先週の振り返り
2月後半のドル/円は、110.50~111.00円の狭いレンジでの小動きが続いていましたが、一連の政治イベントが終わると、これまでの111円の壁をブレイクし、2月の月末には111円半ばに上昇、翌3月1日には2018年12月以来の112円台を付けました。
このドル高・円安の背景を下記にまとめました。
(1)2月27日、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は議会証言で保有資産の縮小を年内に停止する計画を「かなり近いうちに公表する」と発言。この発言を受けて、パウエル議長のハト派への転換姿勢にブレがないことを好感した株式市場は上昇。株の上昇を受けてドル/円は円安に
(2)2月28日に発表された米国GDP(国内総生産)10~12月期は、前期(+3.4%)より減速したものの、予想を上回る+2.6%と発表されたことから、米国景気の底堅さが確認され、株は上昇
(3)米中貿易協議は交渉期限延長となったものの、先行きの楽観的期待によって株もドル/円も上昇。27日頃に予定されている米中首脳会談で合意されるだろうとの観測記事をウォール・ストリート・ジャーナル紙も掲載
(4)米中貿易協議の決着期待と、3月5日からの中国全国人民代表大会(全人代)で景気刺激策が打ち出されるとの期待から上海株が上昇。8カ月ぶりの高値を付け、上海総合指数は3,000の大台を回復しました。上海株の上昇は世界の株式市場に好材料を与え、ドル/円は円安方向に
さて、上記の背景から112円台に押し上げた円安ドル高は、株高が大きな理由ということが分かります。そして、今後も円安が持続するためには、これらの背景がこの先も円安要因として働くかどうかが、ポイントとなります。
注目の経済指標は減速予測
米国GDPは予想を上回ったものの前期より減速しているため、これから発表される経済指標で減速、もしくは悪化を示す指標が続くのであれば、株式市場にとっては力不足の材料となります。
今年に入ってからの経済指標は強弱まちまちの数字となっているため、1~3月期米国GDPの予想はエコノミストの平均で+1.8%と前期より減速予想。さらに、最新のデータをすぐに反映するアトランタ連銀は+0.3%と一段と弱めの予想となっています。
いずれにしろ減速傾向の予想となっており、これを見込んでパウエルFRB議長は利上げ停止と資産縮小の年内停止を公表しました。ところが、引き締めから中立への転換は、冷静に見れば、ドルにとってはドル買い材料がなくなるという意味でドル売り材料となります。
上海株を押し上げてきた中国の景気対策は予想を上回る規模になりましたが、今年の中国のGDP目標は2018年の6.5%前後から、6.0~6.5%に引き下げました。景気に対して厳しい見方をしているため、景気対策もマーケット予想よりも大きくなったと理解できます。
IMF(国際通貨基金)や世界銀行の2019年のGDP見通しは6.2%となっています。目標の下方になりますが、中国国内のエコノミストの中にはそれよりもかなり厳しい見方をしている人もいるようです。
以上の考え方は円安要因が続くかどうかという観点でお話ししましたが、円安要因からの観点ではなく、円高要因の観点からも考えておく必要があります。
米朝首脳会議の失敗で、日米貿易交渉がターゲットになる?
米中貿易協議が一段落したことで、米政府は次の貿易交渉に動き始めています。今週6日から欧州との貿易協議を始めるようです。
日本については、USTR(米通商代表部)のライトハイザー代表が、2月27日の米議会の公聴会で、対日交渉は「緊急性が高い」と説明。3月にも訪日して初会合を開きたいとの考えを表明しました。そして、「日本を含むアジア各国には為替の問題がある」と、通貨安誘導の制限など為替を議題とすることにも意欲を見せています。これに対して日本は、3月中の開催は難しいと伝えたとのことであり、4月以降に日米交渉を始めたいとの意向のようですが、相手の希望の時期よりもずれてくればくるほど、口先での強硬発言が高まってくることも予想されるため警戒しておく必要がありそうです。
為替についてはトランプ大統領も、最近再び言及しています。
3月2日の演説で、「中央銀行の金融引き締め策がドル高を招き、米経済に悪影響を及ぼしている」としてFRBを再び批判。ドルの水準については「外国との事業取引を妨げるような強すぎるドルは求めていない」とドル高をけん制しています。パウエルFRB議長についても、名指しを避けつつも「利上げを好み、量的引き締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB内に一人いる」と暗に批判しています。
米朝首脳会談が予定外に不発に終わったことから、これをカバーするかのように、米経済に不利益となる利上げとドル高への批判トーンが、一段と高まってきているように見えます。
今のところは、これらの発言が伝わった後も為替市場への反応はあまりみられていません。このまま単なる批判やけん制だけで終わればいいのですが、日米貿易交渉を見据え、開催時期が近づくにつれ、「ドル高・円安」に矛先が向いてくる可能性は十分に考えられます。
円安要因の持続性と新たな円高材料、どちらの引きが強いか見極めるためにはもう少し時間がかかりそうです。
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