2019年3月29日(金)、USDA(United States Department of Agriculture:米国の農務省)は、その年、米国の農家が作付けを予定しているトウモロコシや大豆などの耕地面積(作付意向面積)を公表しました。 毎年3月の最終営業日に公表される作付意向面積は、世界屈指の穀物生産国である米国の、その年の穀物の生産高を占う重要な指標です。

 また、作付意向面積が公表されるといよいよ種まきが始まるタイミングになることから、その発表は、米国の穀物相場が天候相場入りしたことを告げる風物詩とも言えます。 今回のレポートでは、3月に公表された作付意向面積のデータや、米国のトウモロコシの生育に関わる基本的な一年間の流れを確認し、今年のトウモロコシ相場の動向を考えます。

長期1960年1月~2019年3月のトウモロコシ価格(シカゴ先物市場 期近、月足、終値)

単位:セント/ブッシェル
出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

米国のトウモロコシ作付面積は日本の国土に匹敵!

 以下は、世界のトウモロコシ生産量におけるランキングを地図に示したものです。

図:トウモロコシの生産量ランキング(上位10位)(2017年)

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

 適度な緯度と、耕作地として使える土地が広い国が、上位にランクインしています。北半球の国が10カ国中6カ国となりました。その北半球の国、世界で最もトウモロコシの生産量が多い米国の動向に注目します。 米国は生産量で世界No.1ですが、輸出量でもNo.1です。貿易品目として世界に流通するトウモロコシに最も大きな影響力を持っているのが米国なのです。 とうもろこしの生産量や輸出量については「コモディティ☆クイズ【7】「とうもろこし関連国(地図付)」の世界シェアは?」 をご参照ください。

 その米国におけるトウモロコシの作付面積を示したのが以下のグラフです。トウモロコシとほぼ同じ時期に作付けをし、収穫をする大豆の作付面積も記載しました。

図:米国におけるトウモロコシと大豆の作付面積 

単位:千平方キロメートル
出所:、USDAのデータをもとに筆者作成

 米国の農家はその年にトウモロコシを植えるのか、大豆を植えるのかを天候や市場動向を見て選択すると言われていますが、米国の穀物の長い歴史で見て見ると、上図のとおり、トウモロコシと大豆の作付面積(毎年6月末に公表される確定値)の合計は、長期的には増加していることが分かります。トウモロコシ、大豆ともに相応の消費用途があり、その消費が年々増加傾向にあるため、畑の面積が拡大していると考えられます。

 米国では、面積の単位は“エーカー”で公表されています。これを日本人になじみのある平方キロメートルに換算すると、2018年のトウモロコシと大豆の作付面積の合計は約72万平方キロメートル、そのうちトウモロコシは約36万平方キロメートルでした。 これらが具体的にどのくらいの規模かを世界の国の面積に例えると、トウモロコシと大豆の作付面積の約72万平方キロメートルは、面積ランキング38位程度のザンビア(アフリカの銅の生産で有名)や、南米の南北に長いチリに匹敵します。トウモロコシの作付面積の約36万平方キロメートルは、面積ランキング61位程度の日本やドイツに匹敵します。

人口増加・食肉文化の浸透でトウモロコシ消費は増加

 以下は米国産トウモロコシの用途です。主要な用途は飼料用、つまり、牛や豚、鶏のエサです。また、近年はバイオ燃料を使用する動きが政策的に広まったため、米国内のトウモロコシの用途においても大きな変化が起きています。

 飼料用やエタノール用に用いられていることから分かるとおり、対象としているトウモロコシは人間がそのまま食べるトウモロコシではありません。デントコーン(Dented Corn)といって、実の中の水分が少ないトウモロコシです。 Dentは動詞で“へこんだ”などの意味で、この場合、水分が抜けて一粒一粒の実がへこんだ様を示していると考えられます。また、Dentは名詞では“歯・歯型”の意味があり、水分が抜けた粒が歯のように見えるためにデントコーンと言う、とする人もいます。

図:米国産トウモロコシの用途 

単位:百万ブッシェル
出所:USDAのデータをもとに筆者作成

 


 米国はトウモロコシの輸出量は世界No.1と書きました。輸入した国もまた、主に飼料用にトウモロコシを使用しているとみられます。以下のグラフは、各種食肉の消費量を示したものです。
 

図:世界の食肉消費量推移 

単位:千トン
出所:USDAのデータより筆者作成

 年々、世界の食肉消費量は増加傾向にあります。人が肉を食すことを止めず、その人の数が増加し続けている以上、これらの肉の消費量は増加の一途をたどり、そして肉を生産するためにはエサが必要であり、そのエサの一部をトウモロコシが担っている、という構図になっています。このため、トウモロコシの世界的な消費量は今後も増加するとみられます。

図:世界のトウモロコシ生産量と消費量 

単位:百万トン
出所:USDAのデータより筆者作成

春・夏・秋、米国のトウモロコシは天候の影響大 

 大規模な農業が行われている米国ですが、トウモロコシも大豆も、種まきや収穫は1年に1度です。春に種をまいて秋に収穫をします。

 以下は、米国におけるトウモロコシの各生育段階の進捗率と在庫の推移を示したものです。(2018年の実績値を参照)

図:米国におけるトウモロコシの各生育段階の進捗率と在庫の推移(2018年)

出所:USDAのデータをもとに筆者作成

トウモロコシの作付けから収穫までの過程を、作付け、発芽、めしべ成長、実の凝固【1】・【2】成熟、収穫の7つに分け、それぞれの進捗状況を示しました。

 例えば2018年は、作付けは4月に始まり6月に完了、収穫は9月に始まり11月に終了したことを示しています。発芽から成熟までの生育期間はおよそ120日間と言われています。 これら7つの過程それぞれと天候の関係は以下のとおりです。(東京商品取引所の資料を参照)

作付け・発芽(4月上旬から6月上旬)
作付けから数日で発芽する。土の温度が摂氏10度以下では発芽しない。理想は摂氏15度程度。作付けが6月以降に後ずれすると、成熟が不十分になる。また、この時期に雨が多いと作付けをする大型農機を畑に入れられない。水分は必要だが、多すぎることはマイナス。

めしべ成長(6月上旬から8月上旬)
トウモロコシの実の先端から細長い絹のような、めしべにあたる糸状のものが出てくる。受粉期(7月中旬から8月初旬)は、十分な土壌水分が必要。また、摂氏38度以上だと受粉に失敗しやすい。

実の凝固【1】(7月下旬から9月上旬)
実が固まり始める時期。霜(しも)が下りると次の生育段階に進まなくなる。乾燥した天候が望ましい。

実の凝固【2】(8月上旬から9月下旬)
引き続き、乾燥した天候が望ましい。ハリケーンや熱帯暴風雨の進路が主要生産地(米国の中西部)まで北上した場合、実が固まらない、大型農機を畑に入れられないなどのトラブルが発生する可能性がある。

成熟(8月下旬から10月中旬)
実の凝固【2】から約2週間で成熟が完了する。

 また、2018年の在庫については、3、6、9月と、2017年の秋に収穫したものが徐々に減少してきている過程にあり、2018年の収穫がほぼ完了した直後の12月に年間で最大となります。

2019年は2月の大雪で作付けの遅れ、作柄悪化の懸念

 2019年3月29日(金)にUSDAが公表した作付意向面積のレポートに、今年の米国のトウモロコシの主要産地の現状について、以下のような記載があります。

・この冬、エルニーニョ現象による2019年1月下旬から発生した寒波の影響で、米国は過去124年間で最も降水量が多かった。
・大寒波は米国の国土の大部分に影響があったが、断続的に続いた雪・雨は中部と東部で最も深刻だった。
・2月、南中南部と中西部の低い地域の一部で重大な河川の氾濫が発生した。
・大雪は1月下旬以降も続き、3月下旬にコーンベルトの西部で発生した洪水の原因となった。

 このレポートにある「コーンベルト」とは、米国のトウモロコシの主要産地一帯を示す言葉です。具体的な州名は、イリノイ、アイオワ、インディアナ、オハイオ、ミズーリ、ネブラスカ州などです。 今年1月下旬より発生した歴史的な大寒波の影響で、現在の中西部は土壌水分が多い、と読み取れます。

 作付意向面積が公表されましたが、実際にその面積に作付けを行うことができるのか、例年に比べて今年の状況は不安定だと言えます。 作付けは今年の秋に収穫するトウモロコシの量に大きく影響する重要な作業であるため、進捗が芳しくなかった場合、今年の収穫量が予想よりも減少する可能性が生じます。

 USDAは6月上旬まで作付け進捗率を公表します。昨年は6月3日に97%になりましたが、今年の進捗は例年以上に注目が集まりそうです。仮に作付けが行われたとしても、作柄(生育中のトウモロコシの品質)が良好なものになるかも心配な点です。

 トウモロコシの世界No.1の生産国である米国における、生育過程と天候の関係、今年の現状について触れました。状況次第では、価格が上振れする可能性があると見ています。引き続き注目したいと思います。

参考:トウモロコシ価格 2006年1月から2019年4月 (シカゴ先物市場 期近、月足、終値) 

単位:セント/ブッシェル
出所:CMEのデータをもとに筆者作成