2月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 1月の新興株は最初から最後まで“バイオ"でしたが、2月も同じでした。ひさびさ“バイオ祭り"なんて言葉も出ていましたが、きっかけはマザーズのアンジェス(4563)。アンジェスのHGF遺伝子治療薬が、足の血管を再生する薬として日本で初めて承認されました。

 アンジェスといえば、マザーズの老舗銘柄。上場は17年前の2002年で、現在マザーズに上場する銘柄の中でも4番目の古株です。このHGF遺伝子治療薬もフェーズⅠを始めたのが2001年ですので、苦節18年。この明るいニュースに市場は湧きました。月初の“サンバイオショック"による後遺症を全く感じさせないバイオ株フィーバーに発展。オンコリス(4588)そーせい(4565)ラクオリア(4579)などがアンジェスに引っ張られました。

 2月の東証マザーズ指数は月間騰落率+2.3%で、サンバイオショックを乗り越えて2カ月連続で上昇。日経ジャスダック平均も同+2.7%で続伸。世界的な株式のボラティリティ低下&株式ウエイト引き上げの流れで、日経平均株価も同+2.9%でした。

 相場の中心軸は「米中通商合意の進展(=米中摩擦懸念の後退)」で、これを受けて中国株が大幅上昇(2月の上海総合指数は+13.8%、創業板指数は+25.1%!!)。昨年来で上海総合指数と最も相関が高かったのが(なぜか)東証マザーズ指数。中国株高との相性が良かったとも言えるかもしれません。

2月の売買代金ランキング(人気株)

 2月も最初(サンバイオショック)から最後(アンジェス1,000円超え!)までバイオ・・・そのシンボルストックが売買代金ランキングのワンツーでした。アンジェスとサンバイオの売買代金25日移動平均値を合算すると348億円。この2銘柄で、マザーズ全体の約29%を占めていました。流動性が跳ね上がった銘柄に、アルゴリズム売買も相乗り。流動性の格差が生まれやすい東京株式市場の特性をよく示しているように思えます。

 そのほか、Kudan(4425)ベルトラ(7048)リンク(4428)がランクイン。この3銘柄は、昨年12月に東証マザーズに上場した直近IPO銘柄です。超大型IPO(ソフトバンク)とIPOの日程がぶつかり、新興株市場の地合いも最悪の中で上場した銘柄群。2月もIPOが少なかったこともあり、不遇の直近IPO銘柄を物色する動きも続きました。

市場 コード 銘柄名 2月末
終値
時価総額
:億円
売買代金
25日
移動平均
値:億円
月間
騰落率
:%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 2,721 1,353 233.9 -62.3
東証マザーズ 4563 アンジェス 980 960 114.1 107.6
東証マザーズ 3990 UUUM 5,880 1,104 88.3 1.0
東証マザーズ 4588 オンコリス 2,208 295 60.6 99.1
ジャスダック 4579 ラクオリア 1,941 396 54.5 74.6
東証マザーズ 4385 メルカリ 3,120 4,552 38.1 35.6
東証マザーズ 4425 Kudan 24,150 1,668 27.9 13.9
東証マザーズ 4565 そーせい 1,243 948 27.1 22.7
東証マザーズ 7779 サイバダイン 656 901 25.2 -5.3
東証マザーズ 3906 ALBERT 10,850 354 24.9 11.3
東証マザーズ 7048 ベルトラ 1,326 379 24.5 46.5
ジャスダック 4582 シンバイオ 210 173 24.5 18.6
ジャスダック 6324 ハーモニック 3,640 3,506 24.2 -4.0
東証マザーズ 7172 JIA 3,205 969 21.3 -19.3
ジャスダック 2146 UT GROUP 2,536 1,024 19.9 19.6
ジャスダック 3776 ブロバンタワ 331 173 19.0 -2.9
東証マザーズ 4428 リンク 12,270 146 16.5 24.3
ジャスダック 7564 ワークマン 8,520 3,487 14.6 7.8
東証マザーズ 3182 オイラ大地 1,887 634 14.5 13.6
東証マザーズ 2121 ミクシィ 2,704 2,115 13.5 -1.8

2月の売買代金ランキング(5銘柄)

1 サンバイオ(4592・東証マザーズ)

 1月29日に、突然発表された「SB623」の慢性期脳梗塞を対象とした米国フェーズ2b試験失敗。ここから4日連続でストップ安売り気配となり、ようやく全株一致したのが2月5日でした。1月29日終値11,710円に対し、2月5日の始値2,440円まで79%の大暴落。その後は値ごろ感から自律反発も起きましたが、月間では▲62%でした。

 慢性期脳梗塞を対象としたSB623の開発を続けるのか?これが会社側から示されていない段階では、判断しづらいのが現状です。同社をカバーしていた証券会社のアナリストも、開発遅延のみを織り込み目標株価を相次いで引き下げました。2月末時点では、アナリストの目標株価のレンジは3,200円~8,800円。アナリストの評価もまだバラバラ。

 

2 アンジェス(4563・東証マザーズ)

 20日、厚生労働省の部会でHGF遺伝子治療薬の製造販売を「条件付きで認める」との意見がまとまりました。このニュースはもちろん、日本の経済紙では1面トップに!製品化した場合の名称が「コラテジェン」です。

 重症の動脈硬化で足の血管がつまると、現状で主流の外科的治療では、最悪のケースで足を切断せざるを得ないといいます。これに対し、膝下に「コラテジェン」を注射で約2回投与し、新たな血管を作るというのは革新的な治療法です。まだ薬価は決まっていませんが、今夏にも最初の投与が始まるもよう。業績にどの程度寄与するのかわかりませんが、大きな期待が込められています。株価も13年8月以来となる大台1,000円超えを果たしました。

 

3 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 2カ月連続の大幅上昇で、昨年11月15日以来となる株価3,000円超えに成功。ちなみに3,000円は、昨年6月のIPO時の公開価格です。

 7日に発表した中間決算では、営業損益は36億円の赤字でした。この期間の日本における流通総額は、前年同期から710億円増加で2,280億円。流通総額の拡大で売上高は伸びる一方、先行投資による赤字は続きます。

 ただ、株式市場が買い材料視したのは決算ではなく、13日に発表したスマホ決済サービス「メルペイ」の提供開始でした。メルカリのアプリ内で得た売上金が、実際の店舗でも使えるようになります。地銀などとのメルペイ連携は広がりを示すようで、LINE株のようにキャッシュレスのテーマ性が注目されています(メルペイへの先行投資で第3四半期も赤字は拡大しそうですが・・・)。

 

4 サイバーダイン(7779・東証マザーズ)

 2月は月間では下落でしたが、月後半に好材料も。18日、厚生労働省がiPS細胞を使って脊髄損傷を治療する慶応大学の臨床研究を了承。iPS細胞を使った脊髄損傷の臨床研究は世界初だそうです。

 同社と慶応大は、「脊髄再生医療とHAL(ロボットスーツ)の複合療法」で共同研究を続けてきた関係があります。このニュースに対し、大手証券のアナリストも「HALとiPS細胞移植の複合療法の検討へ向けた道が一歩進んだ」とポジティブな見方を示しています。

 

5 ALBERT(3906・東証マザーズ)

 昨年の大人気銘柄ですが、今年はマザーズ全体が復調するなかでも上値が重い銘柄です。価格帯別出来高を見ると、18年1月以降で出来高が突出するのが株価「10,000円~11,000円」のゾーン。戻り売り圧力が強いということでしょう。

 なお、15日に発表した前18年12月期決算は、売上高が87%増の16.3億円、営業損益は2.0億円の黒字(前期は1.6億円の赤字)でした。今19年12月期見通しも、売上高は前期比47%増の24億円、営業利益は同79%増の3.6億円と大幅増収増益。ビッグデータ分析の受注好調を背景に、業績拡大を期待できるマザーズ銘柄ではあると思います(業績面の裏付けがない状態で、時価総額で同社の約5倍になっている類似銘柄もあるだけに)。

2月の株価値上がり率ランキング

 月間で2倍になった銘柄が3銘柄出ました(昨年12月、今年1月は1銘柄だけ)。また、トップ20の全銘柄が50%以上の値上がり率を記録。個別株物色が活発だったことを物語っていますね。

 2月といえば、日経平均株価がジワジワ上がる堅調地合い。一方で、東京時間の間のこう着感が異様に強く、薄商いが常態化していました。日経平均レバレッジETFなどの売買も「面白くない」・・・そうした雰囲気が充満することが、値動きのいい個別株探しに発展した背景のように思います。

 値上がり率のトップ20銘柄は、マザーズとジャスダックで半々。とはいえ、(超強材料があったアンジェス除くと)小型株ばかり。時価総額100億円未満の銘柄が9銘柄ランクインしています。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
:%
2月末
終値
前月末
終値
時価
総額
:億円
ジャスダック 7612 NUTS 141.8% 162 67 121
ジャスダック 6777 santec 113.7% 1,960 917 234
東証マザーズ 4563 アンジェス 107.6% 980 472 960
東証マザーズ 4588 オンコリス 99.1% 2,208 1,109 295
東証マザーズ 3622 ネットイヤー 98.5% 812 409 57
東証マザーズ 6067 メディアF 94.8% 2,577 1,323 129
東証マザーズ 6096 レアジョブ 91.8% 1,895 988 45
ジャスダック 6930 日アンテナ 84.0% 1,325 720 189
東証マザーズ 3135 マーケットエンタ 82.4% 1,253 687 64
ジャスダック 4579 ラクオリア 74.6% 1,941 1,112 396
ジャスダック 3816 大和コン 71.2% 1,780 1,040 53
東証マザーズ 6554 エスユーエス 60.2% 1,163 726 101
東証マザーズ 3498 霞ヶ関キャ 59.5% 4,465 2,800 61
東証マザーズ 4596 窪田製薬 58.9% 391 246 158
東証マザーズ 3671 ソフトマックス 58.8% 1,882 1,185 37
ジャスダック 2162 nms HD 57.1% 509 324 110
ジャスダック 4838 Sシャワー 57.0% 738 470 84
ジャスダック 9827 リリカラ 56.2% 239 153 30
ジャスダック 4970 東洋合成 54.0% 1,463 950 119
ジャスダック 2436 共同PR 53.4% 1,649 1,075 67

2月の値上がり率ランキング(5銘柄)

1 Nuts(7612・ジャスダック)

 3年に1度、株価が爆騰する低位小型株? 2013年に株価が年間6.3倍、その3年後の2016年に4.1倍、そしてその3年後の今年・・・2月末時点で昨年末比3.1倍になっています。低位の小型株で、過去に大相場を演じた記憶が残っているからでしょうか、2月は出来高を膨らませて盛り上がりました。

 きっかけは、これまで「未定」としていた今期業績見通しを8日に発表したこと。前期10億円の赤字だった最終損益見通しが「0.12億円の黒字」でした。“黒転は買い!"で短期資金が殺到(0.12億円ですが)。

 

2 santec(6777・ジャスダック)

 これといった新しい物色テーマが少ないなか、今年脚光を浴びている数少ないテーマが「5G」ですね。5G関連銘柄の中核は東証1部のアンリツですが、動きの良い中小型からは同社や日本アンテナ(値上がり率8位)が関連銘柄として人気化しています。

 同社の決算説明会資料にも、「5Gへの対応等を考慮すると、波長可変光源への潜在的需要は大きい」と記されています。同社は波長可変光源という通信部品のメーカーで、通信キャリアの部品小型化などのニーズに対応しています。

 

3 ネットイヤー(3622・東証マザーズ)

 5日に今期予想の下方修正を発表(最終損益の予想を0.56億円黒字→1.68億円赤字)。これは明らかに売り材料ですが、翌日から4日連続ストップ高に。下方修正とセットで発表されたTOBがサプライズでした。NTTデータがTOBを発表し、TOB価格は1株850円(5日終値416円の2倍以上!)。TOB成立後はNTTデータの連結子会社になりますが、上場は維持されます。

 

4 レアジョブ(6096・東証マザーズ)

 まずは、14日発表の今期予想の上方修正がポジティブサプライズ。従来予想では営業利益が62%減0.5億円だったところから、15%増の1.5億円へ一転増益予想に。フィリピン人と会話できるオンライン英会話教室が主力ですが、個人の会員数が想定を上回って伸びているようです。

 そして第2弾の材料が、19日に発表した「Z会」の増進会ホールディングスとの合弁契約。両社の強みを融合し、学校向け外国語指導助手の派遣サービス事業や、子ども向け英語学習プロダクトの共同開発を進めるようです。AI翻訳が進歩していますが、やはり英語は必要と考えている日本人は多いのでしょう。

 

5 リリカラ(9827・ジャスダック)

 値上がり率トップ20銘柄内でも、時価総額は最小の30億円。たまに上がる低位株ですが、2月の買い材料は12日の決算発表でした。今19年12月期の期初計画を、営業利益で前期比3.8倍の7億円と発表。業績回復を理由に、配当も6円出すと。

 12日終値157円に対して、配当6円なら利回りは3.8%。かなりの好利回りですが、それ以上にサプライズだったのは、11年12月期以降はな配が続いていたため。9期ぶりの復配の驚きもあって、発表翌日はストップ高に。

 

3月に注目したい新興株の動き

 東証マザーズ指数は、再び1,000ポイントに接近しています。1月は979ポイントで跳ね返されていますので、心理的な節目(「指数がこの辺に来たから、そろそろマザーズ株売ろう」といような意味)として「マザーズ指数1,000ポイントは壁になるのか?」は少し気になるところです。とはいえ、(何度も書いていますが)マザーズ指数をテクニカル分析するというのは全く意味がないこと。

 サンバイオショックを経て、指数の中身は大きく変化しました(こういうことが頻繁に起きる指数)。治験失敗を発表する直前のサンバイオの指数ウエイトは13.7%、これが2月末時点では3.2%まで低下しました。2月末時点では、メルカリ(指数ウエイト8.2%)、ミクシィ(同5.4%)、アンジェス(同4.9%)が“三羽烏"。この3銘柄で指数ウエイトが2割に及ぶ指数に変化しています。

 3月は日銀会合やFOMC(米連邦公開市場委員会)など重要そうなイベントはありますが、何より米中の貿易協議でしょう。ひとまず、報道されているように27日辺りでトランプ/習近平会談が開かれるようであれば、日経平均株価も一段高する可能性が高いように思われます。この展開を想定する必要があるため、相場感的には「そろそろ日経平均も下がりそう」であっても、積極的に売りポジションが作れない・・・結果的に薄商いで、意外に下げない展開が続いているのだと思われます。日経平均株価が底堅い展開を保つなら、新興株市場も大きく崩れることはなさそうです。

 その他の要素も考えておきましょう。3月といえば、IPO(株式の新規公開)が増えます。今年はマザーズ11銘柄、ジャスダック2銘柄が上場予定。ただし、昨年12月のソフトバンクIPOのような需給を乱す大型案件はなく、IPO用の資金準備のための換金売りは考えなくても良さそうです。また、3月は国内企業の決算期末。持ち合い解消売りが出る時期とも言われますが、マザーズ銘柄の場合は大半が持ち合い解消売りとは無縁。東証1部、2部、ジャスダックの小型株よりは需給環境も良いのでは。

 では、何が注目か?ひとつ挙げるとすれば「3月25日のサンバイオの2019年1月期決算説明会」です。「SB623」の慢性期脳梗塞を対象とした米国フェーズ2b試験で、なぜ主要評価項目未達に終わったのか?試験を続ける可能性があるのか?・・・現時点では開示されていないものの、投資家がサンバイオに聞きたい疑問に何らかの答えが出るのかどうかに注目されます。開発継続なら強い買い材料、開発中止なら強い売り材料。他のバイオ株への波及効果も大きいといえるため、ぜひ覚えておいてください。