米国株が史上最高値を更新したらエリオット波動のカウントはどうなる?

 4月23日の米国株式市場で、米国株式のベンチマーク指標であるS&P500が『終値ベース』での史上最高値を更新した。「企業業績の伸びが鈍化し、米中貿易摩擦が長引く中でも、10年来の強気相場が健在であることを示した」(4月23日ロイター)と報道されているが、要するに不景気の株高というわけだ。

S&P500(日足) ダイアゴナル・トライアングルかウェッジの上抜けかの正念場に!

出所:石原順

 S&P500は昨年9月に付けた『ザラ場ベース』の高値2940.41はまだ更新していないが、「史上最高値を更新したらエリオット波動のカウントはどう打ち直せばよいのか?」という照会があったので、それに答えたい。

 S&P500が史上最高値を上抜いたら、2009年からの推進波(上げ相場)はまだ継続しており、2016年から始まった第5波(上昇5波)がまだ続いているという解釈となり、波動カウントは以下のように修正される。

S&P500(週足)とS&P500が史上最高値を超えた場合の波動カウント

出所:石原順

 しかし、2016年以降の5波動の中でのカウントの打ち直しであり、大幅なカウントの修正が必要になるわけではない。すなわち、『2009年から始まった強気相場の最終波動である』という認識は変えていないということである。

 厄介なのは、第5波というのは「短縮」も「延長」もするという最も不確かな波動であるということだ。第5波は乗り遅れた投資家などの押し目買いやバブル的な熱狂によって急騰する可能性があると同時に、急落や高値づかみのリスクも伴う。だから、どこで降りるかという利益確定のタイミングが非常に重要であるが、相場の天井を当てるのは、底を当てるより10倍は難しいと言われている。特に、最高値更新相場というのは高値の目安がない。

ナスダック(週足)とナスダックが史上最高値を超えた場合の波動カウント

出所:石原順

 なるほど、米当局(PPT[トランプ政権の市場の急落を阻止するチーム]とFRB[米連邦準備制度理事会])による自作自演相場とはいえ、米国株式市場は堅調である。現在、順張り・逆張り売買モデルの両方が、買いシグナル点灯中である。

NYダウ(日足)とPPTとFRBの動向

出所:石原順

NYダウ(週足)とNYダウが史上最高値を超えた場合の波動カウント

出所:石原順

 もう少し長期的な視野で相場を見てみよう。いつの相場も投資家の多くは、結局、バブル崩壊に巻き込まれて大損して終わることになる。それが市場の基本原理である。バブル相場は『押し目買い』という過去の成功体験があだとなって、相場が天井を打っても相場から降りられないからだ。筆者が言いたいのは、相場がどこで天井を打つのかは分からないが、「5波動目=相場の最終波動にはしがみつかない」ということである。たとえ、最後の上げを取り損ねることになっても。

 2019年は保有の年ではなく、売買の年であろう。筆者は2017年の6月から8月に2008年の金融危機直後に買った株の長期投資のポジションを手仕舞った。2018年の途中まで相場は上がったが、2018年以降の相場では、「短期から中期タームで買ったり売ったりする」というトレーディングベースで対処している。

NYダウ(日足)順張り売買モデル

出所:石原順

NYダウ(日足)逆張り売買モデル   

△買いシグナル・♢売りシグナル 
出所:石原順

 相場はバブルとその崩壊を繰り返している。それでも儲けたいという欲望から、投資家は最後まで相場と付き合ってしまうことになる。オーバー・バリューになれば相場は早晩暴落するが、バフェット指数やCAPE(シラー式PER)を観察すると、米国株はすでにバブルの領域に入っているように観える。バブルだとわかっていても、売った後に相場が上昇するとたまらず買ってしまい、高値づかみをして、結局は安値で投げさせられ大きな損失を出してしまう。大きな損失を出せば、その後の投資効率は大きく下がってしまう。相場とはそういうことの繰り返しだ。フィーリングで相場をやってもいいが、大事なのはストップ・ロスを置くことである。

バフェット指標 株の時価総額÷GDP

CAPE(シラー式PER)

 筆者の独断と偏見で言えば、「相場はファーストイン・ファーストアウト」なのである。つまり、誰も買っていない相場の初動で相場に参入し、人よりも先に相場から降りることである。

 

米国株式市場の先行きを運用会社やファンドはどのように見ているのか

「ドイツ銀行とUBSグループの資産運用部門が真剣な合併協議を行っている」と、4月23日の英フィナンシャル・タイムズが報道しているが、『史上最小数の一般参加者による史上最大の資産バブル』相場も2018年に入って変容してきているようだ。金融機関や運用会社は表面上、強気を装いながら裏では高リスク融資をこっそり縮小し、不景気対策に備えている。

「企業利益は健全だから現在の株式市場はバブルではない」という指摘も多い。だが、マイケル・スナイダーが言うように、「それは金融工学によって、帳簿が膨らまされ押し上げられたもの」である。しかも、「企業年金の積立不足が膨らんでいる。たとえば、GE(ジェネラルエレクトリック)のそれは現在、310億ドルにも上る。そして、企業利益は米国家計の90%を犠牲にしたもの」でもあるのだ。

GE(月足) 社債市場の火種

出所:石原順

 最近は市場の出来高が減っているが、ゼロヘッジの記事「Trader Warns "Markets Are Quiet Because No One Has A Clue"  トレーダーは警鐘する “市場はやけに静か、それは誰も何が起きているかわからないから”」によると、「S&P500が高値をつけた一方、取引高は去年8月に高値をつけた時以来の最低水準に落ち込んでいる」と言うことである。

S&P500と15日平均出来高

出所:ゼロヘッジ

 では、米国株式市場の先行きを運用会社やファンドはどのように見ているのか。

 ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、2019年の相場を遠巻きに見ていた投資家に自信を与える米国と中国におけるより健全な経済成長のサインがあるとして、グローバルの株式市場はメルトアップ(急騰)の用意があると話した。世界最大の資産運用会社のCEOは、経済データの回復と中央銀行のハト派姿勢は投資姿勢を変えてきた機関投資家を強く動かし、ゴルディロックス相場が継続すると言うシナリオに楽観的であると。世界的にあまりに悲観的過ぎる。投資マネーがたくさんあるにもかかわらず退避している。そしてそれはエクイティー市場に流れ込んでくる。(フィナンシャル・タイムズ 2019年4月16日「BlackRock’s Fink says markets are poised for a ‘melt-up’   ブラックロックのフィンクが指摘、マーケットはメルトアップ(急騰)の用意がある」)

 世界最大の資産運用会社のトップがグローバルの株式市場を楽観視しているのに対して、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターは米国市場について慎重な見通しを示している。

 世界最大のヘッジファンドブリッジウォーターは、米国企業の高い利益率をけん引してきた要素は長くは続かず、すでにその効果はなくなり始めている。結果として株価は下落するだろうとのレポートを出した。
「この20年で、米国企業の利益率は急上昇し、現金に比べて株式から得られる利益は大幅に上回ったが、その半分以上は利益率の向上が寄与したものだ」と。もし利益率の拡大がなければ、米国の株価は40%低い水準になるだろう。

 この数十年、利益率を向上させる主な要素のほぼ全てが改善した。

 労働者側の交渉力は弱まり、法人税や関税も下がった。グローバリゼーションが進み、先進技術で事業拡大が容易になり、限界費用は下がり、独禁法の執行もゆるくなり、金利も下がった。こんなにも企業寄りの環境がそろうことはこれまでにないことである。しかし、高い利益率をけん引してきたこれらの好条件が危機にひんしている。

 過去20年にわたって利益を支えてきたいくつかの要素はその押し上げる力を失ってきているようだ。例えば、海外移転による租税回避の可能性が少なくなる中、海外における賃金の上昇もあり、米国内でのコストと変わらなくなり、製造拠点を海外に移転するメリットは減少、さらに貿易戦争によって製造の海外移転はリスクとなっている。

 また同時に、世論は企業の利益をけん引してきた要素や高い利益を上げてきた企業に対して厳しい目を向けてきている。(ロイター2019年4月17日 「Bridgewater warns of peak US profit margins, lower stock prices ブリッジウォーターは米国企業の利益率はピークに達して、今後株価が下落すると警告」)

 レイ・ダリオは、米国の資本主義は金持ちと貧困層のひどい格差を生み出しており、こうした格差のすべてが米国の競争力をそぎ、「悪い争いが起きる高いリスク」を引き起こし、「実存する脅威」になると指摘。この数十年、多くの米国人の所得が増加していないことや、ボトム60%の多くの人々が貧困にあること等、いくつかのデータを示しつつ、資本主義は多くの米国人にとって正しく機能しておらず、収入、教育、富、そして機会の格差が収入、教育、富、そして機会の格差を助長していると。さらに、こうしたひどい状況を作ってしまった責任はどこにあるのかについてダリオは、「意地の悪い金持ち」でもなく「怠け者の貧乏人」でもない、強欲資本主義そのものにあるとして、改良が必要だと述べている。

 では何をすべきなのか。ダリオはこの格差を国家の非常事態として捉え、超党派による取り組みで経済システムを再構築することを提言している。また、ヘルスケアと教育の最低基準を設ける等、多くの人々の幸福と生産性の両方を向上させる資源の再販分、さらには金融政策と財政政策の整合性をもっと取るべきとも言っている。

相場のレンジの計測とうねりを取る逆張り(相場の転換点)売買

 最近、セミナーなどで、「私は逆張りが好きですが、石原さんは相場のレンジをどうやって予測しているのですか?」という質問をよく受ける。筆者がどのような相場のレンジ感を持っているのか簡単に紹介しておこう。

 筆者が相場の転換点を当てる逆張りポイントの計測に使っているのは、「ATRチャネル」と呼ばれる動的な相場のレンジバンドである。

 ATR(アベレージトゥルーレンジ)はTR(窓開けを含めた1日の最大値幅)の平均である。ATRチャネルは動的に変化する予想レンジであり、利食いや相場反転のポイントとして、筆者にとっては有効なツールとなっている。

 下のチャートは、過去X日間のATRを過去X日間の加重移動平均線にプロットしたものである。3本のATRのバンド幅はATRの1.6倍、3.2倍、4.8倍である。

 相場がATRバンドの3.2倍の外にある時、ADX(8)とSTD(26)の両方がピークアウトすると、相場が反転する可能性が高い。

サンプル:ドル/円(日足)とATRチャネルを使った逆張りと利食いのポイント

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

 ATRチャネルは、すべての市場と時間枠(タイムフレーム)に拡張が可能である。

 逆張りは相場に逆らってポジションをとる売買手法であり、ストップ・ロスを置かないと大きな損失を被る可能性がある。それらに十分留意したうえで、取引をする必要がある。あらかじめストップ注文を置いておくか、最悪でも「間違ったと思ったら直ちに損切りすること」が重要である。

ドル/円(週足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ドル/円(日足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ドル/円(4時間足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ドル/円(1時間足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ドル/円(30分足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ドル/円(15分足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

 

ポンド/円(週足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ポンド/円(日足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

ポンド/円(4時間足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

豪ドル/円(週足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

豪ドル/円(日足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

豪ドル/円(4時間足)

上段:ATRチャネル
下段:ADXsmoothed8(赤)・標準偏差ボラティリティ26(青)
出所:MT4・石原順インディケーター

【相場の予測は、「市場価格にはパターンがある」という単純な主張に基づいている。学者のなかには、この主張に意義を唱える人もいるが、このことを信じることが投資業界で仕事をするうえで必須条件となる。マーケットを打ち負かしたい投資家は、マーケットのどこかで、たいていは体系的に、価格の歪みを探しているのである。】(リチャード・ピーターソン マーケットサイクCEO)

 

ドル/円とオプションボラティリティ 底練りからそろそろジャンプするか

 今週の市場の焦点は25日の日米財務相会談、26日の日米首脳会談、首脳会談前の茂木ーライトハイザー協議に移っている。週後半までは限定的な動きになるだろう。ドル/円の7年ぶりの低ボラティリティ相場は、10連休を控えた嵐の前の静けさかもしれない。

ドル/円とオプションボラティリティ

 7年ぶりの低ボラティリティ相場は嵐の前の静けさか…

上段:オプションボラティリティ(赤)
下段:14日ATR(緑)
出所:石原順

ドル/円(日足) 満月・新月・月食・日食・MOON DECLINATIONチャート

出所:Galactic Trader

 

5月5日のラジオ番組「MUSIC VOYAGE ANTHOLOGY」に楽天証券楠雄治社長が出演

 10連休中、ラジオNIKKEIで「MUSIC VOYAGE ANTHOLOGY」という音楽特番が放送されます。

 4月29日(月)と5月5日(日)の放送では筆者がラジオパーソナリティを務めますが、5月5日(日)の番組では楽天証券の楠雄治社長が出演されます。証券・FX業界の人たちが「私と音楽」について語る番組です。ぜひ、お聴きください。

ラジオNIKKEI 「MUSIC VOYAGE ANTHOLOGY」

4月29日(月) 17:10~18:10
石原順
5月5日(日) 17:10~18:10
石原順
ゲスト:楽天証券 楠雄治社長