小麦や大豆などの穀物、金やプラチナなどの貴金属、原油や天然ガスなどの資源は、常に価格変動しており、そしてそこには必ず何らかの理由があります。時として、株価や通貨と異なり、変動要因が複雑な場合があります。
 この連載では、過去の一定時期の金や原油などのモノ(=コモディティ)の価格の急変に注目し、その急変が何を起因として発生したのかを解説していきます。
 価格急変の背景を知ることで、その銘柄の価格変動を分析する知識が身につきます。この連載を通して、価格変動の要所を見抜くための視野を広げてほしい、と筆者は考えています。
 

金の価格が1,200円から3,300円へ!何が起こった?

 今回は、2003年から2008年半ばにかけての、金(gold)の急騰に注目します。

金価格の推移 (東京先物市場 期先 月足 終値) 

単位:円/グラム
出所:東京商品取引所(TOCOM)のデータをもとに筆者作成 

 

 2003年時点で1,200円近辺だった金(東京先物市場、円/グラム)は、2008年7月に3,363円台に達しました。5年半で約2,100円上昇、およそ2.7倍になりました。 この時期は、金だけでなく、原油(*WTI原油先物)も23ドルから147ドルへ上昇するなど、他のコモディティ銘柄の価格も上昇しましたが、それまでのおよそ10年間、価格が大きく動かなかった金が大きく動いたことで、市場は大いに驚きました。

 この時期の、金の価格の急騰の直接の理由としては、中国・インドの金の消費量が増加したことが挙げられます。

 2003~2007年の4年間で、世界の金の需要は大きく増加しました。中でも中国とインドの2大国で増加が目立ちました。グラフを見ると分かるとおり、中国の金需要は2003年が215.0トン、2007年が339.8トンと、124.8トン増加して約1.5倍に、インドの金需要は、2003年が538.4トン、2007年が684.4トンと、146.0トン増加して約1.2倍になりました。世界全体の金の総需要はおよそ3,100トンですが、この2カ国だけでおよそ1,000トンと、3分の1を占めるまでになりました。

 

*WTI原油先物とは

WTIとは、West Texas Intermediate(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の略。米国テキサス州西部とニューメキシコ州南東部で産出する原油のこと。硫黄分が少なく高品質な原油で、ガソリンや灯油などを多く取り出せるのが特徴。WTI先物とは、ニューヨークマーカンタイル取引所で取引されており、世界的な原油価格の指標の一つ。原油だけでなく、世界経済の動きを予測する経済指標の一つとなっています。

 

中国・インド、および世界全体の金の消費量の推移(2003年と2007年)

出所:トムソンロイター・GFMSのデータをもとに筆者作成

  では、なぜこの時期に中国・インドの金需要が増えたのでしょうか。

  一言でいえば「新興国の成長」です。

新興国が成長したら金が急騰。どうして?

 金価格が急騰し始める直前の1990年後半、先進国は経済成長が頭打ち、もしくは鈍化し始めていました(日本はバブル崩壊直後)。ITバブルなどの部分的なバブルはみられたものの、世界規模の経済成長に発展することはありませんでした。

 これまでのように経済成長を維持したい先進国が注目したのが、国土が広く、人口が多い一方、当時はまだ経済は発展途上だった「新興国」です。経済鈍化を回避する意味もあり、先進国は中国、中国、ブラジル、ロシアなどの新興国に資金を投じ始めました。

 新興国における発電所の設置、道路や電気、水道などのインフラ整備のため、先進国は国家レベルで資金を投入。日本のように、安い労働力を求めて生産拠点を新興国に移す動きも目立ち始めました。さらに、新興国の個別企業に投資する先進国企業も増え、新興国は一気に経済活動を活発化、著しい経済成長がはじまりました。

 これらにより、中国のGDP(国内総生産)成長率(前年比)は10.04%(2003年)から14.2%(2007年)となりました。2017年の成長率が6.9%であることに比べると、桁違いの成長率です。また、インドのGDP成長率も7.86%(2003年)から9.8%(2007年)に上昇しました。国土も広く人口も多い2大国家の急速な経済成長は、世界経済に大きなインパクトを与えました。

 経済が成長するにつれて中国とインドの個人消費が増加しました。個人消費の増加はこれらの国の金需要を増加させる要因となりました。このことは価格が動かなかった金の価格に影響を及ぼし、冒頭で述べたように、金価格が急騰する一因となったのです。

図:新興国(BRIC’S)と先進国(G7)のGDP成長率(前年比)の推移

出所:UN(国連)のデータをもとに筆者作成

 

 そして、ここでもう一点注目したいのは、金の生産量を押し上げた中国とインドにおける個人の「金の価値感」です。

 

金大好き!中国とインドの共通点は?

 金の生産量を押し上げた中国とインドにおける個人の「金の価値感」には、共通点があります。中国もインドも、自分を飾ることと(宝飾)、コインや地金バーを保有すること(資産)の両方が重視されていると見られます。

 インドの農村部では、嫁入りの際、親が娘に金の宝飾品を持たせる文化があると言われます。「金の宝飾品=資産」という認識が強く、伝統的に金を重視する文化が根付いており、金の消費量を増加させる一因となっています。

 また、中国では、「金=富の象徴」と捉えられています。経済発展に伴い富裕層だけでなく、お金に余裕ができた庶民も、金を代表とする宝飾品を身につけることが一般化。人口の多い国でこのようなことが一般化したことは、金の消費量を増加させる一因となっています。

 1990年代前半から2000年前半まで、横ばいだった金の価格が2003年ごろから2008年にかけて大きく上昇したのは、こうした理由からでした。風が吹けば桶屋が儲かるに当てはめれば、先進国の経済成長が鈍化したら金が急騰したということになります。
 

先進国の経済成長が鈍化したら、金が急騰した

 

 

 

実は2種類ある!東京金とNY金の違いを知ろう!


 金の価格変動に着目する際、価格の単位が“円”の金と、“ドル”の金の両方の値動きをチェックする必要があります。
 日本人の多くが注目しているのは、円の金=TOCOM(東京商品取引所)の先物価格(期先限月)(通称:東京金)、世界ではドルの金=CME(シカゴ商品取引所)の先物価格(期近限月)(通称:NY金)です。それぞれの市場の単位は、円の金は1グラムあたり、ドルの金は1トロイオンス(およそ31グラム)あたりです。3月13日時点で円の金は1グラムあたり約4,600円、ドルの金は1トロイオンスあたり1,300ドルです。

 今回取り上げた、2003年から2008年までの急騰ですが、どちらの市場も同じような流れで上昇しています。しかし、この二つの市場の動きを細かく見てみると微妙に値動きの変動率が異なります。NY金は320ドル(2003年)から1,030ドル(2007年)に上昇し、3.2倍になったのに比べて、東京金は1,220円(2003年)から3,360円(2007年)に上昇し、2.7倍になっています。

 同じ影響を受けて急騰したはずの二つの金市場の上昇率に差異が生じるのは、この間に「ドル/円相場」があるからです。2003年から2007年にかけてドル/円が円高方向に推移したため、NY金に比べて東京金は上昇率が控えめでした。ドル/円が、ドル安/円高方向に推移した場合、ドルの金が割安に円の金が割高に映り、ドルの金は買われやすく、円の金が売られやすくなります。逆(ドル高/円安)もしかりです。

 日本の投資家の多くはドルの金を指標として、円の金を購入します。多くの金を消費する中国・インド、両国に資金を投じている先進国の情勢などを反映するドルの金の値動きを指標とすること、加えて、ド/ル円相場を考慮することが、金へ投資をするべきタイミングを計る重要なポイントだと筆者は考えています。

 

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