(1)1つ目は、“季節的な価格のV字”
●とうもろこしは、秋ごろにその年の安値をつけ、翌年の春に高値をつける傾向がある。1年間のとうもろこしの値動きの傾向は10月を谷とした“V字”に見える。
●季節的な価格のV字は、とうもろこしが1年単位で作付け・収穫されることによるもの。生産量が最も多くなる10月ごろに1年間で最も価格が安くなる傾向がある。
(2)2つ目は、“足元の短期的な価格のV字反発”
●9月に入りとうもろこし価格は急反発している。米国の輸出量が増加した(輸入国の消費量の増加)と報じられたこと、前月まで出ていた記録的な豊作見通しがやや後退したことなどが背景。
●米国は世界で最もとうもろこしの生産量、輸出量および在庫が多い国である。このため、作付けが始まる4月から収穫が終わる11月ごろまで、とうもろこしの価格は米国におけるとうもろこしの豊作・不作に関わる情報によって乱高下する。
とうもろこしは、小麦、コメと並ぶ世界三大穀物の一つです
その大半は家畜飼料として使われています。食用品としてはとうもろこしスターチ、ブドウ糖、人口甘味料の原料、近年ではガソリンに混合するエタノールの原料として用いられています。レポートの本編に入る前に、簡単にとうもろこしの用途やこれまでの価格の推移を確認してみます。
図:とうもろこしの用途
飼料は「家畜のえさ」です。世界最大のとうもろこしの生産国である米国も、世界最大のとうもろこしの輸入国である日本も、多くのとうもろこしを家畜のえさとして用いています。食文化の変化、人口増加・新興国の台頭などの世界規模の変化に対して、とうもろこしがその支えの一翼を担っているといえます。以下は長期的なとうもろこし価格の推移です。世界のとうもろこし価格の指標であるシカゴ商品取引所のとうもろこし先物価格(中心限月)を参照しています。
図:とうもろこし価格の推移 1962年以降 (中心限月 日足)単位:セント/ブッシェル
とうもろこしの1ブッシェルはおよそ32キログラム
世界的な人口増加、新興国の台頭以外に、政策的で大規模な新需要の登場(エタノールをはじめとしたバイオ燃料の需要増加)も加わり底値を切り上げています。以下より、このとうもろこしが持つ“2つのV字”について解説します。
(1)1つ目は、“季節的な価格のV字”
●とうもろこしは、秋ごろにその年の安値をつけ、翌年の春に高値をつける傾向がある
1年間のとうもろこしの値動きの傾向は10月を谷とした“V字”に見える。
図:とうもろこし価格推移の傾向 過去56年の月別平均を10月を100として指数化
上図は、1960年から2016年までの56年間の月別の平均価格を求め、10月を100とし、とうもろこし価格の1年間の傾向を示したものです。10月(秋)が最も安く、3月から5月ごろ(春)が高い傾向があります。1年間のとうもろこしの値動きの傾向は、10月を谷とした“V字”とすることができます。
●季節的な価格のV字は、とうもろこしが1年単位で作付け・収穫されることによるもの。生産量が最も多くなる10月ごろに1年間で最も価格が安くなる傾向がある
図:米国産とうもろこしの生育過程
上図は、世界最大のとうもろこしの生産国かつ輸出国である米国のとうもろこしの生育過程です。主な生産地域は米中西部の「コーンベルト」と呼ばれる広大な平原が広がる地域で、たとえばイリノイ州、ミネソタ州、アイオワ州、ミシガン州、サウスダコタ州などです。
とうもろこしは、種をまいた年に発芽し、開花、そして種をつけて枯れる「一年草」です。四季があるアメリカでのとうもろこしの生産は、春に種をまき秋に収穫します。このため、とうもろこしに関わる要素、たとえば生産量、在庫、そして価格などに季節性(年間のサイクル)が生まれます。
価格における年間のサイクルは、生産量が最も多くなる10月にその年の安値をつけ、その後春にかけて需要の発生に応じて価格が上昇、春以降はその年の生産高が意識され(天候の良し悪しで上下に振れながら)収穫期に向けて下落となり、その結果“季節的な価格のV字”が生まれると考えられます。
(2)2つ目は、“足元の短期的な価格のV字反発”
●9月に入りとうもろこし価格は急反発している
米国の輸出量が増加した(輸入国の消費量の増加)と報じられたこと、前月まで出ていた記録的な豊作見通しがやや後退したことなどが背景
図:とうもろこし価格の推移 2017年1月以降 (中心限月 日足)単位:セント/ブッシェル
上図は今年5月以降のとうもろこし価格の推移です。8月の下旬より価格が急反発していることがわかります。この急反発が2つ目のV字です。背景は、世界最大のとうもろこしの輸出国である米国の輸出量が増加したこと、前月まで出ていた記録的な豊作見通しがやや後退したことなどがあげられます。もともと今年は史上3番目となる大豊作と見込まれており、8月半ばにUSDA(米農務省)が公表した毎月の需給見通しも大豊作を示唆する内容でした。
しかし、8月下旬に行われた調査会社によるクロップツアー(現地調査)では、生産見通しや単収(一定面積における収穫量・生産効率を測る目安)の予想の引き下げが報告されました。加えて、毎週公表されている輸出統計で輸出が前年を上回る状況が続いていること、生育進度の報告で作柄がやや悪化していることなどが報じられ、これらも足元のとうもろこし価格の上昇要因となっているようです。
●米国は世界で最もとうもろこしの生産量、輸出量および在庫が多い国である。このため、作付けが始まる4月から収穫が終わる11月ごろまで、とうもろこしの価格は米国におけるとうもろこしの豊作・不作に関わる情報によって乱高下する
図:世界のとうもろこしの生産シェア 上位10位 (2016年)
図:世界のとうもろこしの輸出シェア 上位10位 (2016年)
上図は、世界のとうもろこしの生産量と輸出量のシェアの上位10位です。米国がともに1位です。米国は生産・輸出という供給面で、世界で最も影響力を持っていることがわかります。とうもろこし価格が米国の生産過程に追随する傾向があるのはこのためです。4月の作付け開始以降、収穫の終盤である11月頃までは、天候によって変化する作付けや収穫の進捗率、生育や成熟の進度などの情報に注意が必要です。中国は世界2位の生産国ですが、消費の規模が大きく(米国に次ぐ2位)、差引すれば輸入国です。
とうもろこし価格は、米国の生産動向による“季節的なV字”と、足元の輸出増加と豊作見通しの後退などによる“短期的なV字”にサポートされる時期に入りつつあると考えられます。過去には大型ハリケーンがメキシコ湾沿岸地区の穀物輸出施設の機能を停止させたり、穀物の輸送で使われるミシシッピ川での輸送船の航行や作業人員の確保に影響を及ぼしたりした経緯があることから、作柄の悪化という点以外に、米国の穀物に関わるインフラへの影響という意味でも、接近しているハリケーン「イルマ」の動向に注意が必要です。
今年も季節的なV字パターンを利用して10月以降の価格上昇を見込み買い場を探したいところ。10月が買い場になることが多いのですが、今年は豊作見通しで8月に価格が大きく下がっているので、9月が買い場になっている可能性もありそうです。
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