民法の中の相続に関する部分、いわゆる「相続法」が今年から来年にかけて大きく変わります。「自分には関係ない」と無視するのではなく、最低限の概要だけは知っておくようにしましょう。

2019年~2020年にかけて相続法が大改正!

「相続」と聞いて「自分にはあまり関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、親御さんが亡くなった場合、突然ご自身に降りかかってくるのが相続です。
 
 そして、2019年から2020年にかけて、民法の中の相続に関する箇所、いわゆる「相続法」が大きく改正されます。この中には、相続が起きてからの話だけでなく、相続が起こる前の事前対策に関する話も含まれています。

 法律については、知らなかったでは済まされません。逆に、法律を知っていたことにより自らの身や財産を守ってくれるケースも多々あります。そこで今回は、2019年から2020年にかけての改正内容を簡単に紹介していきたいと思います。


自筆証書遺言の方式緩和はすでにスタートしている

 遺言書の作成方法の1つとして、「自筆証書遺言」があります。この自筆証書遺言、以前は全てを遺言者自身が自筆で書く必要がありました。そのため、特に高齢者の方にとっては負担が大きく、遺言書の作成を躊躇(ちゅうちょ)させる要因となっていました。

 そこで、2019年1月13日より、遺言書の本文は自筆が必要であるものの、自筆に限らない財産目録の添付が可能になりました。従来は、財産の目録についても自筆が要求されていましたが、例えば現在は財産目録をパソコンで作成することもできます。

 ただ、筆者としては自筆証書遺言の要件緩和があったとしても、自筆証書遺言よりは「公正証書遺言」を作成することをお勧めします。自筆証書遺言は法的要件を満たさなければ効力が無効になってしまい、紛失の可能性もあります。

 公正証書遺言であれば、公証人が法的要件を満たした遺言書を作成してくれ、公証人役場で保管するので紛失の心配もありません。

 なお、自筆証書遺言も2020年7月10日以降は、公証人役場で保管してもらうことができるようになるので紛失の可能性は減少します。

 遺言は、将来相続が発生した際のトラブルを未然に防ぐため非常に重要です。相続税が発生する可能性の高い家族の場合、税金のシミュレーションを行ったうえで、税負担も考慮しながら誰にどの財産を相続させるかを決めていく必要があります。

 余計なトラブルやもめ事を避けるために遺言を残すわけなので、その効力が無効となると元も子もありません。取り急ぎ自筆証書遺言を作っておくのは賛成ですが、最終的には「公正証書遺言」を作成するのが望ましいと思います。

今年7月から何が変わるのか?

 2019年7月1日から、かなり多くの改正点があります。
 ・持戻し免除の意思表示の推定
 ・預貯金の払戻し制度の創設
 ・遺留分制度の見直し
 ・特別寄与制度の創設

 これ以外にもいくつかあります。

 この中で、まず預貯金の払戻し制度について説明します。従来は、被相続人の預貯金について遺産分割前に単独で払い戻すことができませんでした。しかし改正後は、生活費や葬儀費用の支払いに充てるため、遺産分割前であっても一定額(上限150万円)までは払い戻しができるようになりました。
 これにより、手元にお金がない相続人も、被相続人の預貯金を使うことができるようになります。

 もう1つ、「特別寄与制度」の創設についてです。従来は、例えば父の介護を、長男の妻が長期間行っていても、長男の妻は父の相続人ではないので、父の遺産を受け取ることができませんでした。

 しかし改正後は、このような特別な寄与をした人は、相続人に対して金銭を請求することができます。イメージとしては遺留分の請求に近いです。
 この改正で気を付けたいのは、金額を決定するのは当事者の話し合いではなく家庭裁判所なので、訴訟のような形になり、両者の関係がかなり悪くなる可能性が高いという点です。

 確かに法律上は、相続人ではない人が相続財産を受け取れる道筋はつきましたが、実際はハードルが高いと思ったほうが良いでしょう。人間関係の悪化も含め、相当な覚悟と心構えが必要になるでしょう。


配偶者居住権の新設は2020年の4月から

 今回の改正の大きな目玉である「配偶者居住権」の創設は、2020年4月1日からです。これにより、配偶者が居住している自宅は、相続により「配偶者居住権」と「負担付き所有権」の2つに分類されることになります(負担付所有権とは、配偶者居住権が付属した所有権)。

 従来は、配偶者が自宅を相続すると、それだけで高額になり、他に金銭の相続を受けられず老後の生活に不安を感じるケースが多くありました。
 しかし改正後は、自宅のうち配偶者居住権のみを相続すれば、自宅をまるまる相続するよりも相続を受ける額が抑制でき、他に金銭も相続しやすくなります。

 ただ、負担付き所有権を相続した相続人は、売却できないにもかかわらず相続税計算上それなりの財産価値を有するものを相続することになるため、あまり嬉しくないかもしれません。金銭に換えられないものの相続税はかかるとなれば、納税資金を自分で工面しなければならなくなってしまいます。

 個人的には配偶者居住権は、負担付き所有権を相続した相続人の心情を考えるとあまり使い勝手が良い制度とは感じません。もちろん、この制度を使うことでメリットがあれば使うと良いでしょう。
逆に使いたくないのであれば、無理に配偶者居住権と負担付き所有権に分けずに、今まで通りに、通常の所有権として自宅を相続すれば良いだけです。

 相続は、発生してからの対策はあまり期待できない一方、生前にできる効果的な対策は数多くあります。

◎生前にしっかりと相続対策をすれば、家族の争いや、不仲になることを回避できます。
今回の相続法の改正を、相続対策の必要性につき改めて考えるきっかけとしてください。