米国雇用統計、直近の動きは?

 

8月の雇用統計の注目点

 今回9月1日に発表予定の8月の米国雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が18.0万人増加(前回20.9万人増加)、失業率4.3%(前回4.3%)が市場予想になっています。平均労働賃金の予想は、前月比+0.2%(前回+0.3%)。雇用の伸びは堅調さを保ち、失業率は歴史的低水準。米労働市場はほぼ完全雇用の状態で、どこにも心配がないように思えます。

 

 しかし、先月リリースされたFOMC(連邦公開市場委員会)議事録の最新版には気になる記述がありました。完全雇用状態があまりに行き過ぎてしまうと、ソフトランディングを難しくしてしまうとの懸念が示されていたのです。

 FOMCメンバーが不安を持つのは、トランプ政権の経済政策の不透明感が日に日に増しているからです。税制改革の目玉になるはずだったヘルスケア法案は、あえなく頓挫。NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しやメキシコ国境との壁建設など、隣国との軋轢は増すばかり。トランプ大統領の経済政策助言機関は、メンバーが相次いで辞任して解散してしまいました。今年のはじめに思い描いていたようなスピードと規模をもった米国の経済成長を期待するのはあきらめたほうがよさそうです。

 足元の米国経済指標はまだしっかりしています。しかし、このような状態が続くなら、米国企業は近い将来、投資計画や採用計画の見直しを迫られることになるでしょう。そのときに雇用市場がどうなるか? 山高ければ谷深しで、これまでが順調すぎただけに、その反動もはげしくなるおそれがあります。順調に見える雇用市場にも、リスクがしのびよっています。

 

過去1カ月のドル/円の動き

 

 8月4日に発表された7月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が20.9万人増加と、市場予想の18.0万人増加を上回る強い結果となりました。失業率は4.3%まで下がり、平均労働賃金は前月比+0.3%に上昇しました。

 雇用統計の結果を受けて、ドルは全面高の展開。ドル/円も111円台に乗せましたが、滞在時間はごく短いものでした。この時につけた111.04円が8月の高値となって、そこで踵(きびす)を返すと、今度は108円台へ向かって進むことになりました。

 8月は、ドルが抱える3つの心配材料が再発しました。ひとつは、北アジアの地政学リスク。米朝の軍事的緊張が高まるたびに投資家心理が後退しました。経済をみると、米国ではインフレ率が伸び悩み、FRB(連邦準備制度理事会)の年内利上げ期待は遠のく一方。政治的にも不安要素が多く、トランプ大統領の政策運営のがたつきで、税制改革や金融規制緩和などの期待のリフレ政策はどん詰まり状態になっています。

 108円まで下げた後、8月中旬に捲土重来を期したドル/円でしたが、高値は110.94円までと、111円には届かず。ジャクソンホールのイエレン議長からも、ドル/円を買う材料が提供されないまま、月末近くには、北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射したことで地政学リスクが高まり、一時4カ月ぶりの108.26円の水準まで下落しました。このような状況で、マーケットは今週の雇用統計の発表を待っています。


過去データ(2009年~)