先週の振り返り

 先週3月8日に発表された米国雇用統計で、非農業者部門雇用数増加幅が予想外に小さく、マーケットは動揺しました。事前予想が18万人増加に対して、結果は2万人増加。これはハリケーン被害があった2017年9月(1万8,000人の増加)以来、1年5カ月ぶりの少なさでした。

 雇用統計発表を受けた直後、ドル/円は111.15円近辺から110.75円まで売られましたが、すぐに買い戻されました。理由は、失業率が0.2%低下の、3.8%と半世紀ぶりの水準となったことや、賃金の伸び率が前年比+3.4%と10年前と近い高い水準となったことです。ドル/円は発表前の水準に戻りました。雇用者数増加が低めだったことよりも、失業率の低下と賃金の上昇から労働市場の逼迫(ひっぱく)感が続いているとみなされたようです。

 

米国経済指標の振れ幅の大きさが意味すること

 非農業者部門雇用者数の増加幅が今回(2万人)より小さかったのは、2010年10月から続く雇用拡大の流れの中で2回ありました。しかし、2回とも翌月には雇用の勢いが戻っています。今回も悪天候や政府機関閉鎖が影響した一時的なものとの安心感もあったようです。
それにしても、最近の米国経済指標は振れが大きい発表が続いています。

 例えば、2月に発表された2018年12月の米国の小売売上高は前月比▲1.2%と、米経済が景気後退から抜け出し始めた2009年9月以来9年ぶりの大幅なマイナスとなりました。事前予想は+0.2%でした。

 そして今週11日に発表された1月の米国小売売上高は横ばい予想を上回る+0.2%となったことから、一瞬ドルは買われました。しかし、前月の▲1.2%が下方修正され、▲1.6%とマイナス幅が広がったため、すかさず利食いの売りが出ました。

 この前月のマイナスは政府機関の閉鎖の影響があったと言われていましたが、今月は予想を上回ったものの伸びは鈍く、しかも前月分のマイナスが拡大したとなると、2018年末に米国でも経済が急減速したのではないかと思わせてしまう内容です。

 雇用統計も過去2回は、翌月に回復したからといって安心するわけにはいきません。この低調な数字が悪天候や政府機関閉鎖の影響だけで起こっているのかどうかの判断がつきにくい状況となっているからです。

FOMCが経済指標をどう判断するか?

 次回のFOMC(米連邦公開市場委員会)は3月19~20日に開催されます。FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、既に利上げの停止や資産縮小の年内停止について発言していますが、これがFOMCの声明文や金利見通しで明確に示されるかどうかが注目されます。

 前回のFOMCメンバーの金利見通しでは、2019年では2回の利上げが中央値となっていますが、パウエル議長が利上げ停止に触れている中で、どのような見通しが出るか注目です。なぜなら、中央値で今年の利上げがゼロではなく、1回の利上げになれば、マーケットの期待とのギャップが生じ、株式市場を揺さぶる可能性があるからです。

 パウエル議長は先日、12月の金利見通しの公表が株式市場に影響を与えたことを憂慮し、FOMCメンバーによるこの見通し方法を見直すことを示唆しています。どのような方法になるのか分かりませんが、利上げ停止をどのようにマーケットに伝えるかに注視する必要があります。

 現在の株高は、利上げの停止と資産縮小の年内停止への期待から起こっているため、うまくマーケットとコミュニケーションが取れなければ、株式市場のしっぺ返しを食らうかもしれません。

 そして、景気についての判断も注目点となります。

 パウエル議長は2月の議会証言で、米国は良好としつつも、中国や欧州の経済減速や英国のEU(欧州連合)離脱問題などの相反するシグナルが出ているとしていますが、今回の声明文で、小売売上高や雇用統計の状況を踏まえても米国は良好との認識を変えないのかどうかが注目されます。

 もし、強気の姿勢が変わらないのであれば、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が大幅に引き下げた経済見通しとは対照的になり、ユーロ売り・ドル買いの材料になるかもしれません。

「3月は円高」が今年はどうなる?

「3月は円高」に動くとの見方がありますが、この見方は、2月の米国債の利金や償還の円転(円買いのこと)、3月期末に向けた海外からの配当や海外資産の処理(円転:レパトリエーション)によって円高に振れやすいという考え方です。

 実際にどうなのか、この3年の2月、3月のドル/円の動きを見ると(1月末と3月末のドル/円を比較)、2016年、2017年、2018年とも円高に動いています。

 しかし、今年は1月末の108円台後半から、現時点では111円台前半ですので円安に動いています。来週のFOMCでかなりハト派色が強まればドル売り要因となり、円高に動く可能性がありますが、パウエル議長のこれまでの発言と変わらない内容であれば、今年の2月、3月は円安で終わるかもしれません。

 ただ、興味深いのは、この3年の3月だけの値動きを見るとと(2月末と3月末の比較)、2017年の約1円40銭の円高を除けば、15銭から40銭ほどの値動きしかありません。今年は、現時点では2月末とほとんど同じ水準です。

 今週はEU離脱問題の思惑でポンド/円が2円、3円と乱高下していますが、ドル/円にはほとんど影響が出ていません。今年は、あまり値動きのない、ここ数年の3月よりもさらに値動きのない月になることもシナリオとして想定しておいた方がよいかもしれません。