8月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 8月は、3カ月前(5月)と似たような理由でリスクオフ相場に一変。トランプ米大統領の「9月1日から3,000億ドル規模の中国製品に対して10%の関税を課す」ツイートをきっかけに、米中貿易摩擦懸念が再燃します。その後も中国の元安誘導(人民元安)が警戒されたり、アルゼンチンの株価暴落が嫌気されたり、米国債の逆イールド発生でリセッション懸念と騒いだり…。

 いずれも突っ込みどころ満載の売りネタですが、買い手掛かりに乏しく、売買ボリュームが落ちているなかではこの手の仮需売りで崩れやすいのも仕方ないところ(それだけに買戻しでその後リカバーしますが)。

 8月の新興株市場は、東証マザーズ指数の月間騰落率が▲7.0%、日経ジャスダック平均が▲5.4%と厳しい地合いの1カ月でした。この間の日経平均株価が▲3.8%、TOPIX(東証株価指数)が▲3.4%。買戻し要素がほぼ無い分、自律反発力が東証1部より弱かったのが新興株といえそうです。

 前月のコラムで、過去10年(2009~2018年)の東証マザーズ指数の8月月間騰落率平均は▲4.4%と、「8月はパフォーマンスが悪いという季節性がある」ことを紹介しました。

 今年も8月はダメでしたね。米中摩擦を理由にしたリスクオフに弱いのが新興株市場(流動性が低く、ボラティリティが高いため)ですが、その他でも日本の新興株ならではの弱点から崩れる場面もありました。

 マザーズのアンジェスが27~29日にかけて急落。信用残の多い人気銘柄だったアンジェスの急落が、人気化していた(信用買い残の多い)ゲーム株など、一見すると何の関係も無い銘柄群に連鎖する“アンジェスショック”が起きたことも無視できません。

8月の売買代金ランキング(人気株)

 まさに「夏枯れ相場」だった8月の新興株市場。東証1部も夏枯れ相場でしたが、新興株も非常に薄商いでした。8月のマザーズの月間売買代金1.73兆円は前月比7.6%減、前年同月比19.0%減。また、前月に過疎化していると表現したジャスダックはさらに状況悪化。月間売買代金は0.69兆円で、前月比18.0%減、前年同月比39.8%減でした。

 ランキング1位は8月もそーせい。ただ、そーせいの売買代金も前月比では13.4%減。売買代金25日移動平均値で100億円を上回る銘柄がひとつも無くなりました。健闘が目立ったのはバンク・オブ・イノベーションやアエリアなどゲーム株の一角。

 8月は、東証1部のKlabやenishなどゲーム株が人気化していました。全体的に手詰まり感が強いなか、根拠なき買いシナリオがSNS上などでハヤされながら、値動きだけに着目した短期勢の資金が群がる光景もよく見られました。

市場 コード 銘柄名 8月末終値 時価総額
(億円)
売買代金25日移動平均値
(億円)
月間騰落率(%)
東証マザーズ 4565 そーせい 2,282 1,746 92.9 -10.4%
東証マザーズ 4563 アンジェス 607 649 43.1 -11.5%
東証マザーズ 4393 バンクイノベ 2,693 106 31.4 59.4%
東証マザーズ 6067 インパクト 2,088 125 30.4 -33.5%
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,485 3,780 28.2 -15.2%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 5,430 755 27.6 11.0%
ジャスダック 3758 アエリア 1,168 276 22.0 38.9%
東証マザーズ 4588 オンコリス 1,980 281 21.4 -3.2%
ジャスダック 7564 ワークマン 5,770 4,723 17.0 15.9%
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 3,165 326 15.9 -5.7%
東証マザーズ 3990 UUUM 4,930 934 15.1 -5.0%
東証マザーズ 4425 Kudan 8,800 614 14.7 -12.7%
ジャスダック 2146 UT GROUP 1,950 787 14.7 -19.5%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 3,340 1,728 13.7 -1.8%
ジャスダック 4293 セプテーニHD 324 450 13.6 -15.4%
東証マザーズ 2121 ミクシィ 2,226 1,741 12.4 7.7%
ジャスダック 2702 マクドナルド 4,985 6,628 11.6 1.8%
東証マザーズ 4382 HEROZ 16,860 1,178 10.1 1.8%
東証マザーズ 3993 PKSHA 4,750 1,444 9.5 -19.8%
東証マザーズ 3697 SHIFT 5,400 850 9.2 5.7%

売買代金ランキング

1 そーせい(4565・東証マザーズ)

 5日に年初来高値2,794円を付けましたが、ここが現時点では株価のピークに。5日の午前10時、国内製薬ビッグネーム武田薬品との新規提携を発表したことが手掛かりでした。7月のジェネンテック社との提携に続く強材料。契約一時金と初期マイルストンの合計は2,600万米ドルとのことで、ジェネンテック社との契約条件と同額です。ライセンス供与による一時金の相場が2,600万米ドルというのは凄いこと!

 なお、13日に中間期(1~6月期)決算も発表。アストラゼネカやファイザーなど提携先からのマイルストン計上で、売上高は前年同期比2.8倍の50億円でした。一時金を受領することは事前の発表段階で判明するため、金額的には想定線といえます。ただ、昨年後半から立て続けに提携を発表しているそーせい。マイルストンの積み上げに期待が続くのは当然でしょう。

2 アンジェス(4563・東証マザーズ)

 2月に国内で了承された遺伝子治療薬「コラテジェン」。コラテジェンの薬価収載などを議題にする厚生労働省の中央社会保険医療協議会が28日に開催予定と伝わり、「コラテジェン1本いくらか?」への期待から、26日の高値965円まで株価は上昇していました。ただ、27日付の一部朝刊が「投与1回当たりの収載薬価は60万円」と報道。

 これを受けた株価反応は、27日に16%安、28日に15%安、29日に15%安と3日連続の急落に。実際決まった薬価も「1回当たり60万360円」と報道通りだったのですが、これが市場予想より低かったことが失望理由になったようです。アンジェスに投資判断を付与している証券会社は1社(投資判断は「弱気」)。このレポートを読み返すと「薬価を仮に100万円とした場合、年商10億円で営業利益への貢献は2億~3億円程度」と試算されていました。今回決まった薬価での黒字化は困難…これが売られた背景といえそうです。

3 バンク・オブ・イノベーション(4393・東証マザーズ)

 ゲーム株の人気がにわかに高まった8月相場で、まだ上場して日が浅い(18年7月上場)SNSゲーム株といえる同社が想像絶するハイボラ展開となりました。材料視されたのが、日本で提供している王道ファンタジーRPG「幻獣契約クリプトラクト」の台湾・香港・マカオ向け配信だそうで…。

 日本では配信開始から4年半で累計1,200万DLを突破する人気ゲーム。台湾などでもヒットするとの期待があるのでしょうが、海外ローカライズ版が課金収入を稼いで業績を急拡大させたSNSゲーム株ってありましたっけ?

4 インパクトHD(6067・東証マザーズ)

 9日に発表した中間期(1~6月期)決算では、最終損益が1,600万円の赤字に転落していました。インドでの本格展開を予定していたコンビニ事業が期待材料となってきた同社株でしたが、現地の合弁会社会長が自殺。監査法人から中間決算時における四半期レビューの結論を表明できないとの報告を受け、14日に四半期報告書の提出期限延長を申請すると発表しました。

 インドのコンビニ事業の遅れと業績悪化懸念、さらには上場廃止リスクも浮上したことで株価は急落。ただ、その後に四半期報告書を「9月13日」には提出できる見通しと発表するとリバウンド。とはいえ、月間では33.5%安…新興株全体の値下がり率でも10位でした。

5 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 8日発表の本決算では、前19年6月期の売上高は前期比45%増の516億円、最終損益は137億円の赤字(前の期は70億円の赤字)。流通総額の増加による強い売上の伸び、広告宣伝費など米国投資による赤字幅拡大…ともに市場予想通りの着地でした。

 今期見通しに関しては、前期と同様で「開示なし」。ただ、6社のアナリスト予想の平均は今期も114億円の最終赤字となっています。とくに「今上期には注意」との指摘も。スマホ決済「メルペイ」のキャンペーン強化に動いているため、その分が赤字拡大につながる可能性があるようです。 

8月の株価値上がり率ランキング

 決算発表シーズンということもあり、サプライズで大きく値上がりした銘柄もありました。ただ、決算ポジティブ銘柄は少数派。通期予想を下方修正したリンクバル(月間▲43%)、シェアリングテクノロジー(同▲37%)、第1四半期に営業赤字転落のFRONTEO(同▲32%)など、期初計画とあまりにかけ離れた決算ネガティブ銘柄が多かったといえます。

 新興株の業績予想に対する信用低下、これは米中貿易摩擦とか世界の景気減速懸念などとは関係の無い問題です。企業がIRを強化することは良いことですが、もう少し節度のある期初計画を提示する企業が増えて欲しいもので…(アナリストなど外部からの業績予想の無い銘柄が多く、投資判断は企業が開示する業績予想に頼るしかないため)。

 売買の減少傾向が続くなか、ランクインした上位20銘柄のうち今月も11銘柄と半数以上が時価総額100億円未満の小型株。上位20銘柄で時価総額最大は18位のブシロードでした(7月29日に上場したばかりの直近IPO株)。

 ゲーム関連株が物色され、とりわけ東証1部のKlabが人気化。そのKlabと今秋配信予定のラブライブ最新シリーズを共同開発しています。Klabに引っ張られる形でセカンダリーの値動きが絶好調でした。ちなみにブシロード、9月13日に本決算の発表を予定しています。

市場 コード 銘柄名 月間騰落率(%) 8月末終値 前月末終値 時価総額(億円)
東証マザーズ 1431 リブワーク 87.2% 2,153 1,150 58
東証マザーズ 6195 ホープ 68.7% 4,200 2,489 59
ジャスダック 4239 ポラテクノ 68.0% 867 516 359
東証マザーズ 3970 イノベーション 66.6% 1,844 1,107 37
東証マザーズ 3135 マーケットエンタ 59.5% 2,881 1,806 150
東証マザーズ 4393 バンクイノベ 59.4% 2,693 1,689 106
東証マザーズ 2477 手間イラズ 54.4% 4,770 3,090 309
東証マザーズ 7813 プラッツ 53.2% 1,230 803 46
東証マザーズ 6096 レアジョブ 51.6% 2,415 1,593 114
ジャスダック 7834 マジェスティ 43.7% 194 135 33
ジャスダック 4800 オリコン 42.8% 1,779 1,246 269
ジャスダック 3758 アエリア 38.9% 1,168 841 276
ジャスダック 1382 ホーブ 36.9% 1,139 832 9
東証マザーズ 3498 霞ヶ関キャ 33.9% 2,831 2,115 78
ジャスダック 3851 日本一S 33.1% 1,575 1,183 80
ジャスダック 2776 新都HD 33.0% 153 115 21
ジャスダック 8844 コスモスイニシア 29.3% 649 502 220
東証マザーズ 7803 ブシロード 25.7% 2,908 2,313 467
ジャスダック 2480 シスロケ 24.1% 1,196 964 43
ジャスダック 3910 エムケイシステム 23.1% 992 806 54

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 リブワーク(1431・東証マザーズ)

  地盤の熊本を中心にネット受注のスタイルで注文住宅を販売。マザーズ銘柄としては地味な建設株、かつローカル銘柄として流動性が極めて低かったリブワーク(今年2月には出来高ゼロの日も)。出来高も急増、株価も急騰するきっかけになったのが、16日前引け後に発表した株主還元策でした。

 上場記念の株主優待として、9月末と12月末、さらには来年3月末と6月末の4回、100株保有する株主対象で1,000円分のクオカードを配布すると。記念配当のため今回限りながら、株主優待年4回(しかも換金性の高いクオカード)のインパクトは絶大!なんですが…なぜか信用で買った投資家が多いようで、23日に信用規制がかかりました。

2 ホープ(6195・東証マザーズ)

 決算ポジティブで一番上がった新興株。8日に発表した本決算では、前19年6月期の売上高が7割増の38.6億円で、営業利益以下も黒字に転換。主力の広告事業が好調だったほか、新規分野のエネルギー事業の販売額も拡大していました。

 今20年6月期の利益見通しは非開示ながら、売上高は114.5億円に急拡大する見通しと。同社の時価総額59億円のほぼ2倍、前期売上高のほぼ3倍に相当する見通し開示がポジティブサプライズ。あとは1年後の結果を待つのみで…。

3 ポラテクノ(4239・ジャスダック)

 親会社の日本化薬がポラテクノのTOBを発表、そのTOB価格が衝撃的でした。発表日27日の終値は517円で、PBR(株価純資産倍率)は0.57倍。日本化薬が提示したTOB(株式公開買い付け)価格は同日終値を9割強上回る「993円」でした。買付の期限は10月10日で、完全子会社を目的とするため全株取得(成立後は上場廃止)。TOB価格に向けて急騰しました。

 ジャスダックに低PBR株は多数存在しています。ただし、PBRが低い銘柄を買っても一向に上がらないバリュートラップが大半。こうしたTOBの話があると「多くの銘柄の市場価格が割安放置されているんだろうな」と感じるものの、こんな話が出ること自体が極めてレアケース。残念ですが、「バリュー株投資は効率悪い」が浸透しています。

4 手間いらず(2477・東証マザーズ)

 好決算を受けて上値追いの展開に。主力の宿泊予約サイトコントローラー「TEMAIRAZU」の契約施設数が伸び、前19年6月期は大幅増収増益に。今20年6月期についても、25%増収、31%営業増益計画を示したほか、配当の目安となる配当性向(22.5%)も設定。決算後に信用買い残を減らしながら株価が大幅高していますので、中小型ファンドなどの買いも入っている可能性が高い?

5 マジェスティ ゴルフ(7834・ジャスダック)

 ポラテクノ同様、筆頭株主によるTOB実施が値上がりした理由です。9日に、韓国企業のマジェスティゴルフコリアが、1株「195円」でTOBを実施すると発表。発表日終値138円を4割強上回るTOB価格にサヤ寄せする動きに。

 ちなみにこのマジェスティ ゴルフ。昨年10月に商号変更したため社名ではピンと来ないかと思いますが、旧社名は「マルマン」。高級ゴルフ用品の老舗企業です。完全子会社化を目指す韓国マジェスティゴルフコリア社は、韓国国内におけるマルマン製品の販売代理店でした。

9月に注目したい新興株の動き

 8月に崩れた新興株。この影響が尾を引き、個人投資家の損益状況が悪化しています。8月末時点の二市場の信用評価損益率は、今年では最低圏の▲15.93%(最低は1月11日時点の▲16.21%)。この分には東証1部銘柄も含みますので、新興株に限った損益率はもっと悪いのでしょう(アンジェス株急落などの影響大)。

 新興株ラリーの発生を予想する楽観論は消えているように思います。なぜなら、新興株の地合いが短期間でも本格的に良いといえる時期が無いから。信用評価損益率でいえば、昨年は最良値で▲3.6%がありますが、今年は最良値でも▲12.96%(4月5日時点)。

 また、米中摩擦など日本の新興株に直接関係の無い事象に翻弄され、業績好調銘柄が少なく(むしろ失望銘柄多数)、それでいてマザーズ指数の予想PERは8月末時点で188倍(時価総額上位に赤字企業が多くなり過ぎたため)。すぐに解決されるような問題でもなく、株価が下がったからそろそろいいのでは?と気安く言えるような根拠はありません。

 とはいえ、センチメントひとつで短期的には地合いが一変するのもマザーズ市場。なんらかの材料を理由にバイオ株が上がり、何の関係もないネット関連株にも波及し、新興株全体が一時的に息を吹き返す(8月のアンジェスショックの逆)こともよくあることです。例えば、19日以降にマザーズやジャスダックのIPO(新規公開株式)が再開します。こういうことが反転のきっかけになることもあります。

 新興株の雰囲気の変化、このサインとして見るべきポイントは、チャートではなく売買のボリュームが適切かと思います。9月4日のマザーズの売買代金517億円が今年最低でした。これ、16年11月14日以来の低水準です。この流動性の低下は、今だけというより趨勢です。

 先月8月22日に東証マザーズの売買代金25日移動平均値が800億円を下回り、今なお続いています。25日移動平均値で800億円割れが10営業日以上続いたのは、「15年9月/16年8月/16年10月」の3回。

 いずれも、地合い悪化後のもみ合い局面で、雰囲気も時期も今と似ています。その後、売買代金が増え始め、25日移動平均値で1,500億~2000億円へと膨らむ過程でマザーズ指数も急上昇しました。

 個人の信用取引が多く、空売りが極めて少なく、先物の影響が極めて小さい新興株は「買戻し」で上がることはありません(これが東証1部との違い)。売買が増えているということは、そのまま「買いが増えている」ということ。「理由なんて何でもいいから売買増えて!」これに尽きるのではないでしょうか。