008億円」と信じられない額になっています。この金額に相当する“塩漬け株”が作られたわけで、SBGのリバウンド抜きに個人投資家のマインド改善は無理と言えます。

 ちなみに2位は…日経平均ダブルインバースETF(1357)。9月に日経平均が意外高を続けるなか、「日経平均が下がるだろう」と想定してこれを買った投資家が急増しました。ダブルインバースETFの信用買い残は5,020万口と、2014年の上場来で最高。信用買い残は金額ベースでは529億円で、これもマザーズの信用買い残トップ3(サンバイオ、そーせい、アンジェス)の合計と同等。そして、このポジションも“塩漬け株”と化しています。「日経平均が下がったら儲かる」投資家が山のようにいます。

 個人投資家の信用買い残の評価損益率だけ見ると、9月は改善方向でした。8月末が▲15.9%だったのに対し、4週連続で改善して9月末は▲13.5%。ただ、それでも水準が低すぎる…昨年2018年の年間平均▲10.2%よりも状況は悪いままです。2018年といえば、東証マザーズ指数が年間▲34%と、アベノミクス相場以降で最悪だった年。その年の平均すら下回っているわけで、急に新興株が良くなる根拠は見当たりません。

 ひとまず、現状の個人投資家のムードを改善させるには「1.SBGが明確にリバウンドすること」「2.日経平均が明確に下がること」が大事に見えますが、2.が起きてしまうと新興株も連れ安するでしょうから2.は却下。となると、残るはSBGのリバウンドだけですかね(ということは、米ハイテク株の上昇次第?)。

 最後に…時期的な経験則を調べますと、過去10年の東証マザーズ指数の10月の月間パフォーマンス平均は「▲1.4%」。10月は分が悪そうですが、11月は同「+3.3%」、12月は同「+1.9%」と好成績を残しています。いわゆる年末のラリー発生、この経験則に淡い期待を抱きつつ、10月は予想外の調整などで生まれた押し目を待つ慎重スタンスが良さそうです。