ウォーレン・バフェット氏の言葉を聞くため世界中から何万人もの投資家がオマハに集まる

 米国株投資で高い実績をあげたウォーレン・バフェット氏は、「オマハの賢人」として、世界中で知られています。彼の言葉を直接聞こうと、米国中西部のオマハで行われる運用報告会には、世界中から何万人もの投資家が集まります。バフェット氏は、この運用報告会で、次々と出てくる質問に1つ1つ丁寧に答え、その発言は、世界中で報道されます。

 バフェット氏は日本でも有名で、彼の運用手法について書かれた「バフェット本」が書店にたくさん並んでいます。ただし、バフェット氏自身は、自ら投資教育の本を書いたことはありません。彼が書き続けているのは、自ら運用している投資会社(バークシャー・ハサウェイ)の株主(投資家)に当てた手紙だけです。それを参考に、バフェット氏の投資手法を研究した本がたくさん出版されているということです。

時代とともに変わる運用手法、若い頃はバリュー重視

「バフェット氏の運用手法」と一言でいっても、若年期と壮年期で異なります。無名だった若年期にはハゲタカ・ファンド張りのディープ・バリュー(激安)株投資で荒稼ぎしていたこともあります。運用手法の根底に、バリュー(割安)重視があります。ただし、年とともに、グロース(成長)を重視しました。

 ただ、根底には、常にバリューを考えながら投資銘柄を選ぶ慎重さがあります。運用で「勝つ」ことを考えつつも、常に「大負け」しないようにリスクをコントロールしてきたからです。それが、グロースを重視しつつ、バリューも見る運用手法につながっていったと思います。日本の個人投資家にとって、参考になる知恵がバフェット氏の言葉にたくさん詰まっていると思います。

ウォーレン・バフェット氏の言葉に学ぶ

 バリュー(割安株)運用で高い運用利回りを上げて有名になったウォーレン・バフェット氏の、若い頃の言葉を紹介する著作を、私は原書で読んだことがあります。『Warren Buffett's Ground Rules(ウォーレン・バフェットのグラウンド・ルール)』(Jeremy C. Miller著)です。バフェット氏が若い頃、投資家向けに書いた手紙が紹介されています。私が、25年のファンドマネージャー時代にやってきたバリュー運用に通じる極意が、若きバフェットによって熱く語られており、感動しました。

 私が強く共感した言葉を、2つ紹介します(日本語訳は窪田)。

1.「企業の本源的価値が分かっていれば、それを生かして有利にトレードできる。株価が、本源的価値と比較して、ばかばかしい程、安い水準まで売られた時に買うことで、利益が得られる」

2.「最近、新時代の投資哲学を語る人が増えた。その哲学によると、木々が空まで伸びるように上昇し続ける株が出るという。そんな哲学に乗って割高株を高値づかみする位なら、過度に保守的といわれてペナルティを課せられた方がましだ」

 私は、今の日本株に、本源的価値を割り込んでいる株はたくさんあると思います。地味で不人気だが、財務内容が良く、キャッシュフローが潤沢で、安定高収益の会社を探せばいいわけです。価値が高いのに、不人気で株が割安になっているものは、結構あります。そこで今日は、「もしバフェ銘柄」、つまり「もしバフェットが日本株ファンドマネージャーだったら買うかもしれない銘柄」を探してみたいと思います。

「もしバフェ」銘柄候補 日本たばこ産業、ブリヂストン

コード 銘柄名 株価 配当
利回り
PER PBR 決算期 最低
投資額
2914 日本たばこ産業 2,400.0 6.4 11.8 1.6 12月 240,000
5108 ブリヂストン 4,266.0 3.8 10.7 1.3 12月 426,600
8306 三菱UFJ FG 550.0 4.5 7.9 0.4 3月 55,000
9020 JR東日本 10,725.0 1.6 13.2 1.3 3月 1,072,500
9433 KDDI 2,935.5 3.8 11.1 1.6 3月 293,550
【単位】株価:円 配当利回り:% PER:倍 PBR:倍 最低投資額:円
出所:株価・配当利回りは10月2日時点。配当利回りは、1株当たり年間配当金(今期会社予想)を株価で割って算出。三菱UFJのみ会社目標を使用。PERは株価を1株当たり利益(今期会社予想)で割って算出。今期とは、日本たばこ産業・ブリヂストンでは2019年12月期、三菱UFJ・JR東日本・KDDIでは2020年3月期のこと

 上記5銘柄は、バフェットの投資基準になるべく合うと考えるものを、筆者が選別したものです。以下、コメントします。

【1】日本たばこ産業(JT)

 JTは、12月決算銘柄です。年1回、12月末時点で1年以上継続保有している株主は、株主優待品(自社製品・食品など)を贈ってもらう権利が得られます。配当を得る権利は6月末と12月末の株主に与えられます。予想配当利回り(会社予想ベース)は、10月2日時点で、6.4%です。

 JTは、株式市場で不人気ですが、私は、安定高収益の高配当株として、評価しています。詳しくは、以下のレポートを参照してください。

8月29日:配当利回り6.9%、株主優待でも人気のJT

【2】ブリヂストン

 私は、自動車株でもっとも投資魅力が高いのはトヨタ自動車(7203)だと思っています。ただし、トヨタ以上に、ブリヂストンの方が、より安定的に高収益をあげる力があると思っています。それが営業利益率の違いにも表れています。トヨタ8.1%(2020年3月期会社予想ベース)に対し、ブリヂストンは10.4%(2019年12月期会社予想ベース)と、ブリヂストンの方が高い利益率となっています。将来を考えても、ブリヂストンの方が安定的に高い利益率をあげていくと期待しています。それには、3つの理由があります。

◆ブリヂストンの方がトヨタより、新車販売変動の影響が小さい
 自動車販売には好不況の波があり、トヨタの利益はその影響を受けて大きく変動します。ブリヂストンの業績も新車販売の影響を受けますが、その影響は、トヨタほど大きくはありません。タイヤメーカーでは、更新タイヤ(取替え用のタイヤ)の利益率が、新車用タイヤより高く、更新タイヤが重要な収益源となっているからです。更新タイヤは、世界の自動車保有台数が拡大しているために、新興国を中心に安定的に成長しています。

◆電気自動車が主流になるとトヨタはダメージを受けるが、ブリヂストンは影響が小さい
 電気自動車が主流になると、ガソリン車やハイブリッド車に強いトヨタなど、日本車メーカーに逆風です。このリスクと、タイヤメーカーは無縁です。次世代自動車が何になろうと、タイヤが必要なことは変わらないからです。

◆ブリヂストンの方がトヨタより、米保護主義のターゲットとなりにくい
 日本車にとって最も重要な市場である米国で、トランプ米大統領が保護貿易主義を前面に出していることが、日本の自動車メーカーにとってリスクとなっています。トランプ大統領による日本の自動車産業批判は、事実に基づかない部分が多いといえます。
 ただ、米国が日本の自動車を叩き始めると、そこからは、理屈の通用しない世界に入ります。2009~10年に北米でトヨタ・バッシング(叩き)がヒートアップしたことがありました。トヨタ車に特に技術的な問題がなかったにもかかわらず、トヨタ車は急加速するので危険というバッシングが全米に広がり、トヨタは大規模な自主的リコールに追い込まれ、巨額の課徴金を支払わされました。

 ブリヂストンも、バッシングの対象となるリスクがないとは言えません。ただし、今はそのリスクは低いと考えられます。ブリヂストンは、タイヤ世界首位で、日本車だけでなく、アメリカ車にも使われています。世界中の幅広いメーカーで使用されるタイヤであるため、日本車のようにターゲットとはなりにくいと考えられます。

 ブリヂストンのタイヤは、高品質・高価格のものが多く、米国内で価格破壊を先導しているわけではありません。米国でたびたび問題になるのは、低価格の中国製タイヤの輸入が増えることです。今後、政治的にターゲットになるとしたら中国製タイヤの輸入で、米国生産比率の高い(輸入もある)ブリヂストン・タイヤはターゲットとなるリスクが低いと考えられます。

 万一、米国が輸入タイヤの関税を引き上げる場合、中国タイヤが一番大きなダメージを受けると考えられます。ブリヂストンも、輸入タイヤではダメージを受けますが、安い中国タイヤの輸入が減ると、米国内でタイヤ価格が上昇するので、米国内で生産するブリヂストン・タイヤには恩恵が及びます。

 タイヤで米国が保護主義を強める場合、ターゲットになるのは中国から輸入される低価格のタイヤと考えられます。仮に輸入タイヤの関税が引き上げられるとすると、中国タイヤが値上がりすることになります。ブリヂストンは、米国での現地生産が多いので、影響は相対的に小さいと考えられます。米国でタイヤ価格が上がれば、そちらのメリットを受けることもできます。

「もしバフェ」銘柄候補 三菱UFJ FG、JR東日本、KDDI

【3】三菱UFJ FG

 長期金利をゼロ近辺に固定する金融政策が長期化することで、国内では、銀行業の利ざや(貸出金利と預金金利の差)縮小が続いています。国内業務に特化した地方銀行は、生き残りが難しくなってきます。ただし、三菱UFJ FGは、利ざやの厚い海外での与信拡大と、業務の多角化(信託・証券・リース・消費者金融など)によって、高収益を維持していくと予想しています。

  バフェット氏は、リーマンショックの時に、過度に売られた米国の金融株を買い、その戻りで大きなリターンを得ています。収益基盤がしっかりしている割に、株価が割安な日本のメガバンクも、投資基準にかなうのではないかと、私は考えます。

  三菱UFJについて、さらに詳しいレポートをお読みになりたい方は、以下をご参照ください。

7月31日:配当利回り4.7%!三菱UFJの投資価値を見直す

【4】JR東日本

 バフェット氏は、インフラを支配する企業に関心を持っています。日本でいうと、インフラを支配している圧倒的な強みを持っているのがJR東日本です。観光ブームの恩恵で、新幹線や観光列車、関連ビジネス(ホテルなど)の需要拡大で恩恵を受けています。新幹線が牽引役となって、最高益の更新が続いてきました。新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、今や「国民の足」として、利用が拡大しています。そこに、外国人観光客の利用拡大がさらに追い風となっています。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与しています。

 また、JR東日本は、事実上、日本で最強の不動産会社であると考えています。日本の不動産価格は、JR駅周辺が一番高く、遠ざかるほど安くなる構造です。駅周辺に持つ鉄道用地を、不動産事業に転換することで、利益を拡大してきました。JR東日本の有価証券報告書によると、同社は、2019年3月末時点で、賃貸不動産の含み益が、1兆3,464億円もあります。

 有利な立地を生かした小売業(駅ナカ)やカード事業(Suica)でも高い競争力を持っています。成長率は必ずしも高くないが、安定的に成長していく企業になると予想しています。

【5】KDDI

 携帯電話事業の競争激化懸念で株価は上値が重くなっています。ただし、KDDIは、世界景気に影響されずに安定成長を続け、2020年3月期で18期連続の増配を予定しています。ケータイ事業のほか、さまざまなITサービス(ライフデザイン事業)を手がけ、これからも安定高収益を維持していくと予想しています。