不吉な経験則、過去を検証してみよう

 先日、新聞に、市場では株式市場の月間騰落率のパターンから、ある不吉な経験則がささやかれているという記事が出ていました。この経験則をご存知の方もおられるかも知れませんが、頭に入れておいて損はないという内容なのでここで紹介したいと思います。

  記事の要点は、 

「今年の日経平均月別騰落率をみると、1月は4%、2月は3%の上昇、3月は0.8%の下落となっています。1946年以降の日経平均で、この『1月、2月上昇、3月下落』のパターンが起こった年は過去に5回あります。1967年、1974年、1998年、2007年、2011年の5回です。そしてこの5回のそれぞれの年の4月から年末までの株価騰落率をみると、いずれも10%を超える下落となっています。1974年は高度経済成長の終わりに当たり、2007年は米国で住宅バブルが顕在化し、いずれの年も、株高を牽引していた経済条件が反転した年でした」

 という内容です。

 もし、今年もこの経験則が当てはまるのであれば、4月以降、株は10%以上下落し、ドル円は円高方向に動くことが予想されます。

 この5回の内、1974年以降の時代背景を少し補足しますと、1974年の前年1973年はオイル・ショックが起こり、石油価格の高騰によってそれまでの高度経済成長が終わり、家計、企業のコストが増大した時代です。日本では石油不足からくるモノ不足時代が到来する、とのうわさが流布し、費者がトイレットペーパーを買い占め、スーパー、小売店の店頭からトイレットペーパーが蒸発するという「トイレットペーパー騒動」が起こりました。

 1998年は日本の金融危機のピークでした。バブル崩壊後、日本の金融機関は不良債権に苦しみ、1997年11月には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が破綻。1998年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が相次いで破綻しました。この頃は、毎朝、朝刊の一面を見るのが怖かったことを鮮明に覚えています。 米国の住宅バブルを背景としたサブプライム問題は、震源地である米国でなく、まず欧州を揺らしました。

 2007年8月のパリバショックです。フランスの大手銀行のBNPパリバが傘下のファンドの解約を凍結しました。それまでサブプライム関連商品を積極的に購入していた欧米投資家が動揺し、金融機関の信用不安が一気に高まりました。そして翌年2008年にリーマン・ショックが起きました。

 2011年は東日本大震災によってGDP(国内総生産)は大きく落ち込み、株も下落しましたが、欧州債務問題が深刻化したのも2010年から2011年にかけてでした。欧州債務問題とは、2009年10月ギリシャの財政問題に端を発した債務危機、すなわち国家の信用失墜が南欧から欧州へと広域に連鎖した一連の金融経済危機のことです。

  このように、それぞれの年を見てみますと、オイル・ショック、日本の金融危機、リーマン・ショック、欧州債務危機と時代の転換点を象徴するような重大事件が前後に起こっています。

 では、2019年はどうでしょうか。

2019年、経験則は当てはまる?

 2018年夏場から激化してきた米中貿易摩擦、2018年11月頃から急速に悪化した中国景気と世界の株式市場の下落、悪化が止まらない欧州景気、これらの影響により、これまで順調に拡大してきた世界経済も減速してきています。

 また、12月にはFRB(米連邦準備制度理事会)がハト派姿勢に転換し、ECB(欧州中央銀行)もハト派姿勢に転じました。しかし、世界景気の後退と金融政策の転換は、過去に見られたような、時代の転換点を象徴するような重大事件によって起こっている出来事ではありません。

  3月に入ると、米国や中国の経済指標で改善を示す数字が出てきており、株も反発してきています。米中通商協議の合意への期待も高まってきています。このような状況をみると、2019年は不吉な経験則が当てはまらないのではないか、あるいは当てはまっても下落率は小さいのではないかと思わせる状況となっています。

 最近のドル/円の動きをみていますと、1日の値幅が小さく、動意の乏しい日が続いています。ひょっとしたら、ドル/円はこの不吉な経験則を見極めようとしているのでしょうか。見極めるまでは動かないつもりなのでしょうか。

 確かに最近の相場材料を見ていると、中途半端な材料が多く、相場を方向付ける力に欠けています。米中通商協議も期待を匂わせる言葉は飛び交っていますが、進展スピードは鈍い状況となっています。Brexit(ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)も先延ばし先延ばしで、マーケットの不安材料には今のところなっていない状況です。トランプ米大統領の量的緩和にまで踏み込んだFRBへの圧力も、マーケットは冷静に見ている状況です。

 いずれの要因も、マーケットを大きく動かす要因としては中途半端な材料ばかりであり、そのような中で発表された先週の米雇用統計も、強弱まちまちの数字となったため、ますます動きづらい環境となっています。

 日経平均株価の3月終値(2万1,205円81銭)から10%下落すると、1万9,085円になります。ここまで下落しなくても、1月から3月の上昇幅を帳消しにする下落によって、ドル/円は動意づいてくるかもしれません。2018年の日経平均の終値は2万14円77銭です。従って2万円を割れるような環境変化が起こるのかどうかに注目です。この不吉な経験則が当てはまらないことを祈りますが、今後も頭に入れておいておきたい経験則です