5月の円高、4つの原因

 5月は、一直線の円高となりました。月間値幅としては約3円50銭。久々の大きな値幅です。1月のフラッシュクラッシュによる1ドル=104円台を付けた1月3日の値動きを除くと、1月の値幅は約2円強。その後の月間値幅も最大が2円強です。3月にFRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)のハト派姿勢の転換によって、112円台から109円台に円高が進みましたが、値幅としては2円強です。5月はその倍近く動いたことになります。変動が大きかった5月相場を振り返ると、そのポイントは、

【1】米中貿易協定合意期待が一転、貿易摩擦が激化

→それまでの米中貿易協定合意への期待が5日のトランプ米大統領のツィッターで一転。トランプ大統領は10日から対中追加関税を25%に引き上げるとツィートしたことをきっかけに円高が進行。実際に10日に追加関税引き上げを実施。

【2】米中貿易摩擦激化による米経済減速懸念から米長期金利が低下し、米株は大幅下落

米10年債金利が、月初の2.5%から2.13%に低下、ダウは1,777ドル下落(終値▲6.7%)。

【3】欧州通貨や豪ドルのクロス円の円高

→米経済が良好なことから米ドルも堅調だったため、政局不安や経済の弱さが目立つ欧州通貨や中国経済減速の影響を受ける豪経済の弱さなどからユーロや豪ドルが下落し、その結果、クロス円の下落が際立つ円高・ドル高の様相となった(1ユーロ=125円台から121円割れ、1豪ドル=約79円→約75円)。

【4】5月下旬、トランプ政権の中国やメキシコに対する強硬姿勢が嫌気され、一気に円高加速

→27日、日米首脳会談後の記者会見でトランプ大統領は、米中貿易問題の早期解決は困難との見方を示したことから、米中貿易交渉の早期合意観測が後退。

→5月30日にはトランプ大統領がメキシコからの輸入品に5%の関税を課すと表明。

 6月の相場シナリオを考える際に、5月の円高をもたらしたこれらの要因が継続するのか、あるいは変化するのかを見極める必要があります。

経済イベント満載、6月どうなる?

 6月1日、中国は米国の制裁関税に対する報復措置を発動。600億ドル分の米国製品への追加関税を、最大25%に引き上げました。また中国は、レアアースの対米輸出規制を検討との報道もあります。

 今月28~29日に大阪G20(20カ国・地域)首脳会議が控えていることから、米中首脳会談への期待が円高のブレーキ役となるかもしれません。ただ、その一方で6月18日には、トランプ大統領が来年の大統領選挙への出馬を表明するため、貿易問題に対するトランプ大統領の強硬姿勢は変わらないことが予想されます。従って円高圧力は継続されることが予想されそうです。

 また、ここ連日、FRB理事からのハト派発言が目立っており、パウエル議長も6月4日の講演で、「経済が貿易摩擦の影響を受けるのなら適切に行動する」と利下げを示唆する発言をしました。この発言を受けて、貿易摩擦による経済減速は利下げで対応できるとの安心感から、米国株は500ドルを超える反発となりました。市場の見方も年2回や3回の利下げ期待が浮上してきています。6月18~19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、利下げはないにしてもハト派色が強まることが予想され、FOMCが近づくにつれてドル売りが強まる可能性があります。

 欧州経済や豪ドル経済の弱さは続くことが予想され、クロス円の一段の円高も予想され、6月もドル/円の上値を抑える要因となりそうです。

 日本の実需筋の動きにも注目する必要があります。2020年3月期業績見通しの主要企業の想定為替レートは1ドル=110円が多く、また、直近3月公表の日銀短観では、大企業・製造業の想定為替レートは108.87円と110円よりも円高の水準となっています。このため、109円前後からは輸出企業の売り圧力が強まることが予想されます。

 105円が視野に入ってきたとの見方が出てきますが、一直線で105円に円高に行くとは思えません。その前にはいくつかの重要なテクニカルポイントがあり、それらを確実にブレイクしていく必要があります。まずは年初来高値112.40円と年初来安値(※1)104.10円の半値である108.25円以下で相場が続くかどうかがポイントになりそうです。108.25円以下の相場が続けば、次は2019年1月4日の安値107.52円がターゲットとなりそうです(107.52円は1月3日のフラッシュクラッシュの翌日の安値)。

※1:高値、安値は各種相場情報から筆者が判断した水準。

 5月に大きく動いたドル/円相場は単月で終わるとは思えません。一方で、5月の利食いや反動で 相場が戻す場面も見られるかもしれませんが、5月に円高をもたらした相場環境が大きく変わらない限り、相場の方向は依然、円高を向いているようです。

6月の主要日程

6月1日 中国の米輸入品関税(600億ドル相当)の引き上げ
6月10日 米国、対メキシコ制裁関税第1弾(5%)実施見通し
6月中旬 英国メイ首相の辞任を受けて与党・保守党の党首選始まる
6月17日 対中追加関税(3,000億ドル相当)についてUSTR(※2)が公聴会
6月18日 トランプ大統領再選出馬表明
6月18~19日 FOMC
6月28~29日 大阪G20

※2:USTR= United States Trade Representative。米国通商代表部。米国の通商交渉・貿易摩擦等の貿易に関する問題について、大統領を補佐する機関。