ジム・ロジャーズ氏来日。一連の発言まとめ

“投資の神様”として有名なジム・ロジャーズ氏が、最近来日し、連日、日本のメディアで取り上げられています。ジム・ロジャーズ氏は、1973年、ジョージ・ソロス氏とヘッジファンド「クウォンタム・ファンド」を立ち上げ、驚異的な運用成績で有名になりました。その後、独立し、車とバイクで世界一周を2回したことから「冒険投資家」と呼ばれています。

 世界冒険旅行で各国を回り、その国の人々と接した体感に裏付けられた投資感覚を、統計数字を並べたアナリストの分析ではなく、わかりやすい言葉で説明するため世界中の個人投資家に人気があります。冒険旅行の後は短期的な投資から長期的な投資スタイルに変わり、これからは「アジアの世紀だ。中国の時代だ」と家族でシンガポールに移住しました。シンガポールでは子供に中国人のメイドをつけ、英語と中国語のバイリンガルの教育を与えたことは有名な話です。

 さて、ジム・ロジャーズ氏の今回の来日時の一連の発言をまとめてみますと以下のようなポイントになります。

「リーマンショック以降の世界的な債務の膨張が危機を招く。次の危機はリーマンショックを上回る史上最悪のものとなるだろう」

「危機は静かに始まる。現在既にラトビアやアルゼンチン、トルコで危機が始まっている。」

「危機のきっかけは、中国での想定外の企業や地方自治体などの破綻が火種となるだろう。中国は足元では膨張した債務の削減を進めているが、その影響で景気は減速し、世界経済も停滞に陥る。右肩上がりの米国経済の成長もいつかは終わる」

「3月1日交渉期限の米中貿易協議は短期的な好材料が出てくるだろう。しかし、中長期的には世界の市場は弱くなるはずだ。中国経済の停滞や米中貿易摩擦の緊迫感は、移住先のシンガポールで感じている」

「(FRB(米連邦準備制度理事会)のハト派転換は)短期的にマネーの巡りをよくするだろう。足元で世界の株式相場は金利低下を受けて上昇しているが、いつまでも続くものではない」

「日本株は7、8年保有してきたが、昨秋に全て売った。株も通貨も日本関連の資産は何も持っていない。人口減少という構造的な要因に加え、国の債務は増大し続けている。日銀が株や国債を買い支えているのも売りの理由だ」

「朝鮮半島で投資機会を探している。今後、北朝鮮は魅力的な市場だ。天然資源が豊富で、教育レベルが高く、低賃金な人材も多く確保出来る。いずれ韓国と統合して北朝鮮の門戸は開かれるだろう」

「今後の投資先として、ジンバブエやガーナ株を保有している。ベネズエラも魅力的だ。リスクはあるが、“Buy disaster”(災害は買い)との投資信条に基づく」

 ジム・ロジャーズ氏はこれまで「リーマンショック」や「トランプ大統領当選」などを予言してきました。「北朝鮮開国」については数年前から予言しています。予言というよりもこれまでの経験と体感から会得した先見性によって次の投資機会を探し続けてきた判断なのでしょう。

 日本については10月の消費税増税には批判的です。しかし、日本株については大きく下がれば買い出動する用意があるとのことです。中国株についても基本的には長期保有の姿勢のようです。今回の予言は今すぐ起こるということではありませんが、実績に裏付けられた先見性のあるひとつの見方として留意しておいても損はありません。

 ジム・ロジャーズ氏は、今回は為替についてはあまり触れていませんが、為替についてこういう思い出話があります。ハッサクが10年以上前にジム・ロジャーズ氏の講演会に参加した時のことです。その時は、コモディティが投資対象として魅力的だという講演内容でした。最後の質疑応答でハッサクも質問をしました。

「金価格は最高値に迫る勢いで上昇しているが、金の円価格は為替の影響でいまだに低迷している。ドルで金を買う場合にも必ず為替の問題が生じる。従って円価格で金に投資する場合、このドル円の為替の影響を無視できないと思うが、今後のドル円相場についてどう思うか」と質問したところ、「為替のことはよくわからない」とあっさりと返されたことが印象的でした。為替の変動を無視できる以上のパフォーマンスを常に追求しているのだろうと納得した記憶があります。

今週ドル円に関係する政治的イベント

 さて、今週は27~28日の米朝首脳会談や3月1日の米中通商協議の交渉期限など政治的イベントに加え、パウエル議長の議会証言(26~27日)や米国10-12月期GDP(国内総生産)の速報値(28日)があります。

 米朝首脳会談は非核化の進展は期待できず、朝鮮戦争の終結宣言と平和協定や経済開放の道筋が示されるようなサプライズが出ない限り、新味はなさそうです。

 米中通商協議については、株式市場ではかなり織り込んだ動きとなっています。そのため協議が、トランプ大統領が事前に示唆した内容(交渉期限の1カ月延長や制裁関税引き上げ先送り)通りになっても、株の一段高は期待できそうもないかもしれません。3月予定の米中首脳会談で更に発展した合意が出れば株の一段高が期待でき、ドル円も円安方向に動く可能性があるかもしれませんが、そうでなければ首脳会談後は材料出尽くしからの調整が起こるかもしれません。

 また、1カ月遅れの米国GDP速報値は従来の改定値も含んだ数字となることも予想され、サプライズ指標となる可能性もあり警戒する必要がありそうです。

 ドル円は、これらのサプライズが出なければ動意の乏しい展開が続くかもしれません。一日の値幅が狭まってきており、一日だけでなく週平均の値幅も狭まってきていることから、2014年前半と同じような動意の乏しい動きが長引くこともシナリオとして考えておく必要があるかもしれません。