IMFの最新経済見通しを解説

 1月はIMF(国際通貨基金)と世界銀行が同じ時期に経済見通しを発表するため、その見通しや分析を比較することができます。今回の見通しでは、世界銀行は世界全体の成長も主要国の成長もIMFと比べると厳しい見方をしているようです。

 IMFは年4回、3カ月ごと(1月、4月、7月、10月)に経済見通しを改定し、公表していますが、1月21日に、2019年初めての発表となる「世界の経済成長率の見通し」を出しました(下表)。

IMFの世界経済見通し(2019年1月時点、成長率%)

出所:IMF
注:( )内は10月時点からの修正幅  

 2019年の世界全体の経済成長見通しを昨年10月時点よりも0.2%下方修正し、今回は3.5%と改定しました。

米国と中国の貿易摩擦の影響は、すでに2018年10月時点の改定に織り込まれ、前回も0.2%下方修正されていました。今回のこの下方修正はその影響が世界的に波及し、欧州や新興国の成長率が予想よりも伸び悩むと判断したようです。

 米中貿易戦争の影響や米中の景気下振れはユーロ圏の2019年の成長率見通しを0.3%押し下げ、1.6%としました。欧州のけん引役だったドイツが輸出不振に加え、排ガス規制の強化で国内の自動車販売が低迷し、0.6%の大幅な下方修正となりました。内需が弱く、長期金利が再び上昇しているイタリアや、マクロン仏政権への抗議デモが長期化するフランスの見通しも引き下げた結果、欧州は下方修正となりました。

 一方、米中貿易問題の当事国である米国と中国は、その影響から2018年10月の予測でそれぞれ0.2%下方修正されていますが、今回は米中とも据え置きとなっています。

 日本の成長率については、2019年も2020年もそれぞれ0.2%の上方修正となっています。
これは今年10月の消費税率10%への引き上げに伴う対策が、景気を下支えするためと説明しています。ただし、2020年は上方修正となっているものの、消費税引き上げの影響は避けられず、2019年より落ち込むとみているようです。

 

世界銀行の2019年経済見通し

 世界銀行も年2回、1月と6月に世界経済見通しを発表しています。今回1月8日に発表された、2019年の世界全体の成長率は2.9%と予測し、2018年6月時点から0.1%下方修正しました。

 世界銀行の分析では、世界の成長率は2017年の3.1%をピークに2018年は3.0%、そして今回の予測で2019年2.9%、2020年2.8%と緩やかに減速するとしています。

 世界の貿易量も大きく下振れし、2018年は0.5%、2019年も0.6%それぞれ前回予測から下方修正し、米中貿易戦争の影響で世界の輸出入が急減速すると、警鐘を鳴らしています。IMFの見通し(2019年3.5%、2020年3.6%)と比べると、世界銀行はかなり厳しい見方をしているようです。

世界銀行の世界経済見通し(2019年1月時点、成長率%)

出所:世界銀行
注:( )内は6月時点からの修正幅      

IMFと世界銀行の見通し比較で浮き彫りになる経済減速

 世界銀行は、米国について2019年の成長率を2.5%とIMFと同じ見通しですが、2020年は急減速すると予測し、IMF(1.8%)より低い1.7%としています。貿易戦争で輸出と投資が下振れし、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げも影響すると分析しています。

 欧州については2019年の成長率を0.1%下方修正し、1.6%とIMFと同じ見通しです。しかし2020年は、IMFは1.7%に持ち直すとしていますが、世界銀行は1.5%と2019年よりさらに減速すると分析しています。

 日本についてもIMFより厳しい見通しとなっています。2019年は消費税引き上げの対策によって増税の影響を一時的に緩和できると分析し、前回より0.1%上方修正していますが、IMF(1.1%)より低い0.9%の成長としています。

 一方、日本政府は1月28日に2019年度の実質成長率見通しを1.3%と発表しました。消費税増税対策で個人消費は伸び、外需は横ばいとしていますが、IMFや世界銀行よりもかなり高めの成長となっているのは、気になるところです。

 これらの経済見通しでは、やはり米国と中国の成長見通しが注目されます。中国の成長については6.2%とIMFも世界銀行も同じ見通しとなっています。世界銀行は、貿易戦争の影響を和らげるため、中国当局は緩和的な金融政策や減税拡大で内需の底上げを図っていると分析していますが、最近発表されている米国のグローバル企業の決算を見ていると、現状で既に6.2%より低いのではないかと懸念されます。

 そして米中貿易協議がまとまらない場合は、一段と減速することが予想されます。逆に協議がまとまると、その報道で株は上がりますが、これまでの追加関税が撤廃されない限り、現状の経済環境が続くという点には留意しておく必要があります。

 米国については、貿易問題の他にFRBの金融政策が焦点となります。

 1月31日(日本時間午前4時)に発表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)の声明文や、その後のパウエルFRB議長の記者会見に世界中が注目しています。

 今年に入って、パウエル議長をはじめFRB高官たちが利上げや資産縮小について柔軟な金融姿勢を示し始めていますが、FOMCの声明文や記者会見で、その方向性を明言するかどうかに注目です。柔軟姿勢をはっきりと示せば、株式市場は歓迎し、経済にとってもプラス材料となることが予想されます。ただし、ドル/円にとってはドル売り材料となるため注意が必要です。