大波乱相場の明日はどっち?

 先週(8月5~9日)の金融・為替市場は大荒れの展開となりました。

 先週、人民元は防衛ラインとみられていた1ドル=7元を割り込んだことから、相場は下落。しかし、その翌日には、中国人民銀行が取引の目安となる基準値を7元以下に設定したことから、相場は反発しました。

 しかし、その反発もつかの間、中国は基準値を8日(木)、9日(金)と連日で7元台に設定。このことから、中国が「緩やかな元安誘導」をしているとの見方が広がり、米国との対立が再び激化するとの警戒感が高まりました。

 9日、トランプ米大統領が「中国と合意する準備ができていない」、さらに9月に米ワシントンで開催予定の米中閣僚級協議については、「中止となる可能性がある」と発言したことから、米中貿易摩擦は長期化するとの警戒感が強まりました。

 8月に入ってから、ドル/円は約4円の円高、NYダウ工業株30種平均は1,000ドル近くの下落。ところが、13日に米国が対中追加関税について一部製品の課税延期を発表すると、105円割れ寸前だったドル/円は、107円近くまで反発し、NYダウは一時、500ドル近く反発する動きとなっています。

 しかし、多くの食料品や衣類、生活用品は9月に発動され、米国消費者への影響は避けられないのは変わらない状況です。クリスマスを考慮した人気取りの一時的な対策だけなのか、今週も神経質な相場展開が続きそうです。

金(ゴールド)の健闘

 先週のドル/円の下落、株安、金利低下という相場環境の中で際立って健闘していたマーケットがあります。それは金(ゴールド)市場です。

 金はニューヨーク先物市場で一時、6年4カ月振りに1トロイオンス=1,500ドル(※)を超えました。また、東京商品取引所でも金先物は、ドル/円が円高に動いたにもかかわらず健闘し、終値として6年4カ月振りに1グラム=5,000円台に乗せました。米中対立が金相場を押し上げたようです。

(※)金価格は国際価格では「1トロイオンス=何ドル」と表示されますが、国内では「1グラム=何円」と表示されます。トロイオンス(略称オンス)は貴金属などに用いられる質量の単位で、1オンス=約31.1035グラム。

 伝統的に金や日本円は安全資産としてみなされ、投資家が金融市場への投資に慎重になったときに買われやすくなる傾向があります。世界景気減速による株の割高感、Brexit(ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)や、中東の地政学リスクの高まり、香港情勢などによって金投資への関心が高まってきています。世界的な低金利の環境も金を買いやすくしている背景のようです。

相場変動時の安全資産は金?円?

 世界最大のヘッジファンド、米ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏が、7月に金への投資を「推奨」しました。

 一方で、米ゴールドマン・サックスが7月に顧客向けに発信したリポートが金融市場で話題になっています。このレポートでゴールドマン・サックスは「相場ショック時のマネー逃避先は金より日本円が有利」と推奨しているからです。金よりも日本円の方が有利な理由についてゴールドマン・サックスは、金を買う権利(コール・オプション)の価格が、円を買う権利の価格に比べて割高になっていると指摘し、円が相対的に割安であり、有利と説明しています。

 このゴールドマン・サックスの推奨については、全く違和感がありません。と言うのは、単純な感覚ですが、円は金よりも「強い」という感覚はずっと持っていたからです。

 それは、金の国際価格(ドル建て価格)と金の円建て価格を比べると、金のドル建て価格は39年前の最高値を既に抜け切っているにもかかわらず、円建て価格は39年前の最高値をまだ抜けていないからです。

 価格を追って説明すると、金は1980年1月につけた当時の最高値1トロイオンス=850ドルを、2000年代に入ってから上抜き、2011年9月には1トロイオンス=1,896ドルの最高値を付けました。ところが、円建て価格は1980年1月の1グラム=6,495円はまだ抜け切っていない状況です(ドル建て、円建ての金価格は田中貴金属工業の価格推移を参考)。

 国内の金価格(円建て価格)はドル/円の為替レートに左右されます。円安に動くと、金の円建て価格は上昇しますが、円高に動くと下落します。つまり、金の円建て価格が、まだ最高値を抜けていないということは相対的に円の方が高いということになります。

 ドル建て価格が1980年1月に850ドルをつけた時のドル/円は240円台です。また、2011年9月に1,896ドルの最高値をつけた時のドル/円は77円台です。

 金は1980年の高値と比べると2011年には約2.2倍まで上昇しましたが、円は約3.1倍の上昇(ドル安)となっています。従って円の方が相対的に金より強いため、この時の国内の円建て価格は約4,700円と、最高値6,495円にはほど遠い水準でした。

国内金価格が上抜けるには、円安環境が必要?

 このように国内の金価格は、ドル建て価格とドル/円レートに左右されるため、1980年の高値6,495円を抜けるためには、ドル建て金価格がさらに上昇するか、ドル/円が円安に動くかということになります。

 しかし、円安のときはドル高ということであり、ドルが上昇するときは金が下落するという関係が強いため、円安に動いても国内の金価格は上昇しづらい場面が多いようです。やはり、現在の相場環境では、金も円も上昇しながら、円建て価格が上昇していくという想定になりそうです。

 従って円高がまだ進むのかどうかを考える上で、ドル建て金価格が上昇を続けるのであれば、円も上昇を続けるのではないかというシナリオで、ドル建て金価格を注目していくのも一つの方法ではないでしょうか。しかもその場合、円の方が相対的に強くなるかもしれません。