3月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 1月、2月に続いて、3月も新興株市場の主役はバイオテクノロジーでした。ただ、バイオのほかにもAI関連(ALBERT、HEROZなど)もひさびさに人気化。また、3月IPO(新規公開株式)も活況で、公開価格に対してサーバーワークスの初値が3.7倍、Welbyが3.5倍に急騰しました。IPO株は上場した月の「翌月の月末」に指数に反映されます。そのためマザーズ指数には影響しないわけですが、直近IPOの盛り上がりを見る限り、マザーズ指数の動き以上に新興株の地合いは良かったと言えそうです。

 月の東証マザーズ指数は月間騰落率+4.1%で、3カ月連続の上昇に。一方で、日経ジャスダック平均は同▲0.69%。新興株でも明暗が分かれていますが、この形で分かれるパターンは「流動性」で説明できることが多いといえます。流動性が高いのがマザーズ…ですが、個人投資家が「流動性の高いマザーズ銘柄」に群がるタイミングとして、“東証1部の大型株の値動きが悪い時期”というケースはよく見られます。

 3月の日経平均株価の月間騰落率は▲0.8%でした。国内機関投資家による決算期末による益出し売りに押され、東京時間の需給環境が悪いのが3月。外部環境は良かったものの、寄り付きが高いと戻り売りに押されて「陰線」に。その結果、3月の日経平均株価はこう着感を強め、月間の上下値幅は949円(高値2万1,860円、安値2万911円)でした。

 この月間949円値幅というのは、17年12月(上下値幅875円)以来の狭さ。売買も減少傾向で動きも悪い東証1部銘柄を避け、短期資金はハイボラかつ流動性の高いマザーズの人気銘柄へ。これがマザーズ指数だけ3月強かった背景と言えるんじゃないでしょうか。ちなみに、17年12月もマザーズ指数は+5.6%と大幅高の一方、値幅の狭かった日経平均は+0.2%でした。

3月の売買代金ランキング(人気株)

 1月末のサンバイオショックや2月のアンジェスフィーバー(HGF遺伝子治療薬の再生薬として日本初となる承認)のような象徴的な話題は無かったものの、3月も新興株で売買が活発だったのはバイオ株でした。売買代金ランキングの1位~6位がバイオ株。2月は2位(2月の売買代金25日移動平均値114億円)だったアンジェスが、3月は売買代金ほぼ倍増でトップに。2月トップのサンバイオ(同233億円)は、前月のほぼ3分の1の売買代金で3位でした。

 1位~6位までバイオ株で独占。この6銘柄の売買代金25日移動平均値を合計すると540億円に上ります。新興株全体が1,718億円でしたので、この上位6銘柄だけで「31%」を占めていたということ。「(3月の)新興株市場全体の流動性の“約3割がバイオ6銘柄”」と表現できますので、冷静に考えると「結構スゴイこと起きてたんだな」と振り返られるのではないでしょうか。

市場 コード 銘柄名 3月末
終値
時価
総額
売買代金
25日
移動
平均値
月間
騰落率
東証マザーズ 4563 アンジェス 1,045 1045 206.6 6.6
東証マザーズ 4588 オンコリス 3,390 454 123.2 53.5
東証マザーズ 4592 サンバイオ 2,856 1420 78.4 5.0
ジャスダック 4579 ラクオリア 1,721 351 50.9 -11.3
東証マザーズ 4565 そーせい 1,505 1148 42.8 21.1
東証マザーズ 4596 窪田製薬 766 313 39.0 95.9
東証マザーズ 4385 メルカリ 3,400 5050 38.2 9.0
東証マザーズ 3990 UUUM 5,300 995 32.2 -9.9
東証マザーズ 3906 ALBERT 15,000 489 27.7 38.2
ジャスダック 7564 ワークマン 5,700 4665 27.2 33.8
東証マザーズ 7049 識 学 5,330 133 24.2 -0.9
ジャスダック 7612 NUTS 152 113 20.2 -6.2
東証マザーズ 4425 Kudan 20,590 1422 19.5 -14.7
ジャスダック 4582 シンバイオ 198 163 18.3 -5.7
東証マザーズ 7172 JIA 2,608 788 18.0 -18.6
東証マザーズ 4382 HEROZ 11,910 830 16.7 37.1
ジャスダック 6324 ハーモニック 3,790 3650 16.6 4.1
ジャスダック 2146 UT GROUP 2,536 1024 16.0 0.0
東証マザーズ 4428 リンク 17,970 214 15.9 46.5
東証マザーズ 7707 PSS 419 105 14.7 8.5
【各項目の単位】3月末終値(円)、時価総額(億円)、売買代金25日移動平均値(億円)、月間騰落率(%)
出所:筆者作成

3月の売買代金ランキング(5銘柄)

1 アンジェス(4563・東証マザーズ)
 1,300円台が当面の高値とすれば、アンジェスの日足チャートは典型的なダブルトップを形状。一番天井は2月26日高値1,320円、厚生労働省の部会におけるHFG遺伝子治療薬の「条件付き承認」から始まった急騰時のピークです。そして二番天井が3月27日高値1,350円。26日に、厚生労働省から条件及び期限付き承認を受けたと発表、その翌日でした。
 ビッグニュースに湧いたアンジェスですが、この好材料もダブルトップ形成を見る限り、一旦は消化し尽くした印象。今夏にも最初の投与が始まるようですが、今後は(1)遺伝子治療薬「コラテジェン」の薬価がいくらか? (2)その場合の売上、営業利益への寄与はどの程度か? (3)業績に本格寄与するのはいつ頃か? に意識が向きそうです。

2 オンコリスバイオファーマ(4588・東証マザーズ)
 バイオ株人気が続いた3月ですが、なかでも流動性を高めたバイオ株がオンコリス。売買代金25日移動平均は、新興株全体で2位の123億円でした(2月は54.5億円)。とはいえ、複数あるバイオ株の中で、なぜオンコリスの人気が最近高いのか? これを誰かに教えて欲しいものですが…。
 3月に人気化した背景としては、一部経済紙ががん治療に関する特集記事を掲載。その中で、オンコリスのがん細胞だけ破壊する腫瘍溶解性ウイルス製剤「テロメライシン」と放射線を併用する治験に触れられていたこととの見方もあります。

3 サンバイオ(4592・東証マザーズ)
 最注目イベントは、15日の決算発表ではなく、25日の「19年1月期決算説明会」。米国フェーズ2b試験が失敗に終わった慢性期脳梗塞を対象としたSB623の開発を続けるのか? 止めるのか? 会社側の意見表明に関心が集中していました。市場の関心度が高いこともあり、25日の説明会は冒頭からこの点を説明。会社側の回答は「開発を続けます」でした。「開発継続=買い」、翌26日は買い気配で始まりましたが、その買いも続かず…。
 開発継続を市場が強いポジティブ材料にしなかった理由は、会社側からは継続への強い意思が示されたものの、業務提携先の大日本住友製薬との間で連携がとれている印象が持てなかったことが大きそう。また、2b試験が失敗した理由もまだ解析出来ていないとのことで、開発継続とはいえ、再開までには相当な時間がかかることが有力視されます。
 なお、目先の株価材料になりそうなイベントは、日本時間4月17日早朝に予定される米サンディエゴの学会。フェーズ2が成功した外傷性脳損傷のSB623についての詳細解析結果が公表されるようです。

4 窪田製薬(4596・東証マザーズ)
 バイオ株人気の地合いと、“なんだかスゴそう”材料で大相場に。3月の月間騰落率は95.9%で、値上がり率でも2位でした。“なんだかスゴそう”材料は、7日に開催された決算説明会に少し提供。この場で、窪田社長が「NASA(米航空宇宙局)と共同事業を進めている」ことを明らかに。そして18日、NASAと超小型の眼科用機器について共同開発の契約を締結したと正式発表しました。 3月高値は22日に付けた1,226円で、実に16年12月以来となる水準に。なお、この“なんだかスゴそう”材料に飛び付いたのは短期の個人投資家ばかりだったようで…25日に東証が信用規制をかけると発表。信用取引で買った投機勢は撤収売りに回りました。

5 ワークマン(7564・ジャスダック)
  “進撃のワークマン”特集を、4月2日の「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)で放送。作業服のワークマンが、そのノウハウを使ってアパレル業界に乗り込む…この成長ストーリーで株価もたしかに進撃を続けました。
 ショッピングセンター内で、新業態「ワークマンプラス」の新規出店を加速させる様子。既存店売上自体が好調を続けるワークマンですが、新業態の上乗せによる業績拡大シナリオに機関投資家も乗っかってる感じがあります。3月末に2分割し、100万円を超えていた最低投資金額が半分に。NISAの年間枠内でも余裕をもって買える株価になりました。

3月の株価値上がり率ランキング

 日経平均の値幅が狭く、東証1部銘柄は東京時間「陰線」を引くケースが多かった年度末の3月。国内機関投資家の売りを意識し、東証1部銘柄を敬遠する資金が新興株市場へ。なかでも、持ち合い解消売り懸念が小さく、無配銘柄が多いため配当落ち影響など心配不要のマザーズに短期資金が向かいました。

 値上がり率トップ20のうち、マザーズ銘柄が17銘柄ランクイン。本コラムを始めた17年10月以降でも最多で、マザーズ人気という点では、過去1年半の中で今年3月が最高だったともいえそうです。毎度の傾向としては急騰株のほとんどが超小型株という点。時価総額100億円未満の超小型銘柄が、トップ20のうち12銘柄でした。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
3月末
終値
前月末
終値
価格
時価
総額
東証マザーズ 6580 ライトアップ 116.2 2,450 1,133 71
東証マザーズ 4596 窪田製薬 95.9 766 391 313
東証マザーズ 3907 シリコンスタシオ 91.1 2,664 1,394 77
ジャスダック 3710 ジョルダン 82.7 1,809 990 95
東証マザーズ 3995 SKIYAKI 82.1 1,098 603 115
東証マザーズ 7671 AmidAHD 80.4 3,500 1,940 74
東証マザーズ 2351 ASJ 78.4 2,670 1,497 212
東証マザーズ 6096 レアジョブ 74.7 3,310 1,895 78
東証マザーズ 4380 Mマート 68.5 2,071 1,229 51
東証マザーズ 6067 メディアF 65.1 4,255 2,577 214
東証マザーズ 6696 トランザス 63.8 1,322 807 42
ジャスダック 8704 トレイダーズ 62.0 81 50 84
東証マザーズ 6177 AppBank 56.9 430 274 33
東証マザーズ 3931 バリュゴルフ 56.4 1,564 1,000 28
東証マザーズ 4588 オンコリス 53.5 3,390 2,208 454
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 50.6 3,280 2,178 338
東証マザーズ 6562 ジーニー 48.2 658 444 117
東証マザーズ 4428 リンク 46.5 17,970 12,270 214
ジャスダック 7042 アクセスGHD 46.0 2,216 1,518 27
東証マザーズ 6081 アライドアーキ 43.7 654 455 92
【各項目の単位】 月間騰落率(%)、3月末終値(円)、前月末終値価格(円)、時価総額(億円)
出所:筆者作成

3月の値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ライトアップ(6580・東証マザーズ)
 中小企業向けコンサルを主力事業とするライトアップ、昨年6月上場のちょっと古めの直近IPO株です。初値が3,725円、今年2月に付けていた上場来安値は844円。そこから3月高値2,989円まで、まさに爆騰でした。
 ただ、なぜ爆騰が発生したのか、理由が分かりません。が、買い上げた主体は信用取引を使った個人投資家だったことは判明しています。11日まで9連騰していましたが、その11日に東証が信用規制をかけると発表。その途端、翌12日はストップ安となりました。

2 シリコンスタジオ(3907・東証マザーズ)
 20日に火柱が立ち、そこから月末にかけて急騰しました。きっかけは、19日に米グーグルが発表したゲーム事業参入。グーグルが手掛けるゲームは、据え置き型ゲーム機が不要なクラウド型ゲーム(独自のゲームストリーミングサービスプラットフォーム「Stadia」を利用)。グーグル参入による競争激化懸念で、ゲームのハード機を手掛けるソニーや任天堂が売られた話題です。
 この米グーグル参入の話から関連株に浮上したのが、「Stadia」のパートナー企業として名前が挙がっている同社とCRI・ミドルウェアでした。北米や欧州でのサービス開始は今年中のようで、サービスの詳細は今夏に発表されるもようです。

3 ジョルダン(3710・ジャスダック)
 26日から月末29日まで、わずか4営業日で株価は8割以上も値上がり。材料は、同社が発表した新モバイルチケットの提供開始でした。全国の自治体や交通事業者を対象に、5月からスマホアプリで購入手続きを完了できるチケットサービスを提供するようです。乗り換え案内サービスとの相性の良いサービスなうえ、多言語対応で訪日外国人も使えます。
 このリリースが好感されました、それ以上に、発表前の時価総額が50億円台の超小型株で、流動性が極めて低かったことが瞬間沸騰の理由でしょうか。

4 SKIYAKI(3995・東証マザーズ)
 リリースと好業績発表の合わせ技が決まり、3月の人気株に。月初から急騰したのは、1日に発表したJリーグチームの「アルビレックス新潟」のモバイルファンサイト開設。その1週間後には、アイモバイルと新プラットフォーム事業の展開加速のための業務提携も発表。
 材料に反応して出来高が膨らんできたところで、15日発表された通期決算が燃料補給的な役割に。前期の売上高が64%増で会社計画を上振れたほか、今期見通しも増収増益を見込むと一段高で、半年ぶりの1,000円台乗せに成功しました。

5 AmidAHD(7671・東証マザーズ)
 4月1日の新元号発表に向け、株式市場では「改元」関連銘柄探しが広がりました。改元で需要が生まれる業種はどこか? 書類や封筒の刷り直しで“印刷株”、結婚需要高まるんじゃないかで“ブライダル株”など妄想に近い連想も広がりながら、直近IPOで小型のマザーズ株ということもあって同社がシンボルストック級に。
 同社は、超ニッチなハンコ(印鑑)の市場において、EC経由で国内トップシェアを握る企業です。昭和から平成に改元した際、新元号対応のための訂正スタンプに需要が生まれたとのエピソードから、上場銘柄では唯一のハンコ専業株として人気化しました。

4月に注目したい新興株の動き

 この4月は要注意といえそうです。それは、4月27日~5月6日の「10連休」。外部環境に翻弄される性格の日本株市場だけに、3連休前でもポジションを整理しておく動きが起きますが、未曾有の10連休。この10連休における“価格変動リスク“は無視できません。

 それでなくとも、マザーズ市場は過去2年の4月相場が軟調でした。マザーズ指数は昨年の4月が月間▲5.3%、一昨年が▲3.8%。5月前半にラッシュとなる決算発表を前に、警戒で一度売却する動きが起きやすい時期といえます。今年に関しては、10連休明けに集中する形になりますし、例年以上にガイダンスリスク(市場予想より弱い予想を出す会社が多くなるリスク)が高いともいえます。

 ただ、前述の“価格変動リスク”というのは、両側面があります。株のロングを持っている投資家にとっては、「10連休明けに急落するかもしれない」。ショートに傾けている投資家にとっては、「10連休明けに急騰するかもしれない」ということがリスクです。つまり、例えば今多くなっているダブルインバースの買いポジション(=日経平均売りポジション)は、連休前に売却に回り(=日経平均買い戻し)価格押し上げにつながる側面もあるわけです。個別株でも、空売りが溜まっている銘柄は同様です。

 そのため、東証1部市場でいえば、思ったほど売りヘッジにより手前で崩れない可能性もあります。実際、東証1部の3月末時点の信用買い残を金額ベースで計算すると1兆4,938億円ありますが、売り残も7,686億円あります(信用倍率1.94倍)。一方でマザーズは、買い残が2,408億円あるのに対し、売り残は174億円(信用倍率13.8倍)。これ、簡単にいえば、上がって欲しいと思っている人のポジションが下がって欲しいと思っている人の13.8倍ある状態。いわゆる“買戻し”なる概念がほぼ無い市場と言えますので、10連休前、マザーズ市場が突然崩れるリスクには十分構えておかないといけないわけです。

 しかも、この4月に突入する前、1月~3月の3カ月にわたりバイオ株相場が生じていたことも無視できません。前述しましたが、3月の売買代金トップ10のうち、上位6銘柄がバイオ株でした。しかも新興市場全体の流動性の約3割がこのバイオ株6銘柄。マザーズの信用買い残もバイオ株に偏った状態で、最も心配されるのが“株価モメンタムの悪化”になります。

 株価が上昇基調にある間を、モメンタムがある状態と表現します。そのモメンタムが買いの動機になっている場合、モメンタムが止まる(株価が下がり始める)と売られます。そしてバイオ株の場合、売られ始めたときに「適正価格が一切分からない」という弱点があります。下がったものの、どの水準なら売られ過ぎといえるのか? それを判断する材料が無いのがバイオ株です(赤字のため)。そのバイオ株に個人投資家のポジションも、マザーズ指数そのものも大きく構築された後である点が不安の根っこ。4月は捨て、10連休明けから始まる「令和」のマザーズ相場に期待するくらいのスタンスで良いのではないでしょうか。