5月相場は、「米中摩擦」の蒸し返しから始まり、米国の先制攻撃に中国側も応戦。「米中摩擦」の激化に緊張感を高めつつ、すかさず悪化した経済指標(5月の中国製造業PMI)により「景気減速」もリスクオフを正当化。株やコモディティ(原油や銅)から資金が流出し、債券に資金が流入するという典型的な“質への逃避”がグローバルで進行しました。

 前回(世界的な株高の追い風ありながらマザーズは反落)で「流動性の低い資産や、クオリティの低い資産は売り対象」と書きましたが、筆者的には、その代表格が日本の新興株(マザーズの高バリューション銘柄)だと思っていました。日経平均株価やTOPIXとイーブンか、それ以上の下落になると思っていたのですが…実際は、地合い悪の中で新興株が健闘、これが意外でした。

 5月の月間騰落率は、日経平均株価が▲7.44%、TOPIXが▲6.52%。一方で日経ジャスダック平均が▲3.29%、東証マザーズ指数が▲4.28%と東証1部より新興株指数の下落率は小さく留まりました。なぜ傷が浅かったのか?

 根本的な理由は、「先物の流動性」で説明がつきます。現時点で開示されている5月第3週まで(5月7~24日)の投資主体別売買動向を見ると、売りの主体は「外国人」でした。その外国人はこの期間の合計で、現物を2,164億円売り越していましたが、先物は1兆5,719億円売り越しでした。現物の7倍以上、先物を外国人が売って下がった相場だったわけです。

「マザーズにだって先物があるじゃないか?」と思われるかもしれません。ただ、先物を1兆5,719億円も売り越したうち、東証マザーズ指数の売り越し額はどれくらいか?…答えは「約2,600万円です」(ほぼゼロと同じ)。

  つまり、新興株市場に先安感が広がったとして、先物売りのポジションを持って、その下げを利益にしてやろう、という気すら起きないほど流動性が低いということです。外国人の中でも、短期勢のヘッジファンドの先物売りや空売りが日本株下落の中心軸だったなか、仮需の市場が発達してない新興株は被害が小さかったといえます。もちろん、米中摩擦の影響受ける企業が極めて少ないとか、円高影響ほぼ受けないとか、そもそも投資家層が違うとか、後講釈するならいろいろ理由付けできるでしょうが…。

 

5月の売買代金ランキング(人気株)

「米中摩擦」を嫌っていることが明確ななか、個人投資家も売買を委縮。4月は売買代金ランキング1位オンコリスの売買代金25日移動平均値が211億円でしたが、5月の1位サンバイオは同103億円と半分でした。4月まで1位から6位をバイオが占拠していましたが、5月はメルカリ、ALBERTの非バイオ株も上位に顔を出しています。

“主役はバイオ”な地合いが消えたとは言えないものの、4月と比較すれば多くのバイオ株の売買代金が減りました(=流動性低下)。4月は211億円だったオンコリスは、6割減の79億円で3位に転落。前月2位のサンバイオ、3位のアンジェスも売買代金は大幅減で、根本的に売り手が多い(信用買い残が多い)新興株市場の場合、買い手が減りながら流動性が低下すると株価は確実に下がります。これら3銘柄も株価は大きく下落。一方、そーせいが前月比でも売買代金9割増で逆行高、5月の月間MVP銘柄はコレ! ですね。

市場 コード 銘柄名 5月末
終値
時価
総額
売買代金
25日
移動平均値
月間
騰落率
東証マザーズ 4592 サンバイオ 3,825 1,979 103.4 -14.8%
東証マザーズ 4565 そーせい 2,012 1,537 93.1 38.0%
東証マザーズ 4588 オンコリス 2,204 307 79.1 -21.8%
東証マザーズ 4385 メルカリ 3,200 4,801 52.4 -6.8%
東証マザーズ 4563 アンジェス 709 741 40.6 -16.4%
東証マザーズ 3906 ALBERT 11,700 381 23.1 -10.1%
東証マザーズ 3990 UUUM 4,345 822 22.2 -4.9%
東証マザーズ 4435 カオナビ 7,560 410 22.0 25.2%
ジャスダック 2146 UT GROUP 2,503 1,010 19.2 -21.3%
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 3,270 337 18.7 -23.3%
ジャスダック 6324 ハーモニック 3,595 3,463 18.7 -17.9%
東証マザーズ 7061 日ホスピス 3,000 223 18.1 30.6%
東証マザーズ 4596 窪田製薬 318 135 17.3 -31.3%
東証マザーズ 6067 インパクト 4,690 239 17.1 35.2%
東証マザーズ 4382 HEROZ 14,550 1,014 15.9 15.5%
東証マザーズ 4397 チームスピリト 2,992 471 15.6 -0.3%
ジャスダック 4657 環境管理 702 33 15.4 27.6%
ジャスダック 7564 ワークマン 5,200 4,256 14.5 -3.3%
東証マザーズ 4429 リックソフト 17,340 365 14.4 11.9%
ジャスダック 7746 岡本硝子 191 44 13.3 -32.5%
【単位】時価総額:億円 売買代金25日移動平均値:億円 月間騰落率:%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 サンバイオ(4592・東証マザーズ)

 4月に月間騰落率+57%と再フィーバーしたサンバイオですが、5月は大幅反落。リスクオフ地合いに飲まれたうえ、14日に発表した増資が嫌われました。

 今期の研究開発費は50億円強に膨らむため、ファイナンスリスクは強かった銘柄。同社の純資産は、19年1月期末で89億円です。ただ、18年1月期末に比べて80億円増加しており、決算説明会資料でも「財務基盤は安定」と強調。その経緯もあって、増資はしばらく先と楽観視されていたのかもしれません。14日の発表では、海外募集の新株発行で手取り概算73億円を調達すると。新株200万株は、発行済み株数の4%弱。

2 そーせいグループ(4565・東証マザーズ)

 鬼門の決算発表は、いったん利益確定売りの材料に。14日に発表した第1四半期(1-3月期)業績は、最終損益が10.18億円の黒字に転換(前年同期は15.68億円の赤字)。英アストラゼネカからの大型マイルストン(約16億円)の貢献が大きく、これ自体はすでに事前発表があったため想定内です。

 見る目が変わるきっかけになったのは、海外機関投資家による買い増し判明でした。21日に、米運用会社のタイヨウ・ファンド・マネッジメントが保有比率を8.23%→9.11%へ引き上げたと5%ルールで報告。これを受けた同日午後から提灯買いが集まり、年初来高値を更新します。このタイミングで市場全体が物色難だったこともあり、そーせいへ全員集合ムードへ。

 タイヨウのさらなる買い増し期待などが背景にあると思われますが…そのタイヨウは31日、保有比率を9.11%→7.90%へ引き下げたと報告しています。これぞ、“利食い千人力”?

3 オンコリスバイオファーマ(4588・東証マザーズ)

 4月に比べると売買代金が急減。上場来で最大の出来高を記録したのが4月11日(この日の安値は3,235円、高値は3,765円)、ここで買った投資家の損切りに押された1カ月でした。

 気になるのは、5月の下落局面でも信用買い残自体はほとんど減っていない点。前述の4月第2週に信用買い残も急増し、過去最大の345.9万株まで膨張。これが、開示されている5月24日時点分でも325.9万株あります。下落局面に逆張り買いで向かった投資家が多かったと見られますが、信用買い残が発行済み株数の23%もある点は尾を引くかもしれません。

4 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 決算で売られ、需給材料で戻すも、結果的には月間マイナス…そんな1カ月。9日に発表した今第3四半期決算は、売上高は43%増の373.78億円、営業損益は59.81億円の赤字。ここまで通期の業績予想を開示していないメルカリですが、第3四半期のタイミングで売上高だけレンジを開示。19年6月期の売上高予想を「500~520億円」としています。

 決算発表翌日10日に5.8%安、翌13日も6.7%安、14日もトドメの5.0%安…この時点で投資家が業績を失望したことは明らかでしょう。アナリストの投資判断引き下げ、目標株価大幅引き下げも見られました。ただ、そこから月末にかけ反転上昇!
その理由は、MSCIの日本スタンダード標準指数に新規採用されたから。リバランスは28日大引けで、400万株強の買い需要が発生することを見越したイベントドリブンが活発化。リバランスの買いが入った5月最終週の週間上昇率は+15.1%で、週間上昇率としては上場来2番目の大きさになりました。

 リバランスの買いというのは、簡単にいうと「業績や今の株価的に買いたいかどうかは抜きにして、指数に採用されたから買わないといけない人による買い」です。

5 カオナビ(4435・東証マザーズ)

 4月に続き、5月も人材関連株の新顔としての人気が継続。直近IPOのテーマ株として買われていた雰囲気でしたが、一段高の火を灯したのが14日に発表した上場後初となる決算でした。今20年3月期の期初計画で、売上高を前期比50%増の25.4億円と発表(利益項目は非開示)。独自の人材管理クラウドサービス「カオナビ」に対する需要が強く、そもそも赤字上場銘柄だけに、市場の関心事はトップラインの伸び率だけ。その点では、投資家の期待に応えたと見なされた様子で……。

5月の株価値上がり率ランキング

 4月はサンバイオ、TKP、SHIFTなど時価総額の大きい主力銘柄が値上がり率で複数ランクインでしたが……。このクラスの大型新興株でいえば、5月は20位にそーせいグループが入った程度でした。市場全体の地合いが悪いなか、個人投資家は値動きの軽い超小型株で日替わり勝負。20銘柄中、14銘柄が月末時点で時価総額100億円未満の超小型株でした。

 また、5月は例年、IPOが空白になる時期です。今年も30日のマザーズ上場バルテスまで、1カ月以上の空白がありました。IPO銘柄の初値買いに短期資金が向かわないことで、直近IPO銘柄が物色されることはよくある現象。5月時点の最直近IPO銘柄(4月25日上場)のグッドスピードが値上がり率トップで、トビラシステムズも5位にランクイン。2番目に新しい(4月24日上場)ハウテレビジョンも17位に入っており、「直近IPOだから買う」という概念が明確に存在しているといえます。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率(%)
5月末
終値
前月末
終値
価格
時価
総額
(億円)
東証マザーズ 7676 グッドスピ 126.5% 3,510 1,550 54
ジャスダック 4356 応用技術 97.8% 2,660 1,345 76
ジャスダック 1724 シンクレイヤ 94.3% 1,014 522 41
東証マザーズ 6195 ホープ 93.4% 1,948 1,007 27
東証マザーズ 4441 トビラシステム 66.1% 9,300 5,600 310
東証マザーズ 4420 イーソル 64.6% 1,906 1,158 409
東証マザーズ 7036 イーエムネットJ 58.5% 6,150 3,880 57
ジャスダック 5724 アサカ理研 56.4% 1,902 1,216 49
ジャスダック 5216 倉 元 55.1% 121 78 20
東証マザーズ 2586 フルッタフルッタ 51.9% 600 395 12
ジャスダック 7057 エヌ・シー・エヌ 47.7% 1,412 956 45
東証マザーズ 5704 JMC 46.5% 1,683 1,149 88
ジャスダック 7638 NEW ART 44.4% 39 27 130
東証マザーズ 3135 マーケットエンタ 43.1% 1,959 1,369 100
東証マザーズ 6092 エンバイオHD 43.0% 852 596 55
ジャスダック 8938 LCHD 42.2% 1,405 988 78
東証マザーズ 7064 ハウテレビ 39.2% 4,510 3,240 57
ジャスダック 6840 AKIBA 38.9% 3,760 2,707 35
東証マザーズ 3137 ファンデリー 38.6% 1,656 1,195 106
東証マザーズ 4565 そーせい 38.0% 2,012 1,458 1,537
【単位】月間騰落率:% 時価総額:億円 

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 グッドスピード(7676・東証マザーズ)

 4月25日上場の、5月時点では一番新しい「直近IPO株」(平成最後のIPO)。東海地方で中古車販売店を展開しており、特徴といえばSUVに特化している点。とはいえ、成熟産業で、類似会社も多い目新しさは無いビジネスモデルです。公開価格1,400円に対し、初値は1,750円と派手なスタートではありませんでした。

 ただ、5月のリスクオフ地合いによる物色難とIPO空白期間入りが、逆に追い風に。
28日高値4,320円まで、まさに爆騰! 上場する類似会社では、SUV専門業態を持つネクステージが妥当で予想PER(株価収益率)は23倍程度です。ただ、一度勢いが付いた株価モメンタムの前に、同業他社との比較など不要?…グッドスピードは一時、予想PER50倍台とダブルスコアまで買われました。

2 シンクレイヤ(1724・ジャスダック)

 第1四半期決算の発表をきっかけに、4日連続ストップ高。このストップ高4連発だけで、株価は約2倍に変貌…低流動性、低知名度の超小型株の醍醐味が発揮されましたね。

 同社が14日発表した第1四半期決算で、営業利益が前年同期比2.2倍の4.6億円に。昨年12月に「新4K8K衛星放送」が開始、チャンネル数の増加などに対応したケーブルテレビ事業者の設備増強ニーズが高かったそうです。好決算で株価急上昇でも、予想PERでは10倍程度。つまりは、好決算で注目される前の予想PERは5倍台だったということで、割安放置のバリュー株がジャスダックには多いと改めて感じます。

3 ホープ(6195・東証マザーズ)

 値上がり率2位のシンクレイヤをさらに小ぶりにした、超小型株。前月比で株価はほぼ倍増しながら、まだ時価総額は27億円です。
同社は、地方自治体の財源確保支援を主力事業としています。こちらも買い殺到のきっかけは、決算材料。27日に2019年6月期の業績予想の上方修正を発表し、翌日から3日連続でストップ高買い気配となりました。営業損益を0.3億円の赤字と見ていたところを、0.5~0.7億円の黒字予想に上方修正。「黒転は買い」というやつでしょうか。

4 イーソル(4420・東証マザーズ)

 上値追いに火が付いたのが、22日の同社のリリースでした。自動運転技術の業界標準を目指す国際業界団体「AWF(オートウェア ファウンデーション)のプレミアムメンバーに昇格したと発表。プレミアムメンバーは最も主要なメンバーとして、自動運転システムのプロジェクト推進に貢献すると。5月はほぼ一本調子で上昇。全上場銘柄見回してもレアな上場来高値銘柄として、トレンドフォローの短期勢も参戦か。

5 アサカ理研(5724・ジャスダック)

 5月相場を覆っていた「米中摩擦」、これを逆手にとった形でテーマ株に急浮上したのが同社でした。米国のファーウェイ禁輸規制に対抗し、中国側がレアアース(希土類)の対米輸出制限を示唆。中国が禁輸規制に踏み切ると、チタンに代替需要が発生するとの思惑で大阪チタニウムや東邦チタニウムなどが物色対象に。この連想で小型株を探すと行き着くのがアサカ理研。電子部品などから独自技術で貴金属を分離・回収する事業を手掛けています。

6月に注目したい新興株の動き

 米中の通商摩擦問題がどんな展開になるか? 次第で、現時点では「分かりません」としか言えません。この不透明感が断定的なポジション構築を皆無にさせている理由で、市場の中も、投機筋の短期売買で溢れかえっている印象。貿易摩擦をネタにした短期のポジションだけ積まれているため、緩和なら買戻しで上昇、激化なら下落。当面はこの繰り返しでしょう。

 6月最大の注目点は、ほぼ全輸入品に制裁関税を課す「第4弾」の発動が現実化するのかどうか? 17日から米当局の公聴会があり、最速でも6月末発動ですが、過去パターンでは発動しても7月以降と見られています。6月28日~29日の大阪で開かれるG20(20カ国・地域首脳会議)で報道通りに米中トップ会談が行われるのか? など、まだ続報待ちとしか今は言えません。

 繰り返しになりますが、米中摩擦に関しては、全員どうなるか「分かりません」状態で幕開けしたのが6月の新興株市場。日本でいえば、消費増税の延期どうするの? も「分かりません」ですね。

 その中で、新興株の周辺で「分かる」ことで言えば、6月はIPOが多いということ。マザーズ、ジャスダックだけで7社ですが、目玉は6月19日上場予定の名刺管理サービスSansanです。公開規模で約390億円、時価総額は1,300億円強といきなりマザーズの時価総額7位(6位のそーせいが約1,500億円)で登場します。

 売上の伸びは強いものの、大幅赤字の状態で出てきます。バリュエーションで割高/割安の判定が困難な銘柄だらけのIPOですが、この組み合わせでこれだけ大きいIPOは昨年6月のメルカリ以来。初値がどう付くか? その後どうなるか?(メルカリは初値だけ高かった)が、新興株へのセンチメントに影響すると考えられます。

 もう一点「分かる」ことで気にしておくべきは、“GAFA”と呼ばれる米IT大手の株価が、米中摩擦以外の要因で崩れているという点。今月に入り、米議会が米IT大手に対して反トラスト法(日本でいう独占禁止法)違反がないか調査すると発表しました。どの程度の本格的な捜査が始まるのかは「分かりません」が、GAFAの寄与が大きいFANGプラス指数がベアトレンド入り(直近5月高値からの下落率が2割超に)した疑いがあることは「分かる」こと。

 この調査が日本の新興株に関係あるか? といえば「関係ない」わけですが、日本の個人投資家が近年、GAFAなど米国株を多く保有している点で紐付いてしまっています。GAFAがさらに下がると担保が痛み、手持ちの利益が乗っている銘柄で利益確定売りを急ぐ(例えば、この報道の翌日の4日に、前週好パフォーマンスだったメルカリやラクスが急落しました)…こうしたリスクも抱えているといえます。

 心配事ばかり並べてしまいましたが、ほんと最近、心配の種が多くないですか?