今回からトウシルで論考を掲載させていただくことになりました、競争戦略アナリストの田中道昭です。よろしくお願いします。

 私は現在、立教大学ビジネススクール教授、上場企業取締役、戦略コンサルタントなどの仕事をしながら、各種メディアでも発信しています。

 トウシルにおいては、競争戦略アナリストとして、国内外の注目企業をピックアップし、その時々のトレンディーなトピックや進化が進んでいるテクノロジーのトピックとも「掛け算」して分析。個人投資家の読者の方にもお役に立つ内容で注目企業の競争戦略をご紹介していきたいと考えています。

 その第一弾のシリーズとしては、米国と中国のメガテック企業、GAFA(米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)とBATH(中国のバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の競争戦略を取り上げていきたいと思います。

 私はその時々の注目企業を分析してきた中で、今回、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社、4月9日刊行)という書籍にその成果をまとめました。

著者:田中道昭
出版社:日本経済新聞出版社
価格:1,620円(税込)

 トウシルでもその内容を各社の最新動向と合わせてご紹介していきたいと思います。

GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略を分析する意義

 GAFA(米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)とBATH(中国のバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)を代表とする米中の巨大テクノロジー(メガテック)企業の動向が、今グローバル経済に大きな影響を与えています。それぞれの戦略や最新技術が産業を牽引し、各社に〝不祥事〟が生じれば「○○ショック」として世界同時株安を招きもする……これらメガテック企業の影響を受けない人も国家も存在しないといっていいほどです。

 米中メガテック企業8社の競争戦略を分析していく意義は主に以下の5つに集約されると思います。

(1)プラットフォーマーの覇権争い

 8社のほとんどは「プラットフォーマー」とも呼ばれ、それぞれの領域で独自の経済圏を拡大しています。プラットフォームとはもともとは台、土台、基盤などの意味。プラットフォーマーとは、「ビジネスや情報配信を行うに際して基盤となるような製品・サービス・システムを、第三者に提供する事業者」です。

 いわば今後のビジネスの最重要となる部分を担う事業者であり、日本のみならずグローバルなレベルでの産業変革を知るためにこの8社の分析が重要なのは論を待たないでしょう。

(2)先駆者利益を創造する存在となった中国勢の動向

模倣からスタートした中国メガテック企業が、今や独自でイノベーションを起こし、新たな価値を創造しています。後発者利益を獲得し、先駆者利益を創造するようになってきた中国勢の一連の流れには大いに注目する必要があります。

(3)同じ事業ドメインから異なる進化を遂げる

「同じ事業ドメインからスタート」という括りで米中の企業を2社ずつ分類することができます。たとえば、フェイスブックと同様にSNSからスタートしたものの、多くの産業に進出し大きな存在感を示しているテンセントなど、同じ種から、異なる果実が実ることがあるのはなぜか。事業展開の方向性やスピードを左右する根底にあるものを考察する意義は大きいと思います。

(4)産業・社会・テクノロジー・あるべき企業の未来

 8社の分析から主要産業の動向や近未来の姿が読み解けます。テクノロジー、電機、電子、通信、電力、エネルギー、自動車、エンターテインメント……今や、主要産業の動向とGAFA、BATHをの動向とは表裏一体であり、主要産業の近未来予測を行う上でも、分析は不可欠なプロセスなのです。

 さらに、社会全体の動向や近未来の姿も読み解くことができます。それぞれの分野において、自らの事業を通じて社会的問題と対峙し、新たな価値を生み出してきた8社。「自由か統制か」「所有かシェアか」「開放か閉鎖か」など、社会の方向性や価値観を占う意味でも、この分析は重要です。

(5)戦略やリーダーシップの「教科書」にもなる

 私は、2017年に『アマゾンが描く2022年の世界』、2018年に『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)を上梓しました。前者では、国家や社会に大きな影響を与えているアマゾンという企業の戦略を筆者の専門である「ストラテジー&マーケティング」と「リーダーシップ&ミッションマネジメント」という視点から分析、さらには同社を通じて近未来の予測を行いました。

 後者では、次世代自動車産業における戦いの構図を分析し、主要各社の戦略を読み解き、関連するテクノロジーを解説、日本の活路について考察しました。2作ともにそれぞれのテーマに興味をお持ちの方はもとより、登場する企業と競合する企業の方々、さらにまったく異業種の企業経営者やビジネスパーソンにも広く読まれました。

 新著においても、幅広い業種における幅広い職種の方々や学生の方などに向けて、GAFA、BATHを題材とする「ストラテジー&マーケティング」と「リーダーシップ&ミッションマネジメント」の教材としてもお読みいただけるものとなるよう腐心しました。米中メガテック企業8社の分析は、企業戦略やリーダーシップ、ミッションマネジメントの「教科書」であり、本書もそれを重要な目的の1つとしています。

 冒頭で述べたように、今やGAFAとBATHをなしに未来は語れません。8社を同時に見ていくことで、いろいろな問題意識を持ち、さらには自分自身の使命感を新たにすることができるのではないかと思います。

 最後に、マクロ環境を分析する際に使用する「PEST分析」から、米中による新しい冷戦について整理しました。上記で紹介した、GAFA vs BATHという米中メガテックによる競争戦略は、まさに米国と中国による覇権争いのコア部分といえます。これらの詳細についても連載の中で詳しく述べていきたいと思います

■PEST分析から読み解く米中新冷戦の構図

以上を念頭に、

・米中メガテック企業8社をベンチマークする(分析し、参考にする)
・8社と直接競合する企業は対策を考える
・8社の分析を踏まえて自社の戦略を研ぎ澄ませる

という3つの視点を持って、トウシルでの記事を読み進めていただければと思います。

 この論考が、トウシルの読者の皆さんの学びの気持ちや日々のビジネスに貢献するだけでなく、個人投資家としての投資分析の一助になることを切望しています。