IMFの世界経済見通しは下方修正

 IMF(国際通貨基金)は3カ月に1回、年4回(1、4、7、10月)改定、発表する経済見通しを、4月9日に公表しました。

 国際機関・IMFの経済見通しは、各国の政府や中央銀行の見通しと比べてバイアスがかかっておらず、より中立的であるとの見方から、マーケットでは注目されています。次の3カ月の相場シナリオを考える上の基本情報だからです。中でも、特に注目されるのが成長率=GDP(国内総生産)です。

 そのため本連載では、IMFの経済見通し公表のタイミングでこれを毎回取り上げています。

 今回の経済見通しのポイントは、次の7点です。

4月のIMF経済見通しのポイント

(1)2019年の世界の成長率は、前回1月の予測よりも0.2%下方修正され、3.3%に減速

(2)下方修正は、2018年10月から3期連続(3.9→3.7→3.5→3.3%)

(3)下方修正された3.3%は、リーマン・ショック後、景気回復が始まった2010年以降で最も低い水準(2016年と並ぶ水準)

(4)IMFのラガルド専務理事が「世界の70%の地域で景気が減速している」と指摘しているように、日米欧など主要国は軒並み下方修正されており、世界同時減速の様相(表1参照)

(5)中国は、緩和的な金融政策や景気刺激策で前回より0.1%の上方修正となっているが、今年2019年の6.3%見通しは、昨年2018年より0.3%の減速。天安門事件の直後だった1990年(3.9%)以来の低い成長率

(6)世界経済を下押しするのは米中貿易戦争。世界の貿易量も下方修正(4.0→3.4%)

(7)2020年は3.6%に回復すると予測。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ休止や中国の景気刺激策の効果が世界的に波及し、米中貿易交渉の決着によって企業や投資家の心理が改善するとの見通し

表1:IMF世界経済見通し(成長率)                

単位:%
注:()は2019年1月時点との差

 新聞やインターネットの記事では、日米欧主要国の成長率もせいぜい前回公表分との比較表しか出していませんが、上表では過去3回の見通しを載せました。長い時系列で見ると、傾向がよりはっきりと見えてくるからです。

 例えば、世界全体の景気は、2018年は3.6%ですが、2019年に入ると回復するとの見込みから昨年2018年7月時点の見通しでは3.9%と上昇しています。しかし、米中貿易戦争が勃発した夏場以降、その影響が世界経済の下押し圧力となり、3期連続の下方修正となっていることが分かります。

 参考までに、2018年の実績と2019年の今回の見通しとの比較を載せましたが、ほとんどの国で大幅な減速となっています。日本とブラジルは、2018年が悪すぎた反動でプラスとなっていますが、成長水準は低い状況が続いています。

米中通商協議が合意で回復するか?

 米中通商協議が合意に達しても世界貿易が急回復するシナリオは想定しにくいとの見方があります。

 4月2日、WTO(世界貿易機構)は2018年の世界のモノの貿易量が前年比+3.0%だったと発表しました。米中の貿易摩擦の影響を受けて、2017年の+4.6%から減速したと説明しています。2019年はさらに減速し、+2.6%と予測しています。

 その中で気になるのは、WTOは直近の予測で2018年は+3.9%を見込んでいたことです。

 10~12月期に急速に貿易量が落ち込んだため、+3.9の見込みが+3.0%になったと説明。特にアジアや欧州での減速が目立っていると指摘しています。

 トランプ米大統領は輸入自動車に25%の関税を課す新たな貿易制限を検討しており、また、米欧貿易協議や日米貿易協議も始まりました。

 WTOの予測通り、今年も貿易量が減速するのなら、今年の世界経済の回復は鈍くなるかもしれません。また、英国のEU(欧州連合)離脱も企業や投資家の心理を下押ししていると言われています。結局、この問題は10月末まで延期されましたが、合意なき離脱への警戒感が一時的に遠のいただけで、解決されたわけではありません。そのため、下押しされた不安心理は続くということになりそうです。

世界株価は反発しているが…

 世界の株価は昨年12月から反発して上昇しています。また、米国や中国の景況感も3月に入って改善傾向を示しています。このように株の反発と景況感の改善の中で、IMFは今回も見通しを下方修正し、かなり慎重な予測をしています。現実の動きと予測とのギャップがある中で、真実はどちらの方向に収束するのでしょうか。

 マーケットでは今年後半には景気が回復するとの期待感が高まっています。IMFも来年2020年は回復するとの見通しを立てていますが、次回以降の経済見通しで上方修正してくるのでしょうか。

 これを見極めることが今後の課題となりそうです。回復時期が後倒しとなり、米金利が上がらなければ、ドル/円の頭の重い状況はまだ続きそうです。