世界が注目するIMF世界経済見通し

 7月23日、IMF(国際通貨基金)は世界経済見通しの改定値を公表しました。IMFは年4回(1、4、7、10月)、この経済見通しを改定して公表していますが、国際機関であるIMFの経済見通しは、各国の政府や中央銀行の見通しと比べてバイアスがかかっておらず、より中立的な見通しであるためマーケットでは注目されています。

 この経済見通しの中で、特に注目されるのが成長率(GDP:国内総生産)です。このコラムでも、相場シナリオを考える上での参考情報となるため、発表の度に取り上げていますが、3カ月ごとの経済定点観測として見ると、さまざまなことが明らかになってきます。

 今回公表された世界経済見通しの一覧表とポイントは以下の通りです。

(1)2019年の世界の成長見通しは、前回4月の予測よりも0.1%下方修正され、3.2%に減速

(2)下方修正は、2018年10月から4回連続(3.9→3.7→3.5→3.3→3.2%)

(3)下方修正された3.2%は、リーマン・ショック後、景気回復が始まった2010年以降で最も低い水準。3%を切れば世界的に不況感が強まるとされ、IMFは「世界経済は低迷を続けている」と総括

(4)世界経済下押しは米中貿易戦争の影響による世界の貿易量の伸びの鈍化(3.4→2.5%)

(5)米国の2019年成長率は2.6%と0.3%の上方修正。ただ、景気の勢いは弱いため2020
年の成長率は1.9%に減速すると予測

(6)日本の2019年成長率は0.9%と予測し、外需の減退によって4月時点よりも0.1%の
下方修正。2020年は消費増税の影響は避けられないため0.4%に鈍化

(7)中国の2019年の成長率は6.2%と0.1%の下方修正。米中貿易戦争などの影響で2018年の6.6%から減速し、天安門事件の直後だった1990年(3.9%)以来の低い成長率に。2020年はさらに減速し、6.0%まで低下する見通し

(8)2020年の世界全体は3.5%に回復すると予測しているが、米中貿易戦争の解決が前提と指摘(世界は回復するが米国と中国の2020年の成長は2019年より減速予測である点に注目)

IMF 世界経済見通し(成長率)        

注:2019年7月時点、( )内は4月時点からの修正幅
単位:%                    

7月の改定は主要国を下方修正し、米国は上方修正

 今回のIMFの改定では、他の主要国が下方修正されたのに対し、米国が大きく上方修正されています。2.3%から2.6%への予測引き上げの背景は、米国1-3月期のGDPが3.1%に上振れしたためとIMFは説明しています。もし、IMFの予測通りになれば、7月の利下げで打ち止めとのシナリオも浮上してきます。

 確かに米国の景気拡大局面は7月で11年目に突入し、比較可能な1850年代以降で最長となりました。また、失業率も一時3.6%と49年ぶりの水準に下がっており、株価は市場最高値に近い水準にあります。

 このような経済環境の中で、今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)では「予防的」と称して利下げが見込まれています。しかし、もし先行きの継続的な緩和姿勢が示されなければ、金利もドルも反転(金利上昇、ドル高)する可能性があるため注意する必要があります。

 しかし、IMFは米国を上方修正しましたが、厳しい見方もしています。米国1-3月期のGDPの上振れの要因は輸入減や在庫増であるため、2019年末に向けて景気の勢いは弱まると指摘。そして2020年の成長を1.9%に減速すると予測しています。

 米国の景気の勢いは弱まるのでしょうか。そうだとすれば、どの時点で弱まってくるのでしょうか。弱まれば、利下げ継続との期待が高まります。弱まる時期が前倒しになれば、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ回数は増えることが予想されます。後倒しになれば追加利下げは遠のくということになります。

直近の米国GDPは堅調。しかし成長率を押し上げたのは特殊要因だった

 先週26日、米国の景気の勢いを判断する重要指標が発表されました。発表された米国4-6月期のGDP速報値は、予想+1.8%に対して+2.1%と予想を上回りました。予想よりも堅調なGDPだったということでマーケットは好反応を示しました。しかし、果たして、景気の勢いをつなげる内容だったのでしょうか。どうやら、手放しで喜べる内容ではなかったようです。

 成長をけん引したのは、GDPの7割を占める個人消費が前期比年率で4.3%増え、1年半ぶりの高い伸びとなりました。しかし、設備投資は0.6%減少し、約3年ぶりにマイナスとなり、住宅投資は1.5%減と6四半期連続のマイナスとなりました。さらに輸出も5.2%減少し、3四半期ぶりのマイナスとなりました。

 また、成長率を押し上げたのは、政府機関の閉鎖が解除されて政府支出が一時的に増えた特殊要因でした。2.1%の成長率の内、政府支出の寄与度は0.85%分あると言われています。この政府支出増という特殊要因を除けば、4-6月期の米国GDPは1.25%まで下がっていた計算になります。

 もしそうだとすると、米中貿易協議が年内に解決しなければ、FRBの「予防的」利下げは続く可能性があります。また、次回10月のIMFの世界経済見通しでは、米国の成長率を下方修正してくるかもしれません。

 今回のFOMCでは0.25%の利下げが織り込まれているため、注目点は景気認識と緩和姿勢の持続性に移ってきています。パウエルFRB議長は「予防的利下げ」を続けなければいけないような厳しい景気認識を示すのでしょうか。9月、あるいは12月の利下げを示唆するようなメッセージをマーケットに送るのかどうかに注目です。