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任天堂

ニンテンドースイッチの増産効果が出始める

 今回は、ゲーム株を解説します。

 まず「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ、以下、Switch)」の増産状況を確認します。

 今年3月3日に「Switch」が発売され、大変な人気となりました。会社の予想や業界の見方を上回る人気となったため、推測ですが、会社側は、2018年3月期1,000万台というハード販売計画に対する増産の指示を、4月に入って部品メーカーと受託生産会社に対して出したと思われます(「Switch」ハードの受託生産会社は、ホンハイ子会社のフォックスコン、ホシデン、ミネベアミツミと言われている)。

 増産の指示を受けた受託生産会社が、中国工場で人員を集め教育訓練を施し、実際に組み立て作業を始めて製品ができて、それが量販店の店頭に並ぶのに約3カ月かかると思われます。日本では7月中旬から店頭販売台数が増加していますが、この中に増産分が含まれていると思われます。

 グラフ1は、ゲーム情報サイト「ファミ通.com」に掲載されている「Switch」の週間販売台数(国内)ですが、これを見ると、7月21日発売の「スプラトゥーン2」同梱版の発売から販売数量が増加しています。販売台数は週ごとに変動していますが、増加傾向にあります。

 この販売動向から全世界販売台数を推定すると、7月約110万台、8月90万~100万台、9月100万台以上と思われます(海外への配分は2018年3月期1Q<4-6月期>の実績、日本52万台、米大陸75万台、その他<欧州など>69万台を参考にした)。

 また、例年クリスマス商戦になる10-12月期は7-9月期の2倍程度のハードが出荷、販売されるため、10-12月期は、全世界で月間200万台以上が出荷されると思われます。通常1-3月期は大きく出荷が減る時期ですが、2018年1-3月期は「Switch」人気がクリスマスを過ぎても続くと思われるため、一定の出荷台数が維持されると思われます(10-12月期に比べ減りはしますが)。

 これらを合計すると、2018年3月期販売台数は会社計画1,000万台に対して、1,500万台程度が可能と思われます。任天堂製ソフトだけでなく、他のサードパーティ(ゲームソフト専業メーカー)製ソフトも順次発売されますので、「Switch」の人気が落ちることは当面考えられません。そのため、増産しても品不足が続くと思われます。

 ちなみにホシデンでは、今1Q(第1四半期:4-6月期)決算発表時に、通期業績見通しを従来の売上高2030億円、営業利益50億円から、売上高2500億円、営業利益85億円に上方修正しました。この中で、受託生産が含まれると思われるアミューズメント部門売上高は1,030億円から1,500億円に上方修正されました。ここから考えると、あくまでも推定ですが、「Switch」の生産規模は当初計画に対して40~50%増産となっている可能性があります。

グラフ1 「Nintendo Switch」ハードウェアの販売台数

注:日本のみ。単位:台 出所:ファミ通.comより楽天証券作成

大型ソフトが出やすくなっている

 グラフ2は「Switch」の国内累計販売台数と主要な任天堂製ソフトの週間販売本数の合計を並べたものです。

 当然のことですが、ハードの累計販売台数が増えるに従って、大型ソフトが出やすくなっています。9月3日時点でのハード累計販売台数は159.8万台、ソフト累計販売本数は「スプラトゥーン2」110.8万本、「マリオカート8デラックス」61.7万本、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」50.6万本です。

 ちなみに全世界では、7月15日に終わる週のソフト累計販売本数は、「ゼルダの伝説」330.6万本、「マリオカート8デラックス」252.7万本となっており、この2作がグローバルでミリオンセラーとなっています(データはVGChartz)。7月21日発売の「スプラトゥーン2」もすでにグローバルでのヒット作になっていると思われます。

 今後は、10月発売の「スーパーマリオオデッセイ」がどの程度まで売れるか、サードパーティのソフトにヒット作が出るかどうかが、注目点です。

グラフ2 「Nintendo Switch」の累計ハード販売台数と主要ソフト販売本数

単位:万台、万本
出所:ファミ通.comより楽天証券作成

 

表1 「Nintendo Switch」販売台数とスイッチ用ソフト販売本数

出所:ファミ通.comより楽天証券作成

表2 「Nintendo Switch」販売台数

単位:台
出所:VGChartzより楽天証券作成

表3 「Nintendo Switch」用ソフトの発売スケジュール(任天堂製のみ)

出所:任天堂ホームページより楽天証券作成

「Nintendo Switch」は「Wii」を抜く可能性がある

 発売後半年を経過した時点での見方ですが、「Switch」は「Wii(ウィー)」を抜く可能性が高いと思われます(リーマン・ショック級のネガティブな経済変動が起きないという前提で)。累計販売台数は「Wii」の約1億台に対して、「Switch」は1.5億~2億台になる可能性があるというのが、現時点での私の予想です。1人1台需要の開拓、新興国市場の開拓など、「Wii」になかった可能性が「Switch」にはあるからです。

 2018年3月期~2020年3月期の「Switch」販売台数予想、楽天証券業績予想は前回予想と同じです。ただし、2Q(7-9月期)決算発表後、状況に変化があれば変更します。

 投資判断は「A」継続です。半年~1年の期間で5万5,000~5万7,000円が期待できると思われます(6月30日付アナリストレポートの投資判断と同様)。北朝鮮情勢で為替レート、株式市場全体が揺れ動くことによる株価変動は予想されますが(これについては下のソニー、カプコンも同様です)、中長期的な投資妙味は依然として大きいと思われます。

表4 任天堂の業績(2017年6月)

注:発行済み株数は自己株式を除いたもの
株価 35,420 円/発行済み株数 120,128 千株/時価総額 4,254,934 百万円(2017/9/7)
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

単位:万台 出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ4 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア

単位:万台 出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

ソニー

PS4事業の利益のピークは2018年3月期か

 ソニーの「PlayStation4(以下、PS4)」からの利益(主にソフトの利益)のピークは今期(2018年3月期)になりそうです。ゲーム&ネットワークサービス事業の中には、「PS4」のハード、ソフト(パッケージとダウンロード)だけでなく、ネットワークサービス(ゲーム以外のコンテンツの配信サービスなど)が含まれています。このネットワークサービスは投資負担により今期200億~300億円の赤字になる見込みであり、この赤字を織り込んでゲーム&ネットワークサービスの営業利益は1,800億円になる見込みです。ここからPS4事業の営業利益は2018年3月期で2,000億円以上と推定されます。

 「PS4」は2013年11月の発売から約4年を経過しており、サイクル的な下降局面に入りつつあります。ハードウェア販売は2017年3月期がピークだったもようで、ソフト販売のピークは2018年3月期になると思われます。

 「PS4」はゲーム機としては優秀であり、上位機種の「PlayStation4Pro」と「PlayStationVR」もあることから、当面は急な減少はないと思われます。ただし、2~3年後に全社業績に対する影響度合いが低下することは避けられません。

 次のポイントは「PlayStation5(以下、PS5)」の発売がいつになるかということですが、「PS4」の発売(2014年3月期)は「PS3」ハードがピークを打った2011年3月期の3期後です。「次」もこのタイミングなら、「PS5」発売は2020年3月期になります。ただし、「PS3」は半導体を内製したために大きな赤字を出したハードウェアであり、ソニーは早めに販売を終了させようとしていました。このことを考えると、「PS5」は2021年3月期になる可能性もあります。いずれにせよ、当面のゲーム部門はソニーに投資する際の材料にはなりにくいと思われます。

表5 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

単位:百万円
注:2018年3月期以降の会社予想と楽天証券試算は、その他と全社及びセグメント間取引消去を合算して表示している
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 ソニーのゲームサイクル:PlayStationの販売台数

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ6 ソニー・ゲーム&ネットワークサービス事業の業績

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

ソニーのもう一つのゲーム事業、「Fate/Grand Order」

 ところが、ソニーには今も堅調に高水準の利益を上げているゲーム事業がもう一つあります。音楽部門のアニメ子会社アニプレックスが手掛けるスマートフォン(スマホ)ゲーム事業です。2015年7月に配信開始した「Fate/Grand Order」が好調で、iOS、Google Playの課金売上高ランキングでは常時5~10位内にあり、最近ではiOSで継続的に1位、Google Playでも1~2位になっています。

 このゲームは、「聖杯戦争」を題材にしたアニメが原作となっており、かなりマニアックな中身ですが、特定のファンからの評価が高いゲームです。現在の累計ダウンロード数900万DLのうち課金ユーザーは推定2~3%のみですが、一人当たり平均課金額が推定月間2万~3万円という高額課金ゲームです。

 グラフ7は、「Fate/Grand Order」の課金売上高が含まれる映像メディア・プラットフォーム事業(ソニー音楽部門の1事業)の売上高の推移を表したものですが、「Fate/Grand Order」を配信開始した2016年3月期2Qからこの事業の売上高が急増していることがわかります。増加した分は「Fate/Grand Order」の課金売上高と思われます。ここから推測すると、「Fate/Grand Order」売上高は2016年3月期約300億円、2017年3月期800億~900億円、2018年3月期はスマホゲームの第2弾「マギアレコード」と合わせて1,000億円に達する可能性があります。「Fate/Grand Order」の版権使用料を他社(TYPE-MOON)に支払うため、営業利益率は推定30%前後と思われますが、2017年3月期で200億~300億円の営業利益を稼いだと思われます。

 2016年12月に「Fate/Grand Order」の第1章が配信終了し、今は1章と2章の中間の1.5章というべき「Epic of Remnant」が配信されています。いずれ第2章が配信されると思われますが、その場合再度人気が出る可能性があります。

 加えて2017年8月22日に、アニプレックスのスマホゲーム第2弾「マギアレコード魔法少女まどかマギカ外伝」が配信開始されました。これも出足は好調で、iOS課金ランキングで6~7位となっています。このまま人気が衰えなければ、「Fate/Grand Order」に次ぐ収益源となる可能性があります。

グラフ7 ソニーの映像メディア・プラットフォーム事業

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

 

ソニー音楽部門がスマホゲームで安定成長か

 ソニーは2016年のiOSとGooglePlayを合わせた日本のゲーム収益ランキングで7位でした(App Annieによる)。「Fate/ Grand Order」の課金売上高は「モンスターストライク」「パズル&ドラゴンズ」に続く3位でした。

 上述のように、ソニーのスマホゲームが年間売上高1,000億円になるのであれば、ミクシィ(「モンスターストライク」)、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(「パズル&ドラゴンズ」)のゲーム売上高が下がっていることもあり、2017年はソニーの順位が上がる可能性があります。

 会社側は、「Fate/Grand Order」は配信開始から2年経過したため、これ以上伸びるとは想定していなかったようです。ところが意外に堅調で、音楽部門の今期会社予想営業利益750億円は800億~850億円に、来期は「Fate/Grand Order」と「マギアレコード」が堅調という前提で850億~900億円になる可能性があります。

株価はもう一段高も

 音楽以外の部門を見ても順調に回復、あるいは再成長しています。これを見るとソニーの株価は半年から1年の期間で5,000~6,000円が期待できると思われます。

表6 ソニーの業績

株価 4,258 円 / 発行済み株数 1,263,127 千株 / 時価総額 5,378,395 百万円(2017/9/7)
出所:会社資料より楽天証券作成

 

カプコン

「Nintendo Switch」の普及でゲームソフト専業も恩恵を受けるだろう

 家庭用ゲーム機の普及で恩恵を受ける会社は、任天堂、ソニーのようなハードメーカーだけではありません。ハードメーカーと契約して特定ハード向けのゲームソフトを開発するサードパーティ(ゲームソフト専業メーカー)にも、事業機会が拡大するという意味で大きな恩恵があります。

 ただし家庭用ゲームビジネスは、アイテム課金が原則のスマホゲームと違い、ソフト1タイトル当たりの価格が決まっています。そのため、できるだけ多くのユーザーに買ってもらおうと考えるならば、国内だけでなく、海外展開が必要になってきます。

 ところが、欧米と日本ではゲームユーザーの「嗜好(しこう)」の差が大きく、グローバル展開ができる日本のゲームソフト専業メーカーは、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスなど、少数に限られています。

 実は、10年以上前はもっと多くのゲームソフト専業メーカーが海外展開していました。しかし、採算の良い国内向けスマホゲームへ注力する会社が多くなるにつれて、家庭用ゲームソフトの開発力が落ちてしまい、今や海外展開可能なゲームソフトを開発して毎期販売できるのは、カプコンとスクウェア・エニックス・ホールディングスぐらいになってしまいました。

「バイオハザード7」は前期、今期ともに注力

 カプコンのフラッグシップ(旗艦ソフト)は「バイオハザード」シリーズと「モンスターハンター」シリーズです。このほかにも、準旗艦ソフトとして「デッドライジング」「ストリートファイター」などのシリーズを持っています。日本のソフト会社の中では海外展開できるシリーズが多い会社です。

 「バイオハザード」シリーズの最新作「バイオハザード7」は2017年1月に発売されました。VGChartzによれば、7月15日までにPS4版214万本、XboxOne版57万本、PC版6万本、計277万本が店頭で売れました(全世界)。フルVRでプレイが可能で、「バイオハザード」の原点に返って「怖さ」を追求したソフトですが、販売ペースは比較的ゆっくりしています。会社側では、2017年3月期出荷本数350万本に対して、2018年3月期は下期に大規模キャンペーンを行い200万本を出荷し、累計550万本を出荷する目論見です。

「モンスターハンター」で海外展開を目指す

 カプコンのもう一つの旗艦ソフト「モンスターハンター」シリーズでは新しい動きを始めようとしています。「モンスターハンターワールド」(「PS4」用)を2018年初頭(1~2月)に発売する計画です。

 従来のモンスターハンターは「ニンテンドー3DS」用(携帯型ゲーム機用)が多く、また、日本が中心市場でしたが、「モンスターハンターワールド」では海外でユーザーが多い据置型ゲーム機に対応して、国内市場とともに海外市場での販売拡大を狙います。ゲームソフトの激戦区であるグローバル500万本クラスのソフトになることを目指しているもようです。

 なお、5月26日発売の「Switch」向け「ウルトラストリートファイターⅡ」は移植ものなので、会社側は20万~30万本しか見込んでいませんでしたが、想定を上回る45万本をこれまでに出荷しました。ニンテンドースイッチがサードパーティにとって重要なマシンであることがわかります。8月25日発売の「モンスターハンターダブルクロス」も3DS版からの移植なので20万~30万本の計画ですが、十分クリアできると思われます。

「モンスターハンター」の海外展開が今後のカギ

 当面は「バイオハザード7」の今期分の販売の進捗と、来年1~2月発売の「モンスターハンターワールド」の海外での売れ行きが注目点です。また、来期以降「Switch」に対してどのような新作ソフトを出すのかについても注目点です。

 株価は2015年から下値2,000円、上値3,000円のボックス圏で推移しています。「バイオハザード」以外に「モンスターハンター」の海外展開が本格化すれば、このボックス圏を上に抜く可能性があります。

表7 カプコンの業績

注:発行済み株数は自己株式を除いたもの
株価 2,670 円 / 発行済み株数 54,746 千株 / 時価総額 146,172 百万円(2017/9/7)
出所:会社資料より楽天証券作成

本レポートに掲載した銘柄

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