前回、「経済が高成長する国の株価は上がりやすいので、人口動態に注目して高成長する国を探す」というテーマで書きました。労働人口の伸び率をもとに、高成長する可能性が高そうな国を探しましたが、人口動態を見る方法は、他にもあります。今回は、“人口ボーナス”という観点で成長しそうな国を探していきます。

人口ボーナスに注目

 人口動態の分析で、人口ボーナスという考え方は、全体の人口の中で、働く人の比率が増えれば、経済成長が加速するというものです。また、その期間を人口ボーナス期と呼びます。

 人口ボーナス期を確認するには、まず以下の数値を把握します。
労働人口 ÷ 従属人口
※労働人口:15歳から64歳までの人口
※従属人口:15歳未満の若年人口と65歳以上の老年人口の合計

 労働人口の従属人口に対する比率が高ければ高いほど、大勢の労働者がいて、働いていない子供や老人の生活を支えていることになります。例えば「労働人口÷従属人口=2」であれば、2人の労働者で1人の子供か老人の生活を支えていることを意味します。数字が大きければ大きいほど、子供や老人の生活を支える労働者の負担が小さくなり、逆に数字が小さければ、労働者の負担は大きくなります。

 労働者は負担が小さいほど、生活に余裕ができ、消費も活発になりますので、経済成長が後押しされるわけです。

人口ボーナス期の定義は、
(1)労働人口÷従属人口が2以上になっている期間
(2)労働人口÷従属人口の数値が上昇している期間
(3)(1)と(2)の両方が実現している期間など、複数あります。
今回は、(2)の考え方に従い、人口ボーナス期を見ていきます。

先進国と新興国の人口ボーナス期

 以下は、先進国と新興国の労働人口/従属人口とその10年変化率を表示しています。※今回は、10年変化率が上昇を続ける期間を人口ボーナス期とみなします。

 表の青いセルに注目してください。10年単位で見ると、世界全体と先進国は、2010年には、人口ボーナス期が終了しています。一方、新興国は、2020年まで人口ボーナス期が続きます。さらに労働人口/従属人口の推移を見ると、先進国は人口ボーナス期が終わった2010年以降は数値がどんどん下がっていきますが、新興国は2020年以降も数値は大きくは下がりません。

 ここから、人口ボーナスの面で見ても、新興国は先進国よりも高い経済成長を上げやすい状況が続くと言えます。

出所:国連データ(2017年)から楽天証券作成

 各国の人口ボーナス期を見てみよう

 人口ボーナス期は、先進国と新興国の全体では、新興国が有利ですが、国により状況は大きく異なるため、各国毎に見る必要があります。

 それでは、先進国の国々について、見ていきましょう。まず、日本と米国、カナダ、オーストラリアです。10年単位で見たデータですが、日本の人口ボーナス期は、なんと1990年に終了しています。米国、カナダ、オーストラリアが2010年に終了しているのに比べ、随分早い終了です。人口ボーナス期の終了後の10年変化率を見ても、日本の減少ペースの速さが目立つ一方、米国、カナダ、オーストラリアは相対的に減少ペースが緩やかです。明らかに、経済成長の面で、日本の人口動態は米国などに対し、不利と言えます。

出所:国連データ(2017年)から楽天証券作成

 次に欧州諸国を見ていきます。一時的に、10年変化率がマイナスになっている期間はありますが、トレンドで見て、イギリスの人口ボーナス期の終了は2010年です。一方、ドイツ、フランス、イタリアは、日本と同じ1990年の終了です。欧州諸国も日本と同様に、人口ボーナスで見た人口動態は良くありませんが、移民を受け入れているため、労働人口/従属人口の数値は、日本よりやや高めです。ただし、米国、カナダ、オーストラリアと比べると、低いと言えます。

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 最後に、新興国を見てみましょう。人口ボーナス期の終了は、各国でバラバラです。中国、ロシアは2010年に終了し、その後も低下が続きます。特に中国は、労働人口/従属人口の数値が2010年から2050年の40年間で半減し、高速で人口動態が悪化していきます。インド、南アフリカは、2040年まで人口ボーナス期は終わりません。

 両国とも、労働人口/従属人口の数値は、なんと2050年でも2を超えています。人口ボーナスの観点では、両国とも今世紀半ば頃まで、安泰と言えます。ここには掲載しておりませんが、これらの国以外でも、アフリカ諸国の中には、2050年でも人口ボーナス期が続き、人口動態の面で、経済の高成長を期待できる国が多数見受けられます。

出所:国連データ(2017年)から楽天証券作成

しかし、人口ボーナス期の数字は絶対ではない

 前回の労働人口の伸び率、今回の人口ボーナスのどちらの観点で見ても、日本の数字は極めて悪いと言えます。このままでは、経済は極めて低成長となり、その状況が長く続くという声もよく聞こえてきます。

 しかし、この人口ボーナスの数字は絶対ではありません。条件次第で、数字が変わることが考えられます。例えば、同じように人口動態が良くない欧州諸国は、以前から移民受け入れの制度がありましたが、日本には正式な移民制度はありませんでした。しかし、日本政府は、実質的に移民受け入れに大きく舵を切っており、今後の受け入れの状況次第では、労働人口の増加率や労働人口/従属人口の数値が改善する可能性があります。また労働者の定義は、15歳から64歳の人口ですが、70歳までを労働者とカウントすれば、労働人口の増加につながり、指標は改善します。

 とはいえ、新興国のインドやアフリカ諸国のように圧倒的に人口動態が良好な国のほうが、人口動態の観点では、ストレートに今後長期的に高い経済成長を期待できる有望株といえます。

 なお、人口動態の推移から対象国の長期的な経済成長を考え、投資を検討する場合は、大きなトレンドを捉えることが重要です。人口動態は良好でも、景気のサイクルによる経済成長率のアップダウンはあるからです。従って、10年はおろか、20年、30年といった長いスパンで投資を考えなければならないことに、ご留意ください。

 人口動態は、企業収益や景気動向、株価のバリュエーションのような一般的に投資判断で使う指標ではありませんが、例えば、現在進行している米中の覇権争いにおいても、どちらが今後繁栄するかに影響する大変重要なファクターです。繁栄する国に資金は流入し、株式市場は上昇しますので、長期的な大きな資金の流れを捉えるために、人口動態を参考にしていただければと思います。