これまで長期投資の投資方法や有効性など、具体的な長期投資の実践方法を書いてきましたが、今回からは長期投資をするにあたって、知って役立つ経済や投資情報についても書いていきます。

 今回は、世界のマーケットを大きく左右する「米国の金融政策」です。

 

金融政策とは何か?

 まず、最も典型的な金融政策について、簡単にご説明します。
ネットで調べると、金融政策とは、「中央銀行が行う金融面からの経済政策のこと」と書かれています。また金融政策の目的は、「経済の持続的な拡大、物価や通貨の安定」と書かれています。

 難しい言葉が並んでいるので、簡単に説明しますと、金融政策は、経済を順調に成長させるため、「世の中にお金が今より行き渡るようにする『金融緩和』」と、「世の中にお金が今より行き渡りにくくする『金融引き締め』」を行うことです。

『金融緩和』や『金融引き締め』とは

 景気が悪いときは、世の中の金回りを良くする必要があります。そのために「多くのお金が出回るようにすること」を『金融緩和』と言います。

 景気が良くなりすぎた(過熱しすぎて不動産などの資産価格が上がりすぎた)ときは、世の中にお金が出回り過ぎているので、それを抑えるようにします。それを『金融引き締め』と言います。

『金融緩和』や『金融引き締め』は、中央銀行が行います。
中央銀行は、世の中でお金の貸し借りが行われるときの目安となる「金利」を上げたり下げたりすることができます。この金利のことを「政策金利」と呼びます。

『金融緩和』を行うときは、「政策金利」を引き下げます。逆に『金融引き締め』を行うときは、「政策金利」を引き上げます。その結果、住宅ローン金利や債券の利回りなど、世の中のさまざまな金利が政策金利に追随して上がったり下がったりします。

 この他にも金融政策の方法はありますが、「政策金利」を動かすという方法が最も典型的な金融政策です。

 

米国の金融政策は、最強の武器

 金融政策は、どこの国にも存在し、各国の中央銀行が実際に政策を実行します(日本の場合「日本銀行」)。国の金融政策は、自国の経済を持続的に成長させることが目的です。自国の経済に金融政策で影響を与え、経済が上手く回るようにしようというものです。

 しかし、経済規模の大きな国の金融政策については、その影響は自国を越えて、他国にまで及びます。中でも、米国の金融政策は、全世界に影響が及びます。

米国の金融政策

 米国の金融政策が注目されるのは、米国人が世界中で一番多額の金融資産を持ち、米国の通貨である米ドルが世界の「基軸通貨」だからです。

 基軸通貨とは、「世界のさまざまな通貨の中で、為替の取引や、物やサービスの取引で支払いのために最もよく使われている通貨」のことを言います。世界中で最もよく使われている通貨は、米ドルですので、現在の「基軸通貨は米ドル」になっています。

 米国人は、世界最大の金融資産を持っており、その資産を世界中に投資したり、融資したりしています。彼らは、自国通貨の米ドルで資産の価値を測りますので、常に米国の金利を見ています。外国に投資するより、米国の債券を買った方が利回りが良い、あるいは、外国に融資するよりも米国内で融資した方が金利が高いとなれば、外国に投資や融資をしていたお金を米国に引き揚げてしまいます。米国の金利次第で、世界的にお金の流れが変わるわけです。そして、その金利の目安となるものが、米国の政策金利です。

 米国の政策金利は、中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が動かしますが、この政策金利を動かす金融政策により、世界各国の金利は大きな影響を受けます。米国の政策金利が引き上げられると、米国内のさまざまな金利が上昇し、それを受け、他の多くの国々の金利が追随して上昇するのです。

 金利は景気動向に大きな影響を与えますから、米国は自国の金利を動かすことで、世界各国の経済に対し、大きな影響を与えることになります。

 この力は、米国だけが持つ特権であり、時に恐ろしいほどの破壊力を持ちます。
米国は、「米国の金融政策は、米国経済のためのもの」と言い、自国経済の持続的な成長を維持するために政策金利を動かしますが、それは他国にとって、大きな危険性をはらんだものになります。

 米国は、景気が良すぎて過熱しているときに、それを冷まそうと、政策金利を引き上げますが、そのときに他国が米国と同じように好景気とは限りません。
不況の場合もあります。もし他国が不況なのに、米国の金利上昇に追随してその国の金利が上昇してしまうと、それは悪夢です。他国からすれば、不況なら金利はむしろ低下させたいのに、米国のせいで上昇してしまうと、ただでさえ、不況で弱っている自国経済をもっと弱らせることになるからです。

 また逆に、他国で景気が良すぎてバブルが発生しているときに、米国が不況で政策金利を引き下げれば、それも望ましくない状況となります。その国からすれば、景気過熱を抑えるため金利を引き上げるべき状況なのに、米国の金利が低下すると、金利を上げにくくなってしまいます。金利を引き上げると、米国投資家の資金が低金利の米国からその国へ流入して、バブルをもっと大きくしてしまう恐れがあるからです。

 このように、米国の金融政策は、各国間の景気サイクルの違いに関係なく、米国の都合で政策金利を動かし、さらに世界各国の金利まで動かしてしまうため、各国の経済をかき乱し、時には世界的に大きな経済危機を引き起こします。

 米国は、軍事力や政治力を使わずとも、自国の経済をただ良くしようと真面目に金融政策を行うことで、それが故意かどうかの如何を問わず、他国の経済を振り回し、時には大きなダメージを与えます。筆者は、それが歴史的に米国の世界における覇権を守ることにつながってきたと考えています。

 その点で、米国の金融政策は、国際社会の中で米国だけが持つ、物すごいパワーを持った最大最強の武器だと思います。これは、いわば、米国が人為的に世界中に大地震を引き起こせる装置を持っているようなものです。

足元の米国の利上げがもたらすもの

 足元の状況を見ると、米国経済のみが好調であり、政策金利を引き上げる、「利上げ」を何度も行っています。これが意味することは、「米国は不況が来たときの耐性が他国と比べ、大変強い」ということです。経済成長率の水準が高いうえに、政策金利を何度も引き上げてきたため、不況が来たときに引き下げる「金融緩和」の余地が大きいからです。

 一方、米国以外のほとんどの国は、景気に減速感が出ています。しかし、これまで政策金利を上げることができていないため、金利の引き下げ余地が乏しく、「金融緩和」政策が使えません。また、国債の発行し過ぎですでに借金まみれのため、国のお金を使う財政出動も困難です。つまり多くの国は、世界的に不況が来たとしても、なす術がないということです。

 1月4日のパウエルFRB議長の発言を受け、利上げの小休止もあり得るとの観測が出ておりますが、FRBはまだ米国経済は堅調であるとしており、利上げを止めるとは言っていません。しかし、景気を冷やし過ぎない程度に利上げをするというのは、簡単ではありません。過去ほとんどの場合、利上げをし過ぎて、最終的に景気が失速し、不況入りするのが通常パターンでした。筆者は今回も例外ではないと考えています。

 このまま行けば、どこかの時点で世界的な不況入りは避けられず、そのとき、米国はダメージを被るものの、相対的には傷が浅く、その他の国は大打撃を受けて、結果的に米国経済の優位は強まると見ています。よく中国経済の規模が米国を上回るのは確実との見方が報じられていますが、筆者個人は、そう簡単に米中の逆転は起こらないと考えています。

 長期投資は、景気のサイクルをいくつも超えるものであり、目先の動きに一喜一憂する必要はありませんが、どこの国が世界経済の中心として、覇権国として君臨するかは、長期的に重要です。その点で、これから1~2年の市場及び実体経済の動きに要注目です。