想定外の動きを見せた為替

 先週9月12日のECB(欧州中央銀行)理事会後のドラギ総裁の記者会見を受けて、ユーロが急反発。そして、米国が中国との暫定合意を検討との報道によって、ドル/円は108円台に上昇。これらは予想外の出来事でした。

 そして、14日(土)にはサウジアラビアの石油施設が攻撃されたことを受けて、週明けは原油が急上昇したことから、マーケットの混迷度は一段と高まった状況となりました。

 予想外の出来事だったECB理事会後のユーロの動き。これは、今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)後のマーケットの動きを想定する上でも参考になります。

ECBは量的緩和再開でユーロ売り

 ECBは、予想通り利下げを決定しました。銀行からお金を預かる際の金利を現在の▲0.4%から▲0.5%に引き下げ、さらに一歩踏み込んだ政策を決定しました。2018年12月に停止していた量的緩和を11月以降、月間200億ユーロのペースで再開することを決定したのです。そして、先行きの方針(フォワードガイダンス)について、「2%弱の物価目標の達成が見通せるまでは、金利を現在の水準か、より低い水準に保ち、時期にこだわらずに低金利政策を続ける」方針を示しました。緩和の期限を設けていないことから、これはかなり突っ込んだ方針です。これらの総合的な金融緩和政策を受けて、発表後はドイツの金利は下がり、ユーロ/ドルは2019年の最安値近辺の1.09ドル台前半まで売られました。

 ところが、その後、金利もユーロも反転して急上昇しました。その理由は、量的緩和再開について、ドイツやオランダだけでなくフランスやオーストリアなど、理事会メンバー25人のうち、約10人が慎重か反対だったことが分かり、さらに量的緩和に必要な国債不足から、その持続性について懐疑的な見方が広がったからです。

 その後もオーストリア中銀総裁やドイツ連銀総裁は量的緩和再開を批判しています。やり過ぎだという意見のようです。

 また、ドイツの大衆紙ビルトは、ECBのマイナス金利の深掘り決定を批判し、ドラキュラ伯爵ならぬ「ドラギラ伯爵」がドイツの預金者の口座を「吸い尽くそうとしている」と揶揄(やゆ)した記事を掲載しました。

 金融緩和パッケージは、かなり踏み込んだ内容でしたが全会一致ではなく、批判意見も相次いだことから、投資家は国債不足などの技術的な問題だけでなく、さらなる金融緩和の限界を感じ取ったのかもしれません。ドラギECB総裁も記者会見で、経済回復のためには「財政政策が責任を果たすべき時期に来ている」と発言。金融政策の限界を感じ始めているのかもしれません。また付け加えて、「(理事会内で意見対立はあるが)財政政策が重要だという点では一致した」と発言し、報道陣の笑いを誘ったようですが、今後の金融政策の舵(かじ)取りの難しさを考えると笑える話ではありません。

 金融緩和パッケージを断行したドラギ総裁は、ECB内に対立を残したまま、2019年10月末に退任となります。後任は前IMF(国際通貨基金)専務理事のラガルド氏が次期総裁となりますが、かなり難しいスタートになりそうです。

FRBは原油上昇に影響される?

 今週は9月17~18日にFRB(米連邦準備制度理事会)と、18~19日に日銀の金融政策委員会があります。FRBは0.25%の利下げ、日銀は変更なしとの見方が大勢ですが、先週のECB後のユーロのように上下に振れる可能性があるため、注意が必要です。

 また、原油上昇という新たな要因が加わったことが、政策判断にどのように影響するかにも注目です。

 例えば、FRBが予想通り利下げをしても、パウエル議長が記者会見で、中東の地政学リスクや原油上昇によるインフレ上昇を警戒し、追加利下げについては様子見姿勢を示唆する発言をすれば、先週のユーロの動きのように利下げでドルが売られた後、急反発するという動きになることも予想されます。この場合、金利は上昇し、株は売られ、ドル高が予想されます。

 逆に、原油上昇の影響がインフレ懸念よりも景気減速懸念の方が上回るとFRBが判断すれば、パウエル議長は追加利下げについて、含みを残すかもしれません。そうなれば、先週反発した金利は低下し、株にはサポート材料となり、ドル安が予想されます。

 ただ、今回のECB理事会で追加緩和について抵抗が強かったように、FRB内でも反対意見が強いとマーケットが感じれば、逆の動きとなりそうです。

 また、サプライズのシナリオも想定されます。直近のインフレ指標がやや強い数字が出ていることから、もし、FRBがインフレを警戒して今回の利下げを見送れば、マーケットにとってサプライズとなり、金利・株・ドルの振幅はかなり大きくなることが予想されます。その場合はすかさず、トランプ米大統領からのFRB批判が発せられ、場合によっては、利下げを誘引するために米中暫定合意を後退させるかもしれません。

 17日、サウジのエネルギー相は、石油の生産能力は9月末までに元の水準に戻り、石油輸出量が減少することはないとの見通しを発表しました。この報道によって急騰した原油は下がりましたが、施設攻撃前より高い水準となっています。また、トランプ大統領はサウジの石油施設攻撃に対して、イランが関与していると批判したことから中東の地政学リスクが高まっています。今のところ、トランプ大統領は戦争を望まないと慎重姿勢のため、落ち着いた状況となっています。しかし、中東の地政学リスクについては引き続き警戒する必要がありそうです。