6月相場の株式市場は、米中摩擦の先行き不透明感に包まれています。その状況は対中関税の引き上げや華為技術(ファーウェイ)に対する取引制限が実施されるなど、着実に悪くなっています。

 しかし、当事国である中国株市場に目を向けると、上海総合指数は2,850ポイントから2,950ポイントの範囲を中心とした上げ下げを繰り返していて、相場環境の割には底堅さを見せています。

 今のところ相場が崩れてはいないのは、米中ともに最悪の事態は望んでいないという良心的判断と、政治的決断によって状況が一気に好転するのではという期待感が背景にあります。スケジュール的にも、6月28日にG20サミット(首脳会議)が開催されるというタイミングですので、近いうちに何らかの進展があってもおかしくはありません。

MSCIへの中国株組み入れは3段階で拡大

 足元の中国株市場は、米MSCIによる中国株の指数組み入れ枠拡大を控えて、海外からの資金流入期待が支えになっているとの見方もあります。株価指数を算出しているMSCI社は、「MSCI新興国株指数」における中国A株の組み入れ枠を、5・8・11月の3回に分けて高めていく方針です。

今回はその第1弾ですが、最終的には大型253銘柄と中型168銘柄の中国A株がMSCI新 興国株指数に組み入れられます。これによって海外のインデックスファンドを中心に最大600~700億ドルの資金が中国株市場に流入するとも言われています。

 普通に考えれば、日本株市場における日銀のETF(上場投資信託)買いと同様に、中国株市場も需給的な要因がサポートになるわけですが、だからと言って、これがさらなる中国株上昇のエンジンになるかといえば、5月29日時点での上海株市場の時価総額は約4兆4,800億ドル、売買金額は約286億ドルですので、期待される資金流入額と比べると、規模的には十分ではないと言えます。

指数採用がこれまで進まなかったのはなぜ?

 元々、中国当局にとって、中国A株がMSCI新興国株指数に採用されるのは念願でした。実際にMSCI社が中国A株の指数採用を決めたのは2017年6月で、組み入れ開始は2018年6月からなのですが、それまで2014年から3度の不採用を経験しています。しかも、中国よりも経済規模の小さいパキスタンの方が先に指数に採用されるという経緯があり、この決定がされた日(2016年6月15日)は習近平国家主席の誕生日で、「メンツをつぶされた」格好でもあります。

 中国株市場はすでに東証の時価総額を上回る規模を持ち、海外投資家からも「これだけの規模の市場で運用できないのは、不健全」という声が出ながらも採用を見送られた最大の理由は、中国の資本市場の整備と自由化の遅れです。その主な問題点として、(1)投資規制、(2)取引上のルール、(3)当局による市場介入、(4)上場企業のガバナンスなどが挙げられます。

 実際に、海外投資家が中国株を取引するにあたり、「取引額が制限」「上場企業の判断で株式売買を停止」「いわゆる『チャイナ・ショック」時に空売りを行った投資家が拘束」「上場企業の定款に中国共産党の介入を容認する旨を明記」といった事例が、一部で改善が見られてはいるものの、現在も残っています。

 そのため、2017年の採用決定の際には、対象銘柄数を減らして大型株に限定し、組み入れ比率も大幅に低くするといった具合に、当初の採用案と比べるとかなり「ハードル」を下げられています。まずは、十分な流動性を確保できる銘柄を先行して採用し、その後は市場整備と自由化の進展状況に合わせて拡大して行くといった条件になっています。

採用拡大は中国株底上げの材料。課題は政府の改革スピード

 したがって、今回行われている中国A株の指数組み入れ拡大は、中国当局による一定の努力が認められた結果と言えます。ただし、あくまでも下げられたハードルが当初の採用案に少し近づいたに過ぎず、今回拡大されるのは、本来の組み入れ比率に対してまだ2割の規模です。

 良くも悪くも、今後の中国当局の取り組み次第になりますが、さらに改革を進めて中国市場に対する信頼を高めていければ、組み入れ枠が拡大されて、より多くの資金を海外から呼び寄せることができ、中国株市場の株価底上げにもつながって行きます。

 ただし、この分野における中国の改革のスピードは遅い傾向があります。2016年にIMF(国際通貨基金)が人民元をSDR(特別引き出し権)の構成通貨に加えましたが、その時も中国は「人民元を国際通貨としての地位を確立するために引き続き自由化を進める」という姿勢を示していたものの、現時点で目立った成果は挙げられていません。

「やります!」という姿勢を見せつつも、スピード感をもって実行しないという中国の一面は米中摩擦にも表れています。最近になって米国が中国に対してここまで圧力を強めたのは、合意が間近という見方が強まる中で、いきなり合意文案の内容を3割も削ってきた中国側の対応の変化が発端になっています。その削った部分には、合意内容の遵守と違反した際の法的拘束力について触れている内容があります。

 この内容が「不平等条約」にあたるという中国側の言い分もありますが、米国側が中国に対して「約束しておきながらやらない」という実行力に不安があるからこそ、この削られた部分にこだわっていると考えることもできます。

 よって、米中関係の進展も、中国株市場のさらなる株価上昇についても、共通してカギを握っているのは、中国当局の取り組み姿勢と実行力になると言えそうです。