先週の振り返り
ドル/円はこの1カ月弱、110円台、111円台で推移し、終値は3月19日まで14日連続の111円台となっています。
今年のドル/円は、1月早々に間隙をつかれて104円台に急落しましたが、その後108円台、109円台と戻し、2月には110円台、そして2月後半から3月にかけて111円台と緩やかに上昇してきました。
このドル上昇を支えた背景に、2つの「忍耐強さ」があるとみれば、今後の相場シナリオが想定しやすくなるかもしれません。
円安を支える2つの忍耐とは
1つは、今年1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)がこれまで「追加利上げは適切」と判断してきた文言を削除し、次の政策の一手について「忍耐強くなる」という文言を挿入したことです。
つまり、FRBはこれまで緩やかに利上げしてきましたが、環境の変化によって政策の次の一手が何になるか忍耐強く様子を見て判断するという姿勢に変わりました。金利変更は急がないということです。
2018年12月のFOMCでは、資産縮小について「正常化を変更するつもりはない」と一蹴したことから、株式市場はタカ派姿勢が変わらないことを嫌気し、株は急落しました。
ところが、年が明けるとハト派姿勢に急変し、1月のFOMCではハト派姿勢への転換を明言したことから株は持ち直しました。ドル/円は米長期金利が低下したにもかかわらず、株高が円安を後押ししました。
もう1つの忍耐強さは、中国が米中通商交渉について忍耐強く見守る持久戦に方針転換したことです。
2018年夏場から米中貿易摩擦が激化し、強気のトランプ米大統領に対して、中国も強硬姿勢を取り続け、関税報復合戦の様相となっています。
昨年2018年10月、ペンス米副大統領は、演説で中国を痛烈に批判。ここから、中国の方針が変わりました。昨秋以降、中国経済が急激に減速し、国内の習近平政権批判もくすぶり始めていたことから、「党の指導」を守るため、貿易面の犠牲を覚悟の上で、米国に持久戦を挑む決意を固めたようです。
「持久戦」とは、毛沢東主席が日本に対して用いた、次のような戦術です。
〔第1段階〕力の差が大きい間は短期決戦を避け防御に徹する
〔第2段階〕状況の変化を待ち、力を蓄えつつ対峙する
〔第3段階〕情勢が有利になったら、反転攻勢し敵を撃破する
100年単位で物事を考える中国にとっては、トランプ大統領が再選しても後6年、ここで焦る必要がないという判断が働いたようです。
3月に開催された中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)でも、米政府や議会を刺激する「中国製造2025」に言及せず、貿易摩擦の解消に注力する姿勢を強調しました。
米中通商協議の合意は先延ばしとなり、また、米中首脳会談も4月、あるいは6月に延期となっていますが、この中国の融和姿勢への転換からマーケットの見方は悲観的とはなっていません。中国も一定の譲歩を示し、米中は何らかの合意に達するだろうとの見方が大勢となっているようです。その期待が、やはり株を押し上げる要因となりました。
以上のように2~3月の円安は、FRBの次の利上げまでは忍耐強く見守るというハト派姿勢への転換と、中国の対決姿勢の後退によって米中通商協議は何らかの合意がなされるであろうとの期待から、株は上昇したことが背景にあります。
従って今後のドル/円を予想するためには、この2つの忍耐強さが今後も続くかどうか、あるいは忍耐強さの与える効果が、引き続きマーケットに株高、円安効果をもたらすかどうか、ポイントになりそうです。
米経済指標に弱さ、GDPは減速予想
FRBが1月に政策変更をした背景として、公表された議事録では「見通しにおけるさまざまなリスクや不透明感」があると言及されています。
具体的には「最近の物価動向の停滞」や「貿易戦争や世界経済減速の影響」が挙げられており、特に欧州と中国の先行き不透明感が指摘されています。要するに、先行きの不透明感は海外経済の減速が主因と分析しているわけですが、2月以降の米国経済指標に弱さが目立ってきています。このままでは1~3月期のGDP(国内総生産)がかなり減速するとの見方が広まってきています。
例えば、直近データを用いてリアルタイムにGDPを予測するアトランタ連銀の「GDPナウ」は、3月の時点で1~3月期GDPを年率0.5%成長と予想し、ニューヨーク連銀の「ナウキャスト」は年率1.4%成長を予想しています。両者の予想に開きはありますが、前期の10~12月期GDP2.6%の成長から見ると、かなりの減速予想です。
このように海外経済だけでなく米国経済も減速傾向がはっきりすれば、物価は上がらず、FRBの忍耐強い期間も長期化することが予想されます。その結果、ハト派姿勢が今よりも強くなれば、さすがに株上昇の勢いは弱くなり、長期金利は一段と低下し、ドル安が鮮明になってくることが予想されます。
FRBは、まだしばらくは景気について、慎重ながらも弱気姿勢は示さないと思われますが、夏前には方向性が定まってくるかもしれません。
米中通商協議の合意実現度は低い
中国はどうでしょうか。全人代で今年の中国のGDP目標を2018年の6.5%前後から6.0~6.5%に引き下げました。同時に景気刺激策も打ち出しましたが、今後、中国経済が回復するかどうかが焦点になります。
米中通商協議の合意への期待と景気対策への期待から、中国経済は底打ちしたとの見方が出てきていますが、1月から上昇してきた上海株が、ここへきて頭打ちとなっている動きを見ていると、中国経済の回復はまだまだ時間がかかるのではないかと懸念されます。
中国が対米強硬姿勢を転換し、持久戦に持ち込んだとしても4月、または6月の合意内容が不十分であれば、米中の経済に好影響は与えないでしょう。
3月の中国に対する追加関税が延期されていますが、この追加関税がなくなるぐらいでは、ほとんど影響はないかもしれません。これまでの追加関税の撤廃となれば、大きな好影響が出る可能性はありますが、知的財産権の問題が進展しない中での追加関税撤廃は期待できそうもありません。
米中通商協議合意への期待による株高は、追加関税による経済への悪影響が軽減されるとの期待であるため、不十分な合意は株式市場に失望感をもたらすことが予想されます。
3月のドル/円は動意なし
3月のドル/円は、1月から上昇してきたとはいえ、ほとんど動意がありません。3月という期末要因から投資家もあまり動けないのかもしれませんが、月が替われば、これら2つの忍耐強さの効果も減退することも予想され、ドル/円は動意づいてくるかもしれません。
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