銀行決算発表が出そろう

 2019年第1四半期決算が出そろったメガバンク各行。今回はそれぞれの決算内容をいち早く解説します。

 まずは全体論から。消費者向けサービスが好調だった一方、投資銀行業務は不振で、中でも、株式や債券のトレーディングのビジネスが特に低調でした。

 この結果、証券ビジネスに特化しているモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスより、消費者向けサービスを展開しているJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウエルズファーゴ、シティなどがアウトパフォーム(ベンチマークより上昇)しました。

 各行の売上高成長率は下のチャートの通りです。

 図1:売上高成長率(第1四半期、前年同期比、各社決算リリース)

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 収益性の尺度の一つであるROTCE(有形自己資本利益率)ではJPモルガン・チェースが最も良い結果となりました。

図2:有形自己資本利益率(第1四半期、各社決算リリース)

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  今期不振が目立った株式や債券のトレーディングのビジネスですが、売上規模を示すと図3のチャートのようになります。 

図3:トレーディング売上高(第1四半期、各社決算リリース)

単位:10億ドル

 モルガン・スタンレーはリーマン・ショック以降、債券部を大幅に縮小し、ゴールドマン・サックスはデービッド・ソロモンCEO(経営最高責任者)が就任して以来、M&A(企業の合併・買収)に注力する経営へとシフトしています。

 また、株式トレーディングではゴールドマン・サックスの不振が目を引きました(図4)。 

図4:株式トレーディング売上高成長率(第1四半期、前年同期比、各社決算リリース)

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 債券トレーディングではシティグループのみが前年比プラスに。ここでもゴールドマン・サックスのスランプが目立ちます(図5)。

図5:債券トレーディング売上高成長率(第1四半期、前年同期比、各社決算リリース)

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各行の決算詳細

JPモルガン・チェース

 JPモルガン・チェース(JPM)の第1四半期決算はEPS(1株当たり純利益)が予想2.35ドルに対し2.65ドル、売上高が予想280.5億ドルに対し291.2億ドル、売上高成長率は前年同期比+4.4%でした。

 純金利収入は前年同期に比べ11億ドル多い146億ドル、非金利収入は前年同期に比べ2億ドル多い153億ドルでした。

 純金利イールドは8bp(ベーシスポイント:1bp=0.01%)改善の2.56%でした。

 貸倒引当金は15億ドルでした。これは前年同期より3.3億ドル増加しました。ホールセール部門でのポートフォリオの悪化が原因です。一部商業・工業顧客のダウングレードに絡め1.35億ドルの引当金を取りました。ちなみに前年同期は1.7億ドルの引当金解除を行っています。

 平均コア・ローンは+5%、平均預金は+3%でした。

 オーバーヘッド・レシオは56%で、昨年2018年の第4四半期は58%でした。

■消費者&コミュニティー・バンキング部門

 消費者&コミュニティー・バンキング部門売上高は前年同期比+9%の138億ドルでした。純金利収入の増加、預金の増加、カード・マージンの増加、カード残高の増加が寄与しました。

■コーポレート投資銀行部門

 コーポレート投資銀行部門売上高は98.5億ドル、うち投資銀行部門売上高は前年比+10%の17.45億ドルでした。債券引き受け、M&Aアドバイザリーが増加、株式引受けフィーは減少しました。

 市場インベスターサービス部門売上高は66.2億ドルでした。内訳は債券部売上高が▲8%の37億ドル、株式部売上高が▲13%の17億ドルでした。

■今後のガイダンス

 2019年度の純金利収入は580億ドルを見込んでいます。修正費用は660億ドル以下、損金計上は55億ドル以下を見込んでいます。

■各種レシオ

 ROE(株主資本利益率)は16%、昨年の第1四半期は15%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は19%、昨年の第1四半期は19%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は12.1%、昨年の第1四半期は11.8%でした。

 1株当たり有形簿価は57.62ドル、昨年の同期は54.05ドルでした。

バンク・オブ・アメリカ

 バンク・オブ・アメリカ(BAC)の第1四半期決算はEPSが予想66セントに対し70セント、売上高が予想232.4億ドルに対し230億ドル、売上高成長率は前年同期比▲0.4%でした。

 純金利収入(FTEベース)は181.7億ドル。前年同期は156億ドル、第4四半期は178.4億ドルでした。

 純金利イールド(FTEベース)は2.51%。前年同期は2.42%、第4四半期は2.52%でした。

 貸倒引当金は10.1億ドル。前年同期は8.34億ドル、第4四半期は9.05億ドルでした。

 損金計上は9.91億ドル。昨年同期は9.11億ドル、第4四半期は9.24億ドルでした。

 ネット・チャージオフ・レシオは0.43%。昨年同期は0.40%、第4四半期は0.39%でした。

 消費者部門損金計上は8.35億ドル。昨年同期は8.3億ドル、第4四半期は8.04億ドルでした。

 消費者部門ネット・チャージオフ・レシオは0.77%。昨年同期は0.75%、第4四半期は0.71%でした。

 平均融資残高は9,440億。前年同期は8,670億ドル、第4四半期は9,320億ドルでした。

 企業向け平均融資残高は8,970億ドル。前年同期は7,020億ドル、第4四半期は8,640億ドルでした。

 預金残高は6,970億ドル。前年同期は6,740億ドル、第4四半期は6,870億ドルでした。

 エフィシェンシー・レシオは57%。前年同期は60%、第4四半期は58%でした。

 グローバル・マーケッツ部門セールス&トレーディング売上高は前年比▲17%の34.6億ドル。前年同期は41.45億ドル、第4四半期は25.88億ドルでした。

 うち債券部売上高は前年比▲8%の23.58億ドル。前年同期は25.56億ドル、第4四半期は14.72億ドルでした。

 株式部売上高は前年比▲22%の11.92億ドル。前年同期は15.25億ドル、第4四半期は10.64億ドルでした。

■各種レシオ

 ROE(株主資本利益率)は11.42%、昨年同期は10.85%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は16.01%、昨年同期は15.26%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は11.6%でした。

 ROA(総資産利益率)は1.26%、昨年同期は1.21%でした。

 1株当たり有形簿価は18.26ドル、昨年同期は16.84ドルでした。

ウエルズファーゴ

 ウエルズファーゴ(WFC)の第1四半期決算はEPSが予想1.10ドルに対し1.20ドル、売上高が予想210.5億ドルに対し216.1億ドル、売上高成長率は前年同期比▲1.5%でした。

 純金利収入は123億ドル、2018年第1四半期より7,300万ドル増えました。

 非金利収入は93億ドル、前年同期より3.98億ドル下がりました。

 純金利マージンは2.91%、前年同期は2.84%でした。

 非金利費用は139億ドル、前年同期より11億ドル下がりました。

 エフィシェンシー・レシオは64.4%、前年同期は68.6%でした。

 貸倒引当金は99億ドル、前年同期は103.7億ドルでした。

 損金計上額は6.95億ドル、前年同期は7.41億ドルでした。

 損金計上比率は0.30%、これは前年同期の0.32%から減少しました。

 引当金は1.5億ドル増、前年同期は5.5億ドルの引当解除でした。

 支払い遅延ローン残高は69億ドル、前年同期から4.34億ドル(▲6%)下がりました。

 平均融資残高は9501億ドル、前年同期より8.76 億ドル減少しました。

 平均預金残高は1.262兆ドル、前年同期は1.297兆ドルでした。

 配当ならびに自社株買戻しで60億ドルを株主に還元。これは前年同期の40億ドルより多い還元でした。四半期配当は45セントです。

■各種レシオ

 ROA(総資産利益率)は1.26%でした。

 ROE(株主資本利益率)は12.71%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は15.16%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は11.9%でした。

 1株当たり簿価は39.01ドルでした。前年同期は37.17ドルでした。

シティグループ

 シティグループ(C)の第1四半期決算はEPSが予想1.79ドルに対し1.87ドル、売上高が予想185.6億ドルに対し185.8億ドル、売上高成長率は前年同期比▲1.6%でした。

 地域別売上高は北米が前年同期比▲1%の83.04億ドル、欧州中東アフリカが±0%の31.7億ドル、南米が▲1%の25.41億ドル、アジアが±0%の41.3億ドルでした。

 GCB(グローバル・コンシュマー・バンキング)売上高は84.51億ドルでした。これは前年同期比横ばいでした。

 ICG(インスティチューショナル・クライアント・グループ)売上高は96.94億ドル。これは前年同期比▲2%でした。

 債券部売上高は34.52億ドル、前年同期比+1%でした。債券引受けフィーは8.04億ドル、前年比+15%でした。

 株式部売上高は8.42億ドル、前年同期比▲24%でした。株式引受けフィーは1.72億ドル、前年同期比▲20%でした。

 M&Aアドバイザリーは+76%の3.78億ドルでした。

 シティグループ全体の営業費用は105.84億ドル、前年同期比▲3%でした。

 エフィシェンシー・レシオは57.0%でした。

 純金利マージンは2.72%、2018年第4四半期は2.71%でした。

 貸し倒れは19.48億ドル。これは前年同期比+4%でした。

 純利益は47億ドルでした。

■各種レシオ

 ROE(株主資本利益率)は10.2%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は11.9%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は11.9%でした。

 1株当たり有形簿価は65.55ドルでした。

モルガン・スタンレー

 モルガン・スタンレー(MS)の第1四半期決算はEPSが予想1.17ドルに対し1.33ドル、売上高が予想99.6億ドルに対し102.9億ドル、売上高成長率は前年同期比▲7.1%でした。

インスティチューショナル・セキュリティーズ部門の売上高は前年同期比▲15%の51.96億ドルでした。

 内訳としてインベストメント・バンキング売上高は11.51億ドル、前年同期は15.13億ドルでした。そのうちM&Aアドバイザリーは4.06億ドル(前年同期は5.74億ドル)、株式引受けフィーは3.39億ドル(同4.21億ドル)、債券引受けフィーは4.06億ドル(同5.18億ドル)でした。

 セールス&トレーディング売上高は37.42億ドル、前年同期は44.02億ドルでした。そのうち株式部売上高は20.15億ドル(同25.58億ドル)、債券部売上高は17.1億ドル(同18.73億ドル)でした。

 株式セールス&トレーディングが▲21%と不振だった理由はプライム・ブローカレージにおける残高の減少、デリバティブならびに現物株の客注の低迷によります。

 ウエルス・マネージメント部門売上高は43.89億ドル、前年同期は43.74億ドルでした。税引き前利益は12億ドル、税引き前マージンは27.1%でした。

 コンペンセーション対売上高比率は45%、前年同期は44%、前期は44%でした。
エフィシェンシー・レシオは71%、前年同期は78%、前期は69%でした。

■各種レシオ

 ROE(株主資本利益率)は13.1%、前年同期は7.7%、前期は14.9%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は14.9%、前年同期は8.8%、前期は17.2%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は16.58%、前年同期は16.9%、全域は17.7%でした。

 1株当たり有形簿価は37.62ドルでした。前年同期は36.99ドル、前期は34.04ドルでした。

ゴールドマン・サックス

 ゴールドマン・サックス(GS)の第1四半期決算はEPSが予想5.02ドルに対し5.71ドル、売上高が予想88.9億ドルに対し88.1億ドル、売上高成長率は前年同期比で▲12.6%した。

 投資銀行部門売上高は前年同期比±0%の18.1億ドルでした。

 うちM&Aフィーは前年同期比+51%の8.87億ドルでした。

 株式引受けフィーは前年同期比▲34%の2.71億ドルでした。

 債券引受けフィーは前年同期比▲18%の6.52億ドルでした。

 インスティチューショナル・クライアント・サービス部門売上高は▲18%の36.1億ドルでした。

 うち債券部は▲11%の18.4億ドルでした。

 株式部は▲24%の17.7億ドルでした。

 営業費用は58.6億ドル、前年比▲11%でした。

 エフィシェンシー・レシオは66.6%でした。

 地域別では、米州売上高は52.4億ドル(全体の60%)、昨年同期は59.4億ドルでした。

 欧州中東アフリカは24.59億ドル(全体の28%)、昨年同期は25.9億ドルでした。

 アジアは11.03億ドル(全体の12%)、昨年同期は15.49億ドルでした。

■各種レシオ

 ROE(株主資本利益率)は11.1%でした。

 ROTCE(有形自己資本利益率)は11.7%でした。

 CET1 capital ratio(普通株式等Tier1比率)は13.4%でした。

 1株当たり有形簿価は198.25ドルでした。