5月雇用統計の予想

 6月7日に発表される5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が+18.0万人と前回に比べて増加数が減る一方、失業率は過去最低水準の3.6%で横ばいの予想になっています。また平均労働賃金は、前月比+0.3%、前年比+3.2%の予想。

過去3カ月の推移と今回の予想値

  2月 3月 4月 5月
(予想)
非農業部門雇用者 3.3万人 19.6万人 26.3万人 18.0万人
失業率 3.8% 3.8% 3.6% 3.6%
平均時給(前月比) +0.4% +0.1% +0.2% +0.3%
平均時給(前年比) +3.4% +3.2% +3.2% +3.2%
※矢印は、前月からの変化

前回のレビュー

 前回4月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が+26.3万人と市場予想を大きく上回りました。失業率は前月から更に2ポイント下がって1969年以来約50年ぶりの低水準となる3.6%。(もっとも、失業率の低下は働き手の減少が大きな理由で素直に喜べない面もあります。)平均賃金は前月比+0.2%、前年比+3.2%と堅調さを維持も、事前予想には届きませんでした。

 

5月雇用統計の注目点は?

 これからの雇用統計のポイントは、「貿易戦争2.0ビフォーアフター」。何かというと、米中貿易戦争が起きる前と起きた後を比較して、米国の労働市場がどれほど悪化するか(あるいはしないか)をチェックすることで、米経済の先行きやFRB(米連邦準備制度理事会)の政策を予測するということです。

 トランプ米大統領が、ツイッターで2,000億ドル分の中国製品の関税を25%に引き上げを発表したのは5月5日。ファーウェイ製品使用禁止の大統領令に署名したのが5月15日。今回の雇用統計は、貿易戦争2.0の不安よりもと米中貿易協議の合意期待のほうがまだ大きかった時期のデータといえます。本格的な影響が出てくるとすれば来月以降になるでしょう。別の言い方をすれば、5月の雇用統計のデータは、貿易戦争2.0前の米国経済が良かった時代の「懐メロ」データです。

 

すでに悪い兆候が…

 5月雇用統計は堅調な予想ですが、一方で気になるレポートも出ています。5月ダラス連銀製造業景況指数は▲5.3に落ち込み、予想(6.2)よりかなり悪い結果でした。中でも受注の伸びは5.2から1.1に大幅に低下。労働市場に関する調査では、給料のベースアップを計画している企業が昨年11月時点の61.9%から5月には58.3%に減少。採用拡大計画も60.7%から49.5%へ減っています。

 米ダラス地区では、米中通商協議の行方が不透明なため投資や採用計画を控えた企業が多かったことを示しています。協議が合意に至り関税も撤廃となれば、再び企業活動が活発になるかもしれませんが、現在の状況を考えるとその可能性は低く、従ってデータは今後さらに悪化していく可能性が高いと思われます。

FRB利下げ懸念で円高か

 米中貿易摩擦に解決の糸口が見えない中で、トランプ大統領は5月31日、メキシコに対する関税引き上げを発表しました。トランプ大統領はメキシコからの輸入品すべてに5%の関税を課し、移民の流入が止まるまで関税率を段階的に引き上げ10月には25%にすると表明。

 これをきっかけに米景気に対する先行き懸念がさらに強まり、マーケットではFRBが来年3月までに3回「利下げする」との予想まででています。ドル/円にとっては、リスクオフと金利差縮小が円高要因になりますが、今回の雇用統計のデータでその動きが加速することも考えられます。