中央銀行が輪転機を回して債券市場を買い支え、信用不安が広がるまでそれを続けていく手法
現在の世界経済は、中央銀行が紙幣を増刷して債券市場を買い支え、信用不安が広がるまでそれを続けていくという手法で回っている。しかし、これはどこかで限界がくる。バブルが延命すればするほど、その副作用は大きくなるだろう。
世界中に大規模な金融・財政刺激策があったにもかかわらず、1980年以降にインフレが収束傾向となった原因は、大きな戦争(国家最大の公共事業)がなかったからだと言われているが、要因は複合的であろう。
歴史を振り返ると、米国では、FRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシートが1930年から1948年までに10倍に膨れ上がり、それからしばらく500億ドル周辺で安定するも、1971年から2008年まで着々と増加していき、さらにそこから2016年まで爆増した。
米連邦準備制度の月次総資産(1921~2017年)
FRBのバランスシートの拡大の後、何が起こるかは1930年代の歴史が証明している。世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツを率いるレイ・ダリオは、「歴史は繰り返す。私たちはまだ経験したことがないが、現在、1930年代に起こった多くの出来事を経験しているところである。現在の世界の状況は1930年代終わりと同じパターンで動いている。」という歴史大局観を自身のブログである「リンクトイン」で述べている。
究極の逆張り投資家の異名を持つマーク・ファーバーは、
「世界輸出に占める中国のシェアは、1980年には1%だったのが現在は13%を超えるまでに増えた(その競争力によって)。そのため、1980年に12%だった先進国のインフレ率が現在は1%周辺に落ち着いたのだ。
「中国のデフレ輸出」という言葉を作ったエコノミストがいる。しかし、私にいわせれば、中国で製造・輸出された消費財の増大が先進諸国に消費財デフレ(そして賃金の頭打ち・低下)をもたらしたのとまさに同じようなことが、19世紀末から20世紀前半にかけて米大陸やオーストラリアであった。
新たな農場が開かれ、生産性の著しい向上(トラクターなど)と相まって、農産物価格が低下し(1930年代には暴落)、ひいては農業従事者に困窮をもたらしたのだ。1930年代以前の米国では、農業が他のどの部門よりも多くの人々を雇用していた。」
と述べているが、これは、レイ・ダリオの歴史大局観とも重なる話である。
G7国のインフレと中国の世界輸出シェア(1980~2018年)
政府が過剰に市場に介入してくると、ろくなことがない。下グラフは「ラーン曲線」と呼ばれ、GDP(国内総生産)成長率と政府規模を比較したものだが、小さな政府はGDP成長率に大きく貢献し、大きな政府はほとんどGDP成長率に貢献しないことを証明したものである。「ラーン曲線」を作ったラーンは「国家の適正規模はGDP比15~25%である」ことを立証した。
ラーン曲線(GDP成長率と政府規模を比較)
史上最少の参加者による史上最大のバブル
最近、証券会社の方から、「いったい、今の米国株は誰が買っているのですか?」という電話がかかってくることが多い。市場の出来高の少なさを嘆いたあとに出てくるセリフである。現在の米国株の上げは、PPT(株価下落防止チーム)のPKO(価格維持操作)・企業の自社株買い・M&A(企業の合併・買収)という3つの要因であげている非常にいびつな相場である。
S&P500の自社株買い2018年は過去最高の2,860億ドル
GDPに対する企業債務の割合(1968年9月30日~2018年6月30日)
以前、「史上最少の参加者による史上最大のバブル」というレポートを書いたが、米国のミレニアル世代の多くはおカネを持っていない。大部分の市民はバブルに関与していない。ほとんどの人に貯蓄がなく、そのため投資ができないからだ。
S&P500の購入に必要な労働時間(1964~2019年)
自動車ローン残高(2003~2019年)
「不動産の場合、住宅やマンションに対して賃金がデフレとなった。これは住宅が人口の大部分、特にミレニアル世代には『手が届かなくなった』ことを意味する。
先ほど米若年世帯の1989~2016年純資産中央値について簡単に触れた。過去20年間に実質ベースで41%減少している。実質ベースで賃金が、ほとんど伸びない、あるいは緩やかに下げた一方で、資産価格が上昇した。
これは、ますます多くの若年世帯が家を借りる必要が出てきたことを意味しており、それが家賃を押し上げた。サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、ニューポートビーチ、ロサンゼルスといった都市、またシリコンバレーで、若年層が賃金の約50%を家賃に使っているのは珍しいことではない。
これはミレニアル世代で貯蓄の不足につながる。少ない貯蓄で現金・債券・株式から得られるリターンは雀の涙が関の山だ。しかも、どれも賃金に比べて割高である。
こうした状況は、ほとんど収入を補うため若者を投機に走らせているようなものだ。最初はドットコム株に、次は2007年まで高レバレッジで住宅に、そして最近は暗号通貨と投機的ハイテク株に……。そのたびに投機の波は小口参加者の涙で終わる。現在の株式・信用バブルも例外ではないだろう。
2007~2008年の金融危機では、多額のローンを抱えていた若い住宅所有者が特に大打撃を受け、家を失った。ブレッシアーニ=トゥローニは『真っ先に大打撃を被るのは、得てして大多数の小規模な土地所有者・事業家・商人・資本家である。一方、大尽連中は、しばらくの間、その危機に耐えて利益を得る。そして、実際に私財を増やしているのだ』と見抜いていた。
これは、間違いなく2007~2008年の金融危機にも当てはまる。特に事後に導入された各種救済策とQE(量的緩和)政策のおかげである。」(マーク・ファーバー)
ウォーレン・バフェットは1,220億ドルの現金を温存している。これは、危機が来ていると彼が信じていることを明確に示している
ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイの現金比率は2016年以降上昇し、現在手元現金が約12兆円に達している。これは次の危機に備えた動きだろう。
ウォーレン・バフェットは、会社の資金を株式市場に投入する代わりに、1,220億ドルを現金保有することにした。これは、危機が来ていると彼が信じていることを明確に示している。
ウォーレン・バフェットは暴落する前に株を売り、暴落すると株を買うという逆張り投資家だ。これは、なかなかできることではない。人間の心理に素直に従って投資行動をすると、暴落する前に株を買い、暴落すると株を売らざるを得ないというバフェットと逆の行動になってしまうのである。
バークシャー・ハサウェイの手元現金
バフェット指標(株の時価総額÷GDP)
バークシャー・ハサウェイの現金ポジションとS&P500の推移
(バークシャー・ハサウェイの現金ポジションの前回のピークは、金融危機直前の2007年末の433億ドルである。2008年にはリーマン危機の最中、ゴールドマンサックスの株を安く手に入れて大もうけしたが、2008年末の現金ポジションは255億ドルに減っていた。)
ウォーレン・バフェットは、「現在の株式市場は買うものがなく、IPO(新規株式公開)にも全く関心がない」と述べており、自社株買いより現金の温存を優先している。
「株は単純。みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい」、「時代遅れになるような原則は、原則ではない。」、「近視眼的(マイオピック)な投資では理性を失い、結果としてお金と時間を失う。」、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものです。」というウォーレン・バフェットの言葉を、我々は今一度考えなくてはいけない投資環境の中にいるのである。
10月2日(水)のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS先取りマーケットレビュー』は、楽天証券株式事業部外国株チームの紙田智弘氏とともに、「ウォーレン・バフェットの投資哲学に学ぼう!」というテーマで話をしてみた。
番組ホームページから紙田智弘氏と筆者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。
10月2日:楽天証券PRESENTS先取りマーケットレビュー
20周年記念投資セミナー「2020年に向けての相場展望と投資ストラテジー」石原順(12:00~13:00)
今週10月5日土曜日の楽天証券サービス開始20周年記念投資セミナー(東京)で、「2020年に向けての相場展望と投資ストラテジー」と題してミニセミナー(12:00~13:00)をやります。
20周年セミナーに参加されるお客様は、ぜひご参加ください。
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