ドル/円反発の要因となったドイツ
先週初めにドル/円は105円割れ寸前まで売られましたが、今週に入って106円台を維持。値幅も狭くなってきていることから、8月初めからの円高局面はとりあえず一服となったようです。
先週後半にドル/円が反発した要因の一つに、ドイツが景気刺激策を検討しているとの報道がありました。この報道もあって米長期金利も反発し、ドル/円を支えたようです。報道を認めるかのように、ショルツ独財務相は18日、「ドイツには将来の経済危機に、総力を挙げて対処する健全な財政がある」との見方を示し、最大500億ユーロ(約5.9兆円)の追加支出が可能であることを示唆しました。あの財政規律に厳しいドイツが、景気刺激のために財政政策を検討するとは驚きのニュースです。
さらにもう一つ、驚きのニュースがあります。
ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行は19日、公表した月報でドイツ経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性があると警告しました。ドイツ連銀は7-9月期のGDP(国内総生産)が引き続き「低調」との見通しを示し、「小幅な減少が続く可能性がある」と指摘しています。
その前の4-6月期GDPは、米中貿易摩擦激化に伴う輸出の減少や製造業への悪影響が重しとなって、前期比▲0.1%です。7-9月期も続いてマイナス成長となれば、2四半期連続マイナス成長という、リセッションの一般的な定義に当てはまるリスクが高まっています。
また、9月のECB(欧州中央銀行)理事会では、利下げと追加の資産購入が期待されており、これがユーロの重しとなっています。ドイツの財政出動となれば、ドイツ経済だけでなくユーロ圏にもプラス材料となり、ユーロが反発しても良さそうですが、今のところ反応は鈍いようです。おそらく、狼煙(のろし)は上げられたものの、議会承認も含め、具体的なスケジュールが見えてこないからだと思われます。今後の具体的な動きに注目していく必要があります。
健闘する日本のGDP
一方で、日本のGDPはドイツと比べて健闘しています。
8月9日に発表された日本の4-6月期GDPは実質年率で+1.8%となりました。民間予測の中にはマイナス成長もあったため、前期1-3月期GDP(+2.8%)から減速したとはいえ、大健闘です。この数字だと、日銀の追加緩和は期待通りにはいかないかもしれません。欧米の中央銀行が金融緩和の方向に動いている中で、日銀が同じ方向になびいていないとマーケットが判断すれば、円高圧力になる可能性があるため、留意しておく必要があります。
参考までにIMF(国際通貨基金)が7月に公表した2019年の日本の成長率見通しは0.9%です。また、日銀の7月時点の2019年度成長見通しは、4月時点の0.8%よりも下方修正されて0.7%となっています。そして、内閣府が7月29日に公表した2019年度の成長率見通しも、1月時点の1.3%から0.9%へと下方修正。日銀も内閣府も見通しを下方修正しましたが、それでも民間予測の平均0.5%程度と比べると強気の数字となっています。
そして足元の四半期のGDPは、それよりも強い数字となっています。
設備投資が予想よりも大きかったことと、外需寄与度のマイナス幅が予想よりも大きくならなかったことが背景にあるようです。しかし、これは「出来過ぎ」との見方もあるため、9月9日に公表される改定値(2次速報)には注目しておく必要があります。
日銀の金融政策決定会合開催は9月18~19日のため、改定値が下方修正されると日銀への追加緩和期待が再び高まるかもしれません。
世界の円買いリスクをチェック
8月はこれまでのところ4円近くの変動幅がありました。とりあえず、円高が一服したとはいえ、円の買い材料が後を絶たない状況が続いています。
その円買い材料とは、香港デモ、アルゼンチン危機、イタリア政局、Brexit(英国のEU[欧州連合]離脱)、印パ情勢、中東情勢など、さまざまな政治リスクや地政学的リスクに加え、米中貿易協議の行方、日米通商協議、米国の長短金利逆転が示唆する景気後退リスクなど、まだまだマーケットでは消化されていない材料として残っています。
このように未消化の材料が多い相場環境のため、今週のドル/円は、反発が続いても勢いは乏しいかもしれません。
今月はFOMC(米連邦公開市場委員会)がないため、23日のジャクソンホールでのFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長講演が注目されています。
マーケットでは9月利下げはかなり織り込まれていますが、まだFOMCまで1カ月あることから、講演では9月利下げを強く示唆するメッセージは避ける可能性も想定されるため、注意する必要があります。
また、政治リスクでは香港のデモ騒動に特に注目しています。
事の成り行きによっては、米中の対立が激しくなり、貿易協議どころではない状況になるかもしれません。9月11~12日には香港で「一帯一路サミット」が開催予定です。それまでに事態が収拾していなければ、習近平中国国家主席が主催するサミットの日程が近づくにつれ、緊張が高まり、マーケットの警戒心が高まってくる可能性があるため、注意が必要です。
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