毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:日本電気(6701)

1.5Gの現状-今春から第1世代の5Gスマホが発売された-

 今回の特集は、5G(第5世代移動通信)です。5Gの最近の動きを概観し、2020年3月から始まる日本の5Gと関連ビジネスを展望したいと思います。銘柄は日本電気を取り上げます。

 今春からアメリカ、韓国、欧州の一部で、5Gの商用サービスが始まっています(まだ限られた地域でのサービスです)。それとともに、サムスン、シャオミ、LG、ZTEなどのスマホメーカーから5Gスマホが発売されています。5Gスマホの第1世代であり、ほとんどの5Gスマホがチップセット(スマホのCPUとその他の半導体、電子部品を組み合わせたモジュール)にクアルコムの「Snapdragon855」と、5Gモデムとして同じくクアルコムの「X50」の組み合わせを採用しています。

 X50の仕様を見ると、周波数はサブ6とミリ波帯の両方が使えます。サブ6(サブシックス)は、6 GHzまでの周波数帯で(5G規格を決める国際会議である3GPPでは、450 MHz~6,000 MHzで定義されている)、この周波数帯は従来4G(LTE/LTE-Advanced)やWi-Fiなどで使用されており使いやすい周波数帯です。ただし、すでに利用が進んでいるため、広い周波数帯域を確保しにくいことが難点です。

 一方ミリ波帯は、30 GHz近辺から100 GHz程度までの周波数(3GPPでは24,250 MHz~52,600 MHzと定義)です。この周波数帯は利用があまり進んでいないため、広い周波数帯域を確保し、高速大容量化に対応しやすいという利点がありますが、一方で、大気中での減衰が大きく(ミリ波は指向性が強く光の性質に近い)、移動通信での使用実績に乏しいため、技術的な課題が多いという難点があります。

 現状では、5Gの利用はサブ6周波数帯から進んでいます。

 X50のスピードはダウンロード(受信)が最大5Gbpsで、アップロード(送信)は不明です。年内に5Gスマホに搭載され始めると言われる第2世代の「X55」は、ダウンロード最大7Gbps、アップロード最大3Gbpsとなっており、今年末に出荷開始予定の第2世代5Gチップセット「Snapdragon855Plus」と組み合わせて5Gスマホに搭載されると思われます。

2.5Gスマホは2020年から販売本格化か

 足元では、スマートフォン市場は減速が続いています。2019年1-3月期のスマートフォン世界出荷台数は前年比6.6%減、4-6月期は同2.3%減でした。2018年暦年は同4.1%減、2018年10-12月期は同4.9%減だったので、昨年から今年前半にかけてマイナス成長が続いています。

 5Gスマホは、このスマートフォン市場の低迷を転換させる可能性のある大きな商材です。そのため、各社とも販売に積極的です。台湾の世界最大の半導体受託製造メーカー、TSMCの月次売上高を見ると、今年6月から勢いよく伸びていますが、これはアップルの新型iPhone、iPhone11シリーズ(9月20日発売、5G非対応)向け7ナノCPUの量産が始まったことだけでなく、スマホメーカー各社の5Gスマホの量産が進んでいることを示していると思われます(TSMCの2019年4-6月期売上高の45%がスマートフォン向け。TSMCはサムスンを除く中高級スマホのCPUのほぼ全てを受託生産している)。

 ただし、5Gのフルスペック(目標値)は、ダウンロードが10Gbps以上、最大20Gbps、アップロードが5Gbps以上(?)、最大10Gbpsとなっており、2019年中に出る5Gスマホはフルスペックとは言えません。

 また、5G規格を決める国際会議である3GPPでは、2018年6月に決定したリリース15において、受信、送信規格が決まりました。しかし、5Gの重要な特徴である同時多接続、低遅延の規格の詳細は、2020年3月に予定されているリリース16で決まります。

 このため、フルスペックの5Gスマホは、2020年春以降に発売されると思われます(フルスペックの5Gチップセットと5Gモデムの出荷開始が2020年春以降と思われます)。特に注目したいのが2020年9月に発売されるであろう2020年版新型iPhoneです。2019年9月発売のiPhone11シリーズ(11、11Pro、11ProMax)は5Gモデムの調達が遅れたため5Gには対応していません。これはアップルのiPhone販売にとってある程度の痛手となると思われます。

 ただし、2019年はまだ5Gサービスエリアが狭く、規格も全ては決まっていないため、5Gスマホと言ってもダウンロードが速いだけの中途半端なものであり、5Gの通信品質も良くないと言われています(ダウンロードは実測で最高1Gbps台なので、5Gの能力が出ているとは言い難い状況ですが、ある程度の速さがあればいいユーザーにはいいと思われます)。

 一方、2020年版新型iPhoneは5Gのフルスペック対応(受信、送信の高速化だけでなく、チップセットが準備できれば同時多接続、低遅延の性能向上)も期待できるかもしれません。あるいは、2020年版では受信、送信の高速化、2021年版では同時多接続、低遅延の新機能が順次追加される可能性もあります。

 更に重要なのは、2020年版新型iPhoneには5ナノCPUが搭載される予定であることです(現在TSMCが5ナノ設備投資を実施中)。5ナノ+5Gフルスペックでスマートフォンの性能が大幅に向上すると思われます。そして、この5ナノCPUは2020年版新型iPhone発売から3~6カ月で他のスマホメーカーのスマートフォンにも搭載されていくと予想されます。

 要するに、2020年9月以降、5Gスマホの中身が劇的に変わる可能性があるのです。仮に、2019年9月発売のiPhone11シリーズがあまり売れなかったとしても(実際には順調に売れているようですが)、2020年版新型iPhoneで十分取り返すことができると思われます。

 私は、2019年から2020年前半にかけての世界のスマホ販売は、スマホメーカー側は積極的であっても、5Gサービスエリアが狭く、5Gスマホの中身(性能)が中途半端であることから、メーカー側が期待するほどは売れない可能性があると考えています。

 しかし2020年秋以降は、少なくとも1~2年以上は世界スマホ出荷台数が5Gによって上向く局面が到来する可能性があると考えています。

表1 スマートフォンのメーカー別出荷台数と世界シェア

単位:100万台
出所:IT Media Mobile 2019年6月6日(元出所はIDC)、IDC Japanプレスリリースより楽天証券作成。

グラフ1 5Gスマートフォン世界出荷台数予測

単位:万台
出所:CNET JAPAN(元出所はCanalys)

グラフ2 TSMCの月次売上高:前年比

単位:%
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 TSMCの月次売上高

単位:100万台湾ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

3.5G関連株の投資妙味

 前述のような5G市場の立ち上がり予想から、5G関連銘柄への影響を考えてみます。

5G基地局では日本電気と富士ソフトに注目したい

 まず、5G基地局投資です。日本では、2020年3月から東京から、あるいは東京、大阪、名古屋から5Gサービスがスタートすると思われますが、日本でサービスエリアが拡大するのは2021年になってからと思われます。

 そこで、日本の5G基地局投資が本格化するのは、2021年3月期からと思われます。これは日本電気の予想ですが、日本の5G基地局投資は2020年3月期の数十億円の水準から2021年3月期は300~400億円、2022年3月期には約1,200億円へ急増し、その後2026年3月期の約2,500億円まで安定成長が続くと予想されます。この中で日本電気は伝統的にNTTドコモ向けが強いこともあり、30~40%程度の市場シェアが期待できると思われます(競合は富士通、ノキア、エリクソン、サムスンだが、日本電気=サムスン、富士通=エリクソンは提携関係にある)。日本電気の予想では5G基地局投資のピークは2026年3月期ですから、日本電気や後述の富士ソフトのような5G基地局関連株へ投資する妙味は十分あると思われます。

 5G基地局投資が2021年3月期から本格的に伸びるとすると、基地局用ソフト開発を手掛けるソフト会社、富士ソフト、アイ・エス・ビーなどの業績へも、来期からプラス寄与が予想されます。そして、来期から数年間、5G向けソフト開発の伸びが続くと予想されます。

5G用計測器ではアンリツ

 アンリツでは5G用計測器の需要のピークを2022~2023年と予想しています。ただし、ローカル5G(地方自治体や大手企業が免許を取って地域的な5Gを運営すること)のように4G時代にはなかった5G独自の付加価値が拡大すれば、ピークが先延ばしされる可能性があります。アンリツには、引き続き投資妙味があると思われます。

電子部品、半導体関連への恩恵も大きい。村田製作所、TDK、アドバンテスト

 2020年秋からの5Gスマホの性能充実と販売本格化が実現すると、スマホ向け電子部品大手の村田製作所、TDKにも恩恵があると予想されます。村田製作所はチップ積層セラミックコンデンサ、樹脂多層基板「メトロサーク」、アンテナ周りの電子部品などの伸びが、TDKは高周波数帯を使うことで問題になる電力消費の多さに対応した電池の高性能化、大型化が業績にプラス要因になると思われます。

 今下期のスマホの売れ行きがリスク要因になりますが、2020年秋以降の5Gスマホ販売拡大を予想して、村田製作所、TDKに、1年以上の長期投資を検討してもよいと思われます。

 また、5G用半導体の高性能化に伴って、テスタ需要は傾向的に拡大すると予想されます。アドバンテストの投資妙味は引き続き大きいと思われます。

5Gに対応したバックボーンの増強も続こう。ネットワークインテグレーターで、日本電気、伊藤忠テクノソリューションズ

 2020年からの日本の5Gの本格化に備えて、日本の基幹通信網(バックボーン)の増強も続くと思われます。大手ITサービス会社であり、大手ネットワークインテグレーターである日本電気、伊藤忠テクノソリューションズに投資妙味を感じます。

表2 5G関連銘柄

出所:楽天証券作成

4.注目銘柄:日本電気

大手ITサービス会社。前期に構造改革を実施

 日本電気は、大手ITサービス会社であり、大手通信機器・コンピュータメーカーでもあります。前期2019年3月期までの数年間業績は低水準でしたが、前期に500億円の構造改革(内訳は資産クリーンアップ120億円、将来収益改善のための投資30億円、構造改革費用350億円)を行いました。このため、前期は営業減益となりましたが、今期はこの一時費用がなくなること、構造改革の効果255億円が期待できることから、業績回復が見込まれます。

 実際には、2020年3月期1Q(2019年4-6月期)は、売上高6,538億5,500万円(前年比6.7%増)、営業利益54億1,700万円(前1Qは107億円の赤字)と順調でした。会社側によれば、今1Q営業利益は会社予想より約50億円上振れしました。パブリック(公共向け情報システムなど)、エンタープライズ(企業向け情報システムなど)、ネットワークサービス(通信向け)、システムプラットフォーム(サーバ/ストレージ、パソコン、ネットワーク製品など)、グローバル(海外)、その他のうち、その他を除く全セグメントの業績が改善しました。

 会社側は今2Q以降を保守的に見ていますが、今期会社予想業績(営業利益1,100億円、前年比88.1%増)は上方修正の余地がありそうです。

ネットワークサービスの成長に期待

 前述したように、来期2021年3月期以降、5G基地局ビジネスが急速に立ち上がる見込みです。大手基地局メーカーである日本電気にも恩恵が大きいと予想されます。また、5Gに向けたバックボーン増強や、中長期的にはパブリック、エンタープライズも含めた5G応用システムの構築などへの展開が期待できます。

AI顔認証技術では世界トップの評価を受ける

 日本電気はAI(人工知能)の情報システムへの応用を早くから行ってきましたが、特にAIを使った顔認証技術では世界最高の評価を受けています。今年10月には、米国国立標準技術研究所より顔認証技術のベンチマークテストにおいて世界第1位の評価を獲得しましたが、1位はこれで5回目です。1,200万人分の静止画の認証エラー率0.5%という高性能が評価されました。

 日本電気のAI顔認証システムは、現在までにコンサートの入場者管理(2014年から「ももいろクローバーZ」「宇多田ヒカル」などのライブに導入された)に採用されており、空港のゲート管理(2020年に成田空港などで開始)、2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会関係者の入退場チェックなどへの導入が決まっています。AI顔認証システムの年間売上高はハードウェアを入れて推定数十億円とまだ小さいですが、日本電気の情報システムの競争力として重要なものになっています。

 また、AIの医療への応用(特に、創薬への応用)を進めています。

中長期で投資妙味を感じる

 業績は順調で、今期会社予想営業利益は1,100億円(前年比88.1%増)、来期楽天証券予想営業利益は1,350億円(同22.7%増)です。今後6~12カ月間の目標株価を5,800円とします。2021年3月期楽天証券予想EPS308.0円に想定PER20倍弱を当てはめました。中長期での投資妙味を感じます。

表3 日本電気の業績

株価 4,610円(2019/10/3)
発行済み株数 259,708千株
時価総額 1,197,254百万円(2019/10/3)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表4 日本電気のセグメント別業績

単位:億円
出所:日本電気資料より楽天証券作成。
注:調整後営業利益はIFRS(国際会計基準)の営業利益から買収関連費用を除いたもの。

本レポートに掲載した銘柄:日本電気(6701)