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本レポートに掲載した銘柄

東京エレクトロン(8035)任天堂(7974)

東京エレクトロン

1.2019年3月期は13%増収、11%営業増益

 東京エレクトロンの2019年3月期は、売上高1兆2,782億4,000万円(前年比13.0%増)、営業利益3,105億7,100万円(同10.5%増)となりました。また、2019年3月期4Q(2019年1-3月期)は、売上高3,190億3,600万円(同10.4%減)、営業利益764億1,700万円(同23.4%減)となりました。

 2019年3月期は1Q、2QはDRAM向け設備投資の増加等によって東京エレクトロンの業績も好調でしたが、2018年8月頃から大手半導体メーカーからDRAM、ロジック向け半導体設備投資の延期、下方修正がアナウンスされ始めました。この動きを受けて3Qから業績は大きく鈍化し、4Qは前年比減収減益となりました。営業増益率は、前2Qの前年比50.3%増から前3Q同1.1%増、前4Q同23.4%減となりました。その結果、2019年3月期通期の営業増益率は前年比10.5%増と2018年3月期の同80.6%増から鈍化しました。

 SPE(半導体製造装置)部門の四半期ベース地域別売上高を見ると、前4Qは前3Q比で日本向けは減少したものの、北米向け、欧州向け、韓国向け、台湾向け、中国向けが増加しました(表2)。

 また、アプリケーション別の売上高を見ると、前4Qは前3Q比で不揮発性メモリ(フラッシュメモリなど)向けが減少しましたが、DRAM向け、ロジックファウンドリ向け、ロジック&その他(MPUなど)向けは増加しました(表3)。

表1 東京エレクトロンの業績

株価 16,780円(2019/5/9)
発行済み株数 163,958千株
時価総額 2,751,215百万円(2019/5/9)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益

表2 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理の関係で合計が合わない場合がある

表3 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算

表4 東京エレクトロン:半導体製造装置(新規装置)の製品別売上高

単位:億円、%
出所:2018年3月期決算説明会資料記載の構成比より楽天証券試算

グラフ1 東京エレクトロンの半導体・FPD製造装置販売高

単位:億円、四半期ベース
出所:会社資料より楽天証券作成

2.2020年3月期会社予想は前年比29%営業減益。今下期からの回復を見込む。

 今期2020年3月期会社予想業績は、売上高1兆1,000億円(前年比13.9%減)、営業利益2,200億円(同29.2%減)です。上期と下期は、会社予想では今上期売上高4,900億円(前年比29.1%減)、営業利益850億円(同51.5%減)、今下期売上高6,100億円(同3.9%増)、営業利益1,350億円(同0.1%減)となっています。すなわち、会社側は今上期は前年比で大幅減収減益となるものの、今下期から業績は回復に向かうと予想しています。

 会社側によれば、スマートフォンのアプリケーションプロセッサの高度化、GPU、AI半導体、ハイパフォーマンスパソコンの需要増加などによってロジック半導体向け設備投資が堅調で、2019年暦年のロジック/ファウンドリ向け設備投資は前年比約25%増と予想されます。成膜装置、エッチング装置の市場シェア上昇もあいまって、東京エレクトロンはこの分野で市場以上の成長を達成することが期待できます。

 またメモリ向け設備投資は、DRAM向けが2019年暦年は前年比約30%減、NAND型フラッシュメモリ向けは同じく約50%減と会社側は予想していますが、このうちNANDについては在庫調整が進んでいるため、今夏にも在庫調整が終了するとして設備投資を検討している大手メーカーがあるもようです。NAND向けでは一部で製造装置の受注を得ているもようです。

 また、DRAMはNANDに遅れて来期から設備投資が本格回復する見込みです。

 このような状況から、会社側は今下期から業績回復を予想しています。楽天証券も2020年3月期通期については会社予想と同水準の業績を予想します(前回予想からは下方修正になります)。

 

3.2021年3月期は通期で増収増益が期待できる

 来期2021年3月期については、今下期に実際に会社予想のように業績が回復すれば、ロジック、メモリともに設備投資が増加することによって、通期で業績回復が期待できます。ロジック半導体では5G(第5世代移動通信)の普及と、5ナノ半導体の本格投資が来年早々にも始まると予想されることがプラス要因です。メモリ向けでは、5Gの普及によるデータセンター投資の回復が重要なポイントになると思われます。

 そのため楽天証券では、2021年3月期業績を前回予想と同じ売上高1兆3,000億円(前年比18.2%増)、営業利益3,100億円(同40.9%増)と予想します。

 目標株価は前回の22,000円を維持します。今下期からの業績回復予想と来期のロジック、メモリ両方の設備投資増加、回復予想は株価にとって大きなプラス要因ですが、米中貿易摩擦とそれによって中国半導体メーカーの日本製半導体製造装置の購入が減少する可能性があることはマイナス要因です。引き続き中長期での投資妙味を感じます。

 

任天堂

1.2019年3月期は14%増収、41%営業増益

 任天堂の2019年3月期は、売上高1兆2,005億6,000万円(前年比13.7%増)、営業利益2,497億100万円(同40.6%増)となりました。前3Q決算時の2019年3月期会社予想、売上高1兆2,000億円、営業利益2,250億円に対して、営業利益が会社予想を上回りました。

 また、前4Q(2019年1-3月期)は、売上高2,032億6,400万円(前年比2.3%増)、営業利益296億7,200万円(同40.7%増)となりました。

 ニンテンドースイッチ・ハード販売台数(任天堂販売ベース)は2018年3月期1,505万台から2019年3月期1,695万台に伸びました。楽天証券が予想した1,800万台には届かなかったものの、会社予想の1,700万台はほぼ達成できました。前4Qのスイッチ・ハード販売台数は、日米欧の店頭販売ベースで前年比約35%増と好調でしたが、2018年12月末のハード流通在庫が比較的多かったもようであり、そのため前4Qの任天堂販売ベースのスイッチ・ハード販売台数は246万台(1年前の2018年3月期4Qは292万台)へ前年比で減少しました。

 また、スイッチ・ソフト販売本数(任天堂販売ベース)は、2018年3月期6,351万本から2019年3月期1億1,855万本へ大きく伸びました。会社予想の1億1,000万本を上回りました。引き続き、ハードの累積販売台数が増えるに従ってソフトが伸びるハードウェアの累積効果が発現していると思われます。

 スイッチ用ソフトでは引き続き自社製ソフトが好調で、2019年3月期は「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」1,381万本、「ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ・イーブイ」1,063万本、「スーパーマリオパーティ」640万本などの新作大型ソフトのほか、旧作である「マリオカート8デラックス」が前期2019年3月期分747万本、同じく「ゼルダの伝説」が前期分430万本と貢献しました。

 また、採算の良いソフトのダウンロード販売が増加し業績に寄与しました。デジタル売上高(パッケージ併売ダウンロードソフト、ダウンロード専用ソフト、追加コンテンツ、ニンテンドースイッチ・オンライン等の合計)は2018年3月期608億円から2019年3月期1,188億円へ増加しました。

表5 任天堂の業績

株価 36,760円(2019/5/9)
発行済み株数 119,125千株
時価総額 4,379,035百万円(2019/5/9)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益

表6 任天堂の業績予想の前提(2019年5月)

出所:楽天証券作成

表7 任天堂:ニンテンドースイッチ・ハード、ソフトの販売台数、本数(四半期ベース)

単位:万台、万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理の関係で一部合計が合わない場合がある

表8 2019年3月期に貢献した任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:任天堂出荷ベース、ダウンロード、ハードウェア同梱を含む
注2:端数処理のため合計が合わない場合がある

2.2020年3月期会社予想は一桁増収増益の見通しだが、上方修正の可能性がある

 2020年3月期会社予想業績は、売上高1兆2,500億円(前年比4.1%増)、営業利益2,600億円(同4.1%増)です。会社予想のスイッチ・ハード販売台数は1,800万台(前年比6.2%増)、スイッチ・ソフトは同じく1億2,500万本(同5.4%増)です。

 現在決まっている新作ソフトで注目されるのは、2019年冬発売の「ポケットモンスター ソード・シールド」、2019年発売の「どうぶつの森(仮称)」「ゼルダの伝説 夢を見る島」、2019年7月26日発売の「ファイアーエムブレム 風花雪月」です。また、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」「NewスーパーマリオブラザーズUデラックス」「マリオカート8デラックス」など前期以前に発売されたソフトの寄与も引き続き見込まれます。

 この会社予想はかなり保守的と思われます。まず、2019年3月期決算から分かることですが、ニンテンドースイッチのユーザーは熱心なゲーム好きが多いと思われ、そのため累積ハード1台当たりのソフト販売本数が2019年3月期3.4本と比較的高い状態にあります(過去を見るとWiiの2年目の2009年3月期に累積ハード1台当たり4.1本のソフトが売れましたが、これには欧米でのハード同梱ソフト(無料)が含まれています。スイッチではクリスマス商戦の一時期を除いて無料同梱ソフトはありません)。

 会社予想では2020年3月期の累積スイッチ・ハード1台当たりソフト販売本数は2.4本になりますが、前述のようにスイッチには熱心なゲームファンが多いこと、前4Qのスイッチ・ソフト販売本数が前年比45.7%増となり、営業利益も前年比40.7%増となっており、依然としてハードウェアの累積効果が現れていることを考えると、今期に入ってこの伸びが急減速するとは考えにくいものがあります。

 また、会社側は現在テンセントを通じて中国におけるニンテンドースイッチの販売を中国当局に申請中ですが、これは会社予想の中に織り込まれていません。中国当局の審査はソフトについては1タイトルずつの審査になり、タイトル数が揃うのに時間がかかるため、仮にハードの審査が順調に通ったとしても中国事業の急拡大は困難と思われます。ただし、年間でハード100~200万台程度の販売は可能と思われます。

 また、市場が消滅しかかっている3DS市場については(3DS・ハード販売台数は2019年3月期255万台、2020年3月期会社予想100万台)、会社側は具体的な改善策をまだ示していませんが、新聞報道があったニンテンドースイッチ小型版の発売を含め(会社側はこれについてコメントしていません)、何らかの対応がある可能性があります。

表9 ニンテンドースイッチ用ソフトの発売スケジュール(任天堂製または任天堂が販売権をもっているソフトのみ)

出所:任天堂ホームページより楽天証券作成

 

3.目標株価40,000円を維持する

 これらを総合的に考慮した結果、楽天証券では、2020年3月期のスイッチ・ハード販売台数を2,000万台、スイッチ・ソフト販売本数を1億5,000万本とし、2020年3月期業績を売上高1兆3,500億円(前年比12.4%増)、営業利益3,000億円(同20.1%増)と予想します。

 また2021年3月期は、中国市場の開拓が本格的に動き出し、(2020年3月期または2021年3月期に)スイッチ小型版の発売等何らかの携帯型市場回復策を講じるという前提で、スイッチ・ハード2,000万台、スイッチ・ソフト1億8,000万本、売上高1兆4,300億円(前年比5.9%増)、営業利益3,700億円(同23.3%増)を予想します。

 このように楽天証券では2020年3月期、2021年3月期とも、二桁増益基調が続くと予想しますが、2020年3月期はスイッチが発売されて3年目になり、これから鈍化傾向が出てくる可能性があることを考慮し、前回予想は下方修正します。

 今後6~12カ月間の目標株価は前回の40,000円を維持します。会社側の中国市場と携帯型市場への対応に期待できる半面、中国市場の開拓が不発に終わるリスク、会社側が携帯型市場に対して適切な対応をしなかったり対応が遅れるリスクがあります。

グラフ2 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ3 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)任天堂(7974)