相続対策ブームがきているようです。税理士以外にもさまざまな専門家が相続対策のアドバイスをしています。でもちょっと待ってください。「独りよがり」になっていませんか?

ちょっと待て!その財産、子どもは欲しいと思いますか?

 筆者は税理士ですので、相続対策に関するコンサルティングもしています。その際強く思うのが、「独りよがり」になってしまっている方がかなり多い、ということです。

 相続対策のうちの1つが、相続税を軽減させる「相続税対策」と呼ばれるもの。典型的な対策が、借り入れをして不動産を購入するという方法です。

 実は現金を不動産に換えるだけで、相続税を計算する際の財産の評価額が下がり、結果として相続税も減らすことができます。

 そのため、専門家・コンサルタントの後押しもあり、実際に借り入れをしつつ不動産を購入して不動産賃貸を始める人がいます。

 でも、ここで良く考えてみてください。相続が起きたときに財産を受け取るのは子ども、相続税を支払うのも子ども、そして引き継いだ借金を返済するのも子どもなのです。

 ですから、本来は子どもの意見を聞いた上で、相続税対策は実行すべきと筆者は考えています。 もし筆者が親から財産を受け取る立場だったら、多少相続税がかかってもよいから、現金をもらいたいと思います。そして、たとえ相続税がゼロになったとしても、多額の借入金という紐つきの不動産を相続したいとは思いません。

相続税は下がるがリスクは上がるという紛れもない事実

 借り入れをして不動産を購入するという相続税対策は、いわば定番中の定番です。極端な話、「借り入れ+不動産購入」を繰り返せば、相続税をゼロにすることも難しくありません。

 ここで知っておいていただきたいのが、借り入れをして不動産を購入することで、リスクも上がっているということ。

 実際、バブル期も多くの人が借り入れして賃貸アパート・賃貸マンションを建てました。しかし思ったように部屋が埋まらないと、家賃から借入金を返済することができません。そのうちにバブルも崩壊し、結局は不動産を安値で売らざるを得なくなり、借金だけが残った人もいます。

 また、「借り入れ+賃貸不動産購入」の相続税対策は、別名「早死に対策」とも言われます。対策後間もなく亡くなって相続が発生すれば、大きな相続税軽減効果が期待できる一方、長生きすれば賃貸不動産から得られる現金が相続財産として蓄積し、結局は不動産購入による相続税軽減効果は薄まるのです。

「もらう側」の立場であれば親にしっかり現状を聞いておこう

 読者の方の中には、「あげる側」ではなく「もらう側」である方も少なくないと思います。もらう側の立場でまず押さえておきたいのが、「親の財産の現状はどうなっているか?」です。

 財産を相続するのは自分、そして相続税を納めるのも自分です。さらには、借金を相続した場合、それを返済するのも自分になります。

 以前、私のクライアントで絶対に相続税を払いたくない方がいらっしゃいました。その方は、相続税対策として、多額の借り入れをして不動産を購入していました。借り入れの額はみるみる膨らみ、なんと30億円になっていました。

 そしてその方に事情を聞くと、相続人となる息子さんには、この事実を一切話しておらず、おそらく知らないはずだ、というのです。

 もし息子さんがこの事実を知ったら、どう思うでしょうか。筆者がこの立場だとしたら、30億円もの借入金を背負うというプレッシャーに、心が押しつぶされてしまいます。

対策を行う前に「家族会議」をしておこう

 筆者の感覚では、相続対策をする前に、親子でしっかりと会話をしているケースは少ないと感じます。

 しかし親と子との間で認識違いがあると、結果として相続により残された側の人間が不幸になってしまいかねません。

 ですから、認識違いを避けるために、あらかじめ「家族会議」をしておくことをお勧めします。

 親として、どのように財産を子の世代に残していきたいのか。そして相続税が現状だとどのくらいかかり、対策をすることでどの程度減らせるのか…。親としての考えを子に伝えてください。

 子どもの方も、しっかりと現状を把握し、相続税対策により現金が「借り入れ+不動産購入」に置き換わることに同意するのか、それとも相続税対策をせず多少の税金を払う方がよい、と思っているのかを親に伝える必要があります。

 こうすれば、渡す側、もらう側の双方が納得する対策をすることができ、後々トラブルを防ぐことができるのです。

 相続税対策を安易に考えると、残された子にとっては悲劇を招く結果にもなりかねません。親子で話し合って、お互いが納得のいく形で対策を考えていってください。個人的には、子の側が「多少の税金は払うから特に対策はしないでほしい」と主張したら、親の側はそれを尊重してあげてほしいと思います。