ニトリHD(9843)は今期(2020年2月期)に33期連続増収増益(経常利益)を計画しています。同社は中国事業が不振ですが国内事業は堅調で、今期は既存店売上高が堅調に推移する見込みである他、新規出店も続ける見通しです。相場全体の冴えない展開や中国での成長期待がしぼんだことを背景に、株価は今期予想PER(株価収益率)20倍まで低下しましたが(5月17日終値1万2,735円)、業績の拡大基調を考慮すると投資妙味があると考えています。
1.株価
株価
株価は、ニトリHDの中国事業に対する期待がしぼんだことから下落傾向です。しかし、主力である国内事業の既存店売上高は続伸し、店舗数も拡大傾向にあります。今後も、相乗効果で連結業績の堅調さが続くと期待できます。
2.堅調な既存店売上高と店舗数拡大
既存店売上高推移(前期比)※ニトリ、ニトリ デコホーム、通販の合計
既存店売上高が堅調に推移している理由は、消費者が値ごろな価格帯と現代風のデザインを評価ししていることです。さらに、足元では店舗と自社オンライン販売のシナジー効果も出てきています。
会社側は、2019年2月期について、「オンライン限定の商品が人気だった」「特に都心部の店舗で商品を見て、オンラインで購入する動きが見られる」と述べていました。都心部では店舗がショールームの役割を果たしている他、自社オンラインショップで購入した商品も店舗で返品・交換できるため、アフターサービスの役割も果たしているとみられます。実際に商品を目で確認でき、購入後のフォローが充実していることが、オンラインで同社の商品を購入する後押しになっていると考えられます。
ニトリHDの店舗数推移
店舗数も拡大傾向です。2019年2月期は主力のニトリが22店舗、ニトリ デコホーム(キッチン用品や食器、カーテン、寝具などを展開するホームファッション専門店)が16店舗純増となりました。2020年2月期もそれぞれ、25店舗、20店舗純増する計画です。
3.過去の消費増税時も増益を確保
同社は、2014年4月の消費増税の影響を受けた2015年2月期も既存店売上が伸びました。もともと値ごろ感を重視する商品展開を行ってきたため、消費者が増税への警戒感を高める中でも、競合他社と比べて商品を効果的に訴求できたと考えられます。
前回消費増税時期の既存店売上高(前期比)
今期2020年2月期は10月に消費増税を控えていますが、以下の表のとおり経常利益は増益を確保する見通しです。なお、会社側は上期については4%の経常減益を計画していますが、主に為替の影響によるものであり、本業に異変が起きているということではありません。
ニトリHDの連結業績推移
4.苦戦する中国事業。日系の成功企業に立て直しのヒントあり
国内は今後も安定成長が見込めます。ただし、海外で利益をあげて成長しなければ、株価は上がらないでしょう。不振の中国事業の立て直しが鍵となります。
海外では、主に中国と台湾で店舗を展開しています。現在の海外の店舗構成比は12%(2019年2月期)。店舗数は71店舗で、そのうち中国が37店舗、台湾が31店舗です。
このうち2014年から事業を開始した中国について、会社側は当初の「100店舗出店構想」を見直すと公表しました。
中国事業再構築のポイントは「人材の確保」と「品質の訴求」と考えられます。実現には時間を要するとみられますが、この2軸を作ることができれば中国の消費者の需要にリーチすることができるでしょう。中国事業を成功させた日本企業の先例を見る限り、時間をかけてこの2軸が確立されています。
先例としては、ファーストリテイリング(9983)、資生堂(4911)、ピジョン(7956)、ヤクルト本社(2267)が挙げられます。
ファーストリテイリングは、今では中国事業の好調さが評価されていますが、2002年に中国事業をスタートした頃は苦戦していました。しかしその後、エリアごとの消費者の特色などを熟知した中国出身のリーダーが同事業をけん引し、また、従業員の育成にも注力してきた結果、中国事業を拡大させました。
資生堂の中国展開には長い歴史があります。1980年代に北京で商品の販売をスタート、1991年に北京で合弁会社設立、2008年に上海に研修センターを設立するなど、長年にわたり中国の消費者および中国の商習慣と向き合い、さらに従業員教育にもコストをかけてきました。
この2社は「品質」を訴求しており、それが中国の消費者の間でも認識・評価されている点が共通しています。中国の消費者がそれを認知するのは容易ではありませんでしたが、資生堂は専門店制度を活用し、地域のお店が地域の消費者に直接アプローチし、また、都市部では大々的なマーケティングによって認知度を高めていきました。ファーストリテイリングは、購入した中国人の「口コミ」やオンラインマーケティングの強化によってその品質が徐々に認識されていきました。
2002年に中国事業に本格参入したピジョンやヤクルト本社は、子育て世帯に「高い品質」を訴求し、彼らの需要をつかむことができました。ヤクルト本社は現地でも「ヤクルトレディ」制度を築き上げ、教育を受けた彼女たちが地域を回り、なぜヤクルトが健康に良いのかを啓蒙することで認知度を地道に高めていきました。
翻って、ニトリは日本では品質が良く、値ごろ感があることが評価されていますが、中国では、品質の良さが伝わっていない可能性があります。製造コストの低い中国には多数の家具メーカーや雑貨メーカーがあると考えられ、値ごろ感のある価格帯は競争が激しいと考えられます。ニトリHDは、現地メーカーが簡単に作ることができない「品質」や「機能性」で差別化し、なぜニトリで購入するのか、その理由を現地の消費者に認識してもらう必要があると考えられます。
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