マイナス利回りでも債券が買われるのはなぜ?

 世界でマイナス利回りで取引されている債券の総額は、8月15日時点で16.7兆ドルと、過去最高を記録しています。マイナス利回りで取引されているのは主に、スイス、ドイツ、オランダ、フランス、スウェーデンとヨーロッパの国債、そして日本国債ですが、とりわけマイナス利回りの先輩であった日本がこの春以降、どんどんドイツに抜かれていくのは非常に象徴的な動きでした。

 現在ドイツの指標10年物国債はクーポン0%で100の額面に対して107台で取引されています。そうです、これは10年間利息がもらえない上に、10年後には7%元本割れとなる事が確約されている金融商品です。そして多かれ少なかれ、このドイツ国債のような状況の債券に、世界の投資家が16.7兆ドルもの資金をつぎ込んでいるという状況なのです。

 マイナス利回りで債券を買う理由はいろいろ言われますが、簡単な話、キャピタルゲイン狙い。これは教科書通りのバブルです。よく「バブルは弾けてみないと分からない」と言われますが、これは珍しく「弾けなくても分かるバブル」でしょう。

 ただバブルがいつ弾けるか、というのを予見するのは極めて難しいものです。またバブルに付き物なのが、もっともっと大きなバブルが造成されてからしか弾けない、というパターンです。

 さらに、債券のバブルは株式のバブルよりもかなりしつこいものになる傾向があります。例えば去年の今頃、「マイナス金利で取引されている債券の総額が8兆ドルにも上った」というニュースで驚いていたのが、1年経った今その倍以上となり、米国のGDP(国内総生産)に迫る数字に上っているのです。

1.5%の利回りがもらえる米国の国債

 このような状況では、1.5%も利回りがもらえる米国の国債は、世界の投資家にとって非常に魅力的に映るでしょう。近年、世界中の資本はより自由に動き回るようになりましたから、ヨーロッパの国債利回りが低下すると、利回りの高い米国国債に資金が流れると共にドル高になるので、結局ヨーロッパのデフレが米国に輸出される結果になります。

 こうして、現在の国際金融システムでは、ある地域にデフレ傾向が出れば、それは金利や為替を通じて瞬時に他国に輸出される構造になっているのです。現在の米国長期金利低下要因のほとんどは、米国経済ではなく、このようなヨーロッパをはじめとする世界からの資金流入という需給要因によるものでしょう。

 一方で米国株式の「利回り」はとても魅力的な水準にあります。この30年ほど、S&P500指数の益利回り(純利益を時価総額で割ったもの)はおおむね4~7%の間で推移していますが、現在2020年予想ベースで、このレンジの上に近い6.3%で取引されています。益利回りと10年物国債利回りの差が5%以上開いたのは金融危機とギリシャ危機の時のみでしたが、現在それに近い4.8%の差となっています。

S&Pの配当利回りと10年債利回りの逆転が意味するもの

 またS&P500指数の配当利回りが10年物国債利回りを上回ったのは金融危機、ギリシャ危機、そして大統領選挙を控えた2016年後半の3回のみでしたが、今回再び配当利回り2%に対して10年物国債利回り1.5%と逆転現象が起こっています。そしてこのいずれのケースでも、その後株式は大幅に上昇したことを忘れてはなりません。

 とりわけ大手銀行にいたっては、6月末に発表されたストレステストでも明らかになったように、史上最も健全と言える財務状態にもかかわらず、配当利回りで約3%、自社株買いで約8%、合計11%近くの利回りが取れる状況です。もちろん短期的に株価が下落すればその利回りも減ってしまうのですが、例えばこのペースの自社株買いが10年続いたとしたら、8割方の株式は市場からなくなってしまうという異常なハイペースです。そして程度の差はあれ、米国株式が現在置かれているのはこのような状況だと言えます。

 市場は米中貿易問題の行方に振り回されていますから、今後もニュースによって株式相場は大きく上がる事も下がる事もあるでしょう。しかし短期的に株式の上下があったとしても、マイナス利回りの債券を買う投資家か、それとも「高利回り」の株式を買う投資家か、長期的にどちらに軍配が上がるか、時間の経過がどちらの味方をするかを考えればその結果は明らかだと思います。長期で考える限り、むしろニュースを見ない方が正しい投資判断が出来るのではないでしょうか。