引き続き、「株価下落リスクを負わないで株主優待を獲得する方法」を解説します。

 

優待は欲しいが、株価下落リスクを負いたくない場合、「つなぎ売り」を使えばよい

 

「つなぎ売り」は、信用取引の一種です。以下の方法で、優待取りに使うことができます。

 

つなぎ売りを使った「優待取り」のやり方、イメージ図

 

 3月末に100株保有すると、魅力的な株主優待が得られる銘柄を「A社」として、解説します。以下の2ステップで、優待取りが完結します。

 

【ステップ1】

 A社100株の「買い」と、A社100株の信用取引の「売り」を、両方とも行います。買ってから売っても、売ってから買っても、どちらでも問題ありません。同じ価格で行うのが理想です。

 3月末基準の優待を得るためには、3月26日(権利つき最終売買日)までに、ステップ1を行う必要があります。3月26日までに、ステップ1を行い、3月27日(権利落ち日)までポジションを持つと、3月末基準の優待を得る権利が確定します。

 

【ステップ2】

 優待の権利を得たら、速やかに(原則3月27日に)、現渡(げんわたし)で決済してください。現渡とは、保有するA社株100株を、信用で売建(うりたて)しているA社株100株の返済に充てることです。これで「優待取り」は完結です。

 28日に現渡することも返済期限内なので可能ですが、貸株料を払う期間が長くなるので、忘れずに27日に現渡しましょう。

優待取り「つなぎ売り」にかかるコスト

 それでは、つなぎ売りで優待を取るのにかかるコストを、優待が魅力の小売業「A社」を例にとって説明します。「A社」は架空の会社ですが、実在する会社ときわめて近い内容としています。

 コストや税金の仕組みはとても複雑で、すべて理解していただくのは困難です。大まかなイメージだけ、つかんでいただけると幸いです。

 

つなぎ売りを使った優待取りのメリットと、かかるコストの比較

 

◆前提条件

・3月15日(金)にA社100株を1,030円で買い(約定金額10万3,000円)。

・同じ日に、A社100株を1,030円で信用売り(約定金額10万3,000円)。

・優待を得る権利が確定する3月27日(水)に、現渡(げんわたし)で決済。

・100株保有で、3月末基準で2,000円相当のお食事優待カードを得る権利が確定。

・3月末基準の配当金は1株当たり2円、100株では200円(税引前)。

・貸株料は、一般信用・短期の料率で計算(制度信用では異なる数値となる)。

・信用売りを現渡で清算する際、配当落ち相当額(200円)の支払いが必要。

 

 上記の例では、必ずかかるコストは401円です。それでお食事優待カード2,000円分が得られるならば、十分にメリットがあります。

 ただし、これ以外にもコストがかかる場合があります。制度信用を使う場合に大きなコストとなる可能性があるのは「逆日歩(ぎゃくひぶ)」です。人気の優待銘柄では、時おり優待メリットを上回る逆日歩を請求されることもあるため、注意を要します。事前には金額がわからず、事後的に決まった金額を請求されます。

 楽天証券が、「優待取りのつなぎ売り」のために用意している「一般信用・短期」を使えば、逆日歩は発生しません。制度信用ではなく一般信用でつなぎ売りした方が、リスクが小さいと言えます。

 もう1つかかるコストは、配当金相当額(支払)と、配当金(受取)の差額です。つなぎ売りしたまま、配当金を得る権利が確定すると、信用売りしている100株に対して、配当金相当額を、支払う必要が生じます。一方、買って保有している100株では、配当金を得る権利が確定します。実際に受け取る配当金は、源泉税(20.315%)分だけ少なくなります。この20.315%はコストとなる可能性があります。ここで例にあげたA社の場合は、配当金は1株当たり2円、100株保有で200円ですので、その源泉税分(40円)が追加コストになる可能性があります。

 損益通算を使えるように手続きしていれば、このコスト(支払う配当金相当額と受け取る税引き後配当金の差額40円)は後から還付される可能性がありますが、そうでない場合は、そのままコストとなります(詳しい説明は、割愛)。

制度信用より一般信用を使った方がリスクが小さい

 優待取りをするための「つなぎ売り」では、「制度信用」または「一般信用」のどちらか選択できます。「制度信用」は取引所が提供する信用取引で、「一般信用」は楽天証券が提供する信用取引です。

 どちらを選ぶかで、かかるコストが異なります。優待を得るメリットよりも、優待取りにかかるコストが大きくならないように、注意する必要があります。

 結論から言うと、「制度信用」を使うよりも、「一般信用・短期」を使った方が、リスクが小さいと言えます。

 

◆制度信用

 取引所が提供する信用取引。取引所が選んだ銘柄で信用売買が可能。欠点は、売建している時に、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」というコストが発生する可能性があることです。逆日歩が発生するか否か、発生する場合いくらか、事前にわかりません。

 逆日歩が発生すると、事後的に支払いを請求されます。運が悪いと、優待で得られるメリットを上回る、逆日歩の支払いが必要になります。

 

◆一般信用・短期

 株主優待獲得の「つなぎ売り」に活用できるように設計されている、返済期限14日の一般信用取引です。楽天証券が選んだ銘柄で、信用売りが可能です。逆日歩が発生しないのが、メリットです。売買手数料・貸株料などのコストがかかりますが、事前におおまかな金額がわかるので、優待取りをやるメリットとコストを事前に比較できます。

 制度信用のように、後から想定外のコスト(逆日歩)が発生することはありません。

一般信用・短期「つなぎ売り」を早くやるメリットとデメリット

 まず、2019年3月末基準の優待を取るために必要な「つなぎ売り」のスケジュールを、押さえておきましょう。楽天証券で一般信用・短期「つなぎ売り」を行う場合、以下のスケジュールとなります。

一般信用・短期「つなぎ売り」スケジュール:2019年3月末基準の優待取り

 優待取り【ステップ1】​は、「株式現物の買い、信用取引の売りを、同じ株数ずつ、なるべく同じ価格で行う」ことです。【ステップ1】​は、3月15日(金)から行うことができるようになります。そのための一般信用・短期の売り注文は、3月14日(木)の19時(午後7時)から、出すことができます。

 【ステップ1】​は、初日(3月15日)にやらなくても、18日(月)・19日(火)・20日(水)・22日(金)・25日(月)に行うこともできます。26日(火)が、最終日です。26日までに【ステップ1】​をやらないと、3月末基準の優待は得られません。

 早くやるのと遅くやるのは、どちらが良いでしょうか?メリットと、デメリットは以下の通りです。

◆早く(初日・3月15日)【ステップ1】をやるメリット

一般信用・短期で、売建が可能な株数には、限りがあります。楽天証券が用意した株数がすべて利用され、無くなってしまうと、つなぎ売りの注文が出せなくなります。人気の優待銘柄では、早めに売建の予約をした方が、つなぎ売りが実行できる可能性が高まります。14日の19時から、売建の予約が可能になります。

◆早く【ステップ1】をやるデメリット

売建してから、現渡で返済するまで、日数に応じて、貸株料の支払いが必要です。長く借りるほど、貸株料は高くなります。3月15日につなぎ売りして、3月27日に現渡する場合は、13日分(受渡ベースで3月20日から4月1日まで)の貸株料支払いが必要です。売建可能な最終日(3月26日)につなぎ売りして、3月27日に現渡する場合は、貸株料は4日分(受渡ベースで3月29日から4月1日まで)で済みます。

 貸株料は、年率で3.9%ですが、1日あたりでは、約0.01%です。先に例に挙げたA社で、約定金額10万3,000円のつなぎ売りをする場合、1日あたり約11円です。13日分ならば143円、4日分ならば44円の貸株料支払いが必要になります。

 結論としては、人気の優待銘柄は、貸株料(1日当たり約0.01%)を払う期間が長くなっても、早めにつなぎ売りをした方が良いと言えます。遅くなると、売建可能な株が無くなることが、あるからです。人気のない優待銘柄では、急いでつなぎ売りする必要はありません。ただし、利用可能な株が少ない場合は、早めにつなぎ売りした方がいいかもしれません。

一般信用・短期で売建可能な銘柄と、利用可能な株数を見る方法

 楽天証券HP、ログイン後の画面から、「国内株式」→「信用取引情報」→「一般信用売建銘柄」とクリックし、弁済期限「14日」を指定すると、3月末基準の優待取りで「一般信用・短期」の売建ができる銘柄がわかります。ただし、売建可能な株数は、3月14日(木)の19時までは「0株」となっています。14日(木)18時30分前後に、そこに、銘柄別の売建可能株数が、入ります。売建注文は、14日19時から入力可能になります。

 その後、売建注文を予約するお客様が増えると、売建可能株数は、減っていきます(途中で売建可能株数が追加されて、増えることもあります)。

楽天証券HPで利用可能な株数を見る方法

 

 上記は、2019年3月14日19時以降に、一般信用・短期つなぎ売りの注文が可能になる銘柄を示しています。522銘柄が、一般信用・短期で、つなぎ売りが可能になる見込みです。

 

つなぎ売りを行うにあたってのご注意

 

 

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