12月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 東証マザーズ指数の12月としては指数算出来で最悪となりました。中小型ファンドの配当の再投資などもあって、年末にかけて新興株は上がりやすい特性があります。2019年も昨年11月からリバウンド気運が高まっていたこともあり、期待目線が主流だったように思います。ところが、全くのアテ外れ。12月のマザーズ指数の月間騰落率は▲19.7%、日経ジャスダック平均は同▲10.2%でした。

 新興株だけではなく、東証1部も最悪。日経平均株価は同▲10.5%、TOPIX(東証株価指数)も同▲10.4%でした。誤算はここでしたね。それまで、聞き飽きるほど最重要イベントと言われてきた米中首脳会談。このイベントを通過したものの、しかも90日間の期限付きとはいえ一時休戦となりました。買い戻しが始まり、そのまま年末ラリーにつながる…これがコンセンサスだったんじゃないでしょうか。

 ただ、買い戻しはイベント通過直後だけ。その後は、米国の債券市場で発生した“逆イールド"からリセッション(景気後退)懸念で株売りだとか、中国ファーウェイのCFO(最高財務責任者)逮捕で米中摩擦再燃で売りだとか、株安に対するこじつけっぽい理由のオンパレードで米国株がベアマーケット入り。これにひたすら連れる形で、日経平均もまさかの2万円割れ(安値は12月26日の18,948円)。

 優良株を安く買う、またとないチャンス…そんな瞬間が多く見られましたが、そうした行動に回る投資家が極めて少なかった印象でした。これは、買い手と売り手それぞれの問題が重なったように思います。買い手不在になりやすかった理由では、過去最大のIPO(新規株公開)となったソフトバンクの存在は無視できません。募集期間中に大量の個人マネーが拘束された上、IPO株の初値が公開価格を割り込んだことで、回転も利かない悪循環に(塩漬け株を大量にばらまいただけ)。

 その状況にあって、この時期ならではの売り手の問題も。12月は個人投資家にとって決算期末のような意味合いを持ちます。確定させている実現益がある一方、大きな含み損を抱えた銘柄を持つ個人投資家が2019年はとくに多かったと思われます。株価下落が止まらないタイミングだったことも手伝って“損出し"がかなり出たのでは。そして、その売りが下げにつながることで、追証回避のロスカットも誘発。売りの連鎖で逆回転が止まりませんでした。

12月の売買代金ランキング(人気株)

 売買代金ランキングのワンツーは11月と同じで、1位サンバイオ、2位ALBERT。両銘柄とも月間では下落、売買代金は11月より増加となりました。高値圏で買った投資家の損切りもあったでしょうが、他の新興株よりパフォーマンスは良かったこの2銘柄。数少ない利益確定できる銘柄として、他の銘柄でのロスカットの埋め合わせとして売却した投資家も多かったといえそうです。

 それにしても、ランキングトップ20がここまで下げ一色というのも珍しい現象。20銘柄のうち、月間騰落率がプラスだったのはわずか3銘柄でした。下落した17銘柄のうち、9銘柄が月間で20%超の下落率。エントリーしたタイミングによっては、数日で追証発生するようなケースも多かったといえます。ちなみに、国内某大手証券で12月下旬、「追証が発生した口座数が過去最高になった」とも聞きました。

市場 コード 銘柄名 12月末
終値
時価
総額
(億円)
売買代金
25日移動
平均値
(億円)
月間
騰落率
東証マザーズ 4592 サンバイオ 8,110 4,032 114.4 -6.5
東証マザーズ 3906 ALBERT 12,200 385 87.3 -16.0
ジャスダック 2702 マクドナルド 4,660 6,196 32.9 -8.4
東証マザーズ 4385 メルカリ 1,842 2,649 30.6 -32.4
ジャスダック 4287 ジャストプラ 677 86 29.4 -41.1
東証マザーズ 3990 UUUM 4,165 776 28.6 8.7
ジャスダック 3356 テリロジー 1,060 166 23.8 -25.1
ジャスダック 4582 シンバイオ 190 152 23.1 -13.2
ジャスダック 6787 メイコー 1,769 474 21.2 -12.9
ジャスダック 2146 UT GROUP 1,880 759 17.3 -28.7
東証マザーズ 3182 オイラ大地 1,819 611 16.8 -6.8
東証マザーズ 4565 そーせい 799 610 16.7 -27.7
ジャスダック 6324 ハーモニック 3,010 2,899 16.6 -20.7
東証マザーズ 4588 オンコリス 1,034 137 16.5 47.9
ジャスダック 7564 ワークマン 7,310 2,992 16.0 2.5
ジャスダック 6425 ユニバーサル 3,190 2,558 15.9 -14.7
東証マザーズ 2121 ミクシィ 2,302 1,801 12.7 -14.0
東証マザーズ 3996 サインポスト 3,730 383 12.5 -25.7
東証マザーズ 4420 イーソル 3,935 211 12.3 -34.5
東証マザーズ 7779 サイバダイン 485 666 12.2 -40.0

売買代金ランキング(5銘柄)

1 サンバイオ(4592・東証マザーズ)

 前月の急騰で、マザーズの時価総額トップ銘柄となったサンバイオ。12月の序盤もその余韻は残り、4日に上場来高値9,880円を付けました。注目されたのは、14日に発表された第3四半期決算。数字的には特段サプライズのない内容(カリフォルニア州再生医療機構からの補助金もあり、経常損益以下は赤字縮小)でしたが、翌週17日の株価はネガティブな反応に。小幅高で始まったあと、大きく下落しました。

 指数ウエイトトップのサンバイオの株価が下がると、それ自体がマザーズ指数に押し下げ効果を生みます。マザーズ指数の大幅安が他の新興株への売りにもつながり、信用買い残の多い銘柄のロスカットが連鎖していきます。2019年も、サンバイオの四半期決算発表日前後は要注意ですね(次は本決算で3月13日発表予定)。

2 ALBERT(3906・東証マザーズ)

 あのトヨタとAI開発で資本提携を結んだ企業として、人気新興株としてすっかり定着したALBERT。トヨタや東京海上日動火災保険などと進めるプロジェクトの受注が好調で、21日には今18年12月期予想を再増額(営業利益は1.5億円→1.95億円)しました。

 成長ポテンシャルは大きそうですが、フェアバリューを想像するのも困難な銘柄。ただ、11日に発表したKDDIとの資本業務提携の内容はひとつの目安になりそう。ALBERTの大株主から、KDDIが発行済み株数の約3%相当の株式を取得。その価格は1株「14,406円」でした。

3 マクドナルド(2702・ジャスダック)

 12月はマクドナルドの売買代金が膨らむ月です。その理由も、マクドナルドが12月決算銘柄で日本でトップ級の優待人気株だから。
 今回の権利付最終売買日は25日で、権利落ち日が26日。その権利付最終売買日25日の東京時間が、12月の日本株にとって陰の極と呼べるほどひどい1日でした。権利付最終売買日に年初来安値を更新していたこともあり、権利落ち日の26日は大幅反発。権利落ち分を余裕で埋める動きに。結局、新興株市場の地合いが全て?

4 ワークマン(7564・ジャスダック)

 6日に付けた8,450円が2018年の高値に。3日に発表された11月の既存店売上高は、前年同月比20%増と小売企業としては驚異的な伸び率を維持しています。

 ワークマンといえば、建設現場向け作業服専門店。ニッチ過ぎて、他のアパレル企業がほぼ確実に参入してこない分野のトップ企業です。そのワークマンで販売している作業服や機能的なアイテムが一般人にも人気化…これが買い材料でした。昨年秋には、新しくカジュアルウエアブランド「ワークマンプラス」を立ち上げ。一部メディアの予測によれば、このワークマンプラスが2019年の流行になるとか!?

5 イーソル(4420・東証マザーズ)

 2018年10月に上場した直近IPO株です。16日に、今18年12月期の業績予想を上方修正。営業利益を従来予想の5億円から6.4億円に増額しました。上場期の業績予想を上方修正した直近IPO株は、投資家の信認を得ます。そこから大化けする銘柄も多いのですが…。イーソルについては最悪の地合いに巻き込まれた格好。4日に付けた上場来高値7,000円に対して、大納会28日の安値3,770円はほぼ半値に。

12月の株価値上がり率ランキング

 最悪の地合い環境にあって、“野中の一本杉"的な銘柄にあったのがランクイン銘柄です。とはいえ、12月に大きく値上がりした銘柄は本当に少なく…。月間で2倍以上になった銘柄は、タカギセイコーの1銘柄だけ。タカギセイコーも含め、時価総額の小さい小型株が多く、“杉"と呼べるほどの存在ではないかもしれません。

 値上がり率ランキングの半数以上が、平常月はジャスダック銘柄です。ただ、この12月は20銘柄中14銘柄がマザーズ銘柄でした。手あかがあまり付いていないマザーズ銘柄の一角が、厳しい地合いの中で健闘。中でも2位のオンコリスバイオファーマがスゴい! 2019年の大発会(1月4日)の売買代金は93億円で、サンバイオを上回り新興株のトップに。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
12月末
終値
前月末
終値
価格
時価総額
(億円)
ジャスダック 4242 タカギセイコー 153.4 4,290 1,693 118
東証マザーズ 4588 オンコリス 47.9 1,034 699 137
東証マザーズ 3195 ジェネパ 37.3 1,508 1,098 125
東証マザーズ 4391 ロジザード 37.1 2,932 2,139 93
東証マザーズ 6094 フリークアウト 36.3 2,277 1,671 303
ジャスダック 6063 EAJ 35.6 1,550 1,143 38
ジャスダック 2469 ヒビノ 33.2 2,147 1,612 220
ジャスダック 8191 光製作 32.8 6,640 5,000 248
ジャスダック 4576 DWTI 32.0 574 435 151
東証マザーズ 7033 MSOL 30.3 3,995 3,065 73
東証マザーズ 9467 アルファポリス 28.2 2,490 1,942 241
東証マザーズ 3930 はてな 27.0 2,700 2,126 77
東証マザーズ 6579 ログリー 26.3 4,545 3,600 85
東証マザーズ 3987 エコモット 23.6 1,390 1,125 63
東証マザーズ 9262 シルバーライフ 19.7 5,650 4,720 297
東証マザーズ 9279 ギフト 19.7 3,615 3,020 177
東証マザーズ 6548 旅工房 16.7 1,330 1,140 62
東証マザーズ 3496 アズーム 13.9 6,790 5,960 99
東証マザーズ 3698 CRI・MW 13.8 3,185 2,800 158
ジャスダック 6411 中野冷 13.6 6,840 6,020 612

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 タカギセイコー(4242・ジャスダック)

 12月唯一の急騰株。きっかけは11月30日に発表した個別材料。「針なし注射器」を2019年1月から量産出荷するとの内容でした。針を使わない注射器ですので、痛みが少ない―これ、将来性感じますが、どうでしょう?

 バネの力で薬剤を高圧、高速で噴射する仕組みのようで、直接体内に投与して薬剤が拡散するというもの。しかも使い捨てのため感染症予防にもなる。分かりやすい材料だったこともあり、この材料に素早く飛び乗った個人投資家は多かった様子。信用取引を使った買いが多く、10日に東京証券取引所が信用取引の規制をかけたことで一度、過熱感は冷まされました。

2 オンコリスバイオファーマ(4588・東証マザーズ)

 12月26日に、ガンの体外検査薬として開発中の「OBP‐1101」が韓国で特許出願の特許査定を受けたと発表。これにより、韓国における特許保護期間が最長2032年2月まで延長されるそうです。発表翌日から3連騰。3営業日で株価は5割近くも上昇。これほど買われるような強材料なのかは分かりません。が、反応は強烈でした。

3 ジェネレーションパス(3195・東証マザーズ)

 新興市場が最悪の12月27日に年初来高値を更新した逆行高銘柄。21日の後場、2018年10月期の営業利益予想を大幅に上方修正(1.5億円→2.0億円)。2億円と絶対額は小さいですが、前期比にすると12倍!

 今期2019年10月期の業績予想は開示していません(ユニーファミマHDと共同でECサイトの運営を開始するため)が、前期88億円だった売上高は2倍以上になるとの見方がコンセンサスで。さらに、会社側の業績展望も超強気。26日に開示した決算説明会資料には、2020年10月期の売上高を「500億円」なる野望が記されています。さあどうなる?

4 ロジザード(4391・東証マザーズ)

 こちらも12月に逆行高。上場は2018年7月とまだ新しい銘柄ですが、荒波の12月に上場来高値を更新しました。買いが加速したきっかけは、一部国内証券に関するレポート。同レポートでは、導入コストが安い在庫管理システム「ロジザードZERO」の拡大余地が大きいとの理由から業績上ブレを指摘。2019年6月期の営業利益が会社予想の1.7億円の2倍程度、3.5億円程度になるのではと予想、期待感が満載に。

5 フリークアウトHD(6094・東証マザーズ)

 12月18日に発表した伊藤忠商事との資本業務提携が買い材料になりました。デジタルマーケティング領域で新規サービスを共同開発するとのことで、フリークアウトには強材料。フリークアウト株283万株強を、伊藤忠が第三者割当増資などで取得するようです。

 なお、事業の成長と資金調達を優先させるため、東証本則市場への市場変更の申請は取り下げたもよう。2019年は、東証が東証1部の銘柄数を削減する(時価総額500億円以上など上場基準を厳格化するなど)との報道もあり、マザーズから東証1部へ昇格する銘柄が激減する可能性が高そうですね。

1月に注目したい新興株の動き

 先月12月の新興株市場がひど過ぎた…この反動が大きく出るか? に注目の1月ですね。前述の通りで、11月は地合い悪化によるロスカットに加え、年末による損出し目的の売りも加速。その結果、塩漬け状態だった信用買い残高もかなり減少し、戻り売り玉(シコリ)はかなりスリムになったといえます。また、年間でIPO数がピークとなる12月とは異なり(しかも2018年12月はソフトバンクのIPOがあった)、1月はIPOの空白期間。IPO銘柄に資金が向かうという現象がなくなるため、これも需給好転につながります。

 過去の「陰の極」的なタイミングで発生した現象も、先月12月には起きています。地合い最悪の21日にマザーズに上場したポート(7047)の初値が、公開価格を37%も下回りました。人気のあるマザーズIPOの初値で、これほど大きく公開価格を割り込んだのは…さかのぼること10年、2008年10月以来でした。リーマン・ショックの翌月ですね。その後セカンダリー市場では大きく上昇したのですが、2008年10月に上場したリニカル(2183、現在は東証1部)の初値騰落率が▲38%以来のことです。

 さて、1月の新興株市場。季節的なことでいえば、「バイオ株がなぜか物色される」ことが挙げられます。2019年も大発会を見ると、新興市場でバイオ株が物色されていました。1月4日に、新興市場全体で売買代金トップになったのは創薬ベンチャーのオンコリスバイオファーマ(4588)。これ、2018年の1月も同じでした。2018年1月の月間売買代金トップ銘柄は、ジャスダックに上場する創薬ベンチャーのラクオリア創薬(4579)。なぜか火を噴くバイオ株…。

 2019年のオンコリスバイオファーマ、2018年のラクオリア創薬に共通するのは、前年末にかけて急上昇して年をまたいだ銘柄ということ。需給が良好な状態で新年を迎えているわけですね。そして、個人投資家にとって1月は新しい年のスタートです。「出足で利益をコツコツ出しておきたい」という心理から、需給良好な銘柄を順張りエントリーする参加者の比率が高まるのではないでしょうか。強い銘柄に付く、といった参加者が多そうな1月。それだけに、銘柄によってはオーバーシュートし過ぎる銘柄も出てきそうです。ちなみに、2018年1月の新興株値上がり銘柄ワンツーは、ジャスダックの大村紙業ニチダイ。あれから1年経つのですね…好発進したこの2銘柄、2018年の1年間、どういう推移になったのかも、ぜひチェックしてみてください。何事もほどほどに…。