信用取引は正しく使えば非常に有用なツール。しかし使い方を間違えるととんでもないことにもなり、「まさか!?」ということが起こりえます。
「信用二階建て」とは
皆さんは、「信用二階建て」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは、信用取引の保証金として現金ではなく保有する現物株を差入れ、それを担保に現物株と全く同じ銘柄を買うことを言います。
同じ銘柄を、現物取引と信用取引の両方で買うことになるため、「信用二階建て」と呼ばれています。
実はこの「信用二階建て」取引は非常にリスクが高く、時にはとんでもない結果をもたらすこともあるのです。
「信用二階建て」はこうして実行する
実際に数値を使って説明していきましょう。
Sさんは、300万円の投資資金を持っています。
この資金で株価10,000円のA株を300株購入しました。
そしてこの300株を担保に入れ、さらにA株を信用取引でも購入することにしました。
楽天証券では、通常は現物株の担保(これを「代用有価証券」と呼びます)は時価の8掛けで評価されます。ですからA株は10,000円×300株×80%=240万円の担保価値です。
そして信用取引をする場合は投資金額の30%の保証金が必要となります。保証金が240万円ですから、これを30%で割り戻すと800万円の信用取引が可能です。
これを使って、さらにA株を800株(10,000円×800株=800万円)買うことにしました。
この結果、Sさんは現物株300株、信用取引800株の計1,100株のA社株に投資したことになります。
株価が値下がりしたらどうなる?
「信用二階建て」の取引をなぜ行うかと言えば、その株の株価が大きく上昇した場合、現物株のみで買うよりもはるかに大きな利益を得ることができるからです。
しかし、株式投資に絶対はありません。逆に株価が下落したときはどうなるのでしょうか?
楽天証券の場合、保証金の維持率が20%を割ると、定められた期限内に追加で保証金を入金するなどして、保証金を20%の水準以上になるまで回復させる必要があります。それができないと、証券会社が信用取引の決済を行い、損失を確定させます。
例えばA株が9,000円まで値下がりした場合、現物株の担保価値は9,000円×300株×80%=216万円、信用取引分の含み損は(10,000円-9,000円)×800株=80万円です。
差し引き136万円が担保価値となり、信用取引の建玉800万円×保証金最低維持率20%=160万円を下回っています。そのため、翌々営業日の15時30分までに委託保証金率を20%以上にするために追加入金などの対応をしなければ、証券会社の方で決済され、損失が確定します。
株価がさらに値下がりした場合は?
もし、さらに株価が値下がりして8,000円になったらどうなるでしょうか。この場合、現物株の担保価値は8,000円×300株×80%=192万円、信用取引分の含み損は(10,000円-8,000円)×800株=160万円、差し引き担保価値は32万円です。
信用取引の建玉800万円に対する維持率は、32万円÷800万円=4%しかありません。
楽天証券では、保証金の維持率が10%を下回った場合、即時に証券会社にて決済を実行し、損失を確定させるとしています。
ですからこのケースでは、300万円あった元手が32万円にまで大きく減少してしまうことになるのです。
最悪のパターンは「借金が残る」こと
ただ、上記のケースであれば、多額の損失は生じてしまいますが、「損失」のみで済みます。実は、最悪のパターンはもっと悲惨です。なぜなら、「借金」が残ることになってしまうからです。
例えばA社株が突然経営破たんするなどして、10,000円の株価が大きく値下がりして、全く値がつかないとしましょう。何日も値がつかず、ようやく100円で値がついたらどうなってしまうと思いますか?
まず、信用取引の800株は、(10,000円-100円)×800株=792万円の損失です。さらに、現物で保有している300株も、100円×300株=3万円にしかなりません。差し引き792万円-3万円=789万円が不足します。
つまり、300万円の元手が全て吹き飛ぶだけでなく、789万円が証券会社に対する借金として残ることになってしまいます。
株式投資には絶対はありません。100%株価が大きく値上がりするという自信があったとしても、そうならないことも多々あるのです。
これまでこの「信用二階建て」により、全財産を失い、借金だけが残った個人投資家は少なくありません。そうなれば、株式投資ができないのはもちろん、借金の返済がその後待ち構えています。
最悪の場合、自らの人生設計すらも狂わせてしまう「信用二階建て」。よほど腕に自信があるとしても、筆者としてはお勧めすることはできません。
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