標準偏差ボラティリティトレードはすべての市場とタイムフレームに拡張が可能

タートルズの総帥リチャード・デニスが、「タートルトレーディング戦略はもう通用しない」と発言したのは15年以上も前になるが、トレーディングや市場の環境は激変し、昔流行ったほとんどの売買手法は、現在の市場では通用しない。

筆者は<標準偏差ボラティリティトレード>という売買手法を1990年以降ずっと使っているが、この手法だけは30年近くたってもいまだに効力を発揮している。トレーディング競争の激化の中で生き残っている手法は、<標準偏差ボラティリティトレード>や<自己回帰和分移動平均(ARIMA)予測モデル>などいくつかあるが、利益をずっと生み続けるシステムを作るのは並大抵のことではない。

1988年当時使っていたMS-DOS版の投資ソフト
(チャートの上段には13日と26日の標準偏差が表示されている。1980年代後半、既にCTAではテクニカル分析が主流だったが、一般的にはテクニカル分析やシステムトレードはキワモノ扱いされていた。今やアルゴリズムや人工知能運用が主流の時代となっている)

(出所:石原順)

ボラティリティの自己回帰和分移動平均(ARIMA)予測モデルを使った日経平均先物(1994年6月限)の売買シグナル

(出所:石原順)

読者の皆さんは、昨日からの円高と日経平均の下げ相場にうまく乗れているだろうか?以下のチャートは本日のドル/円と日経平均先物の5分足・15分足・30分足・1時間足・4時間足・日足である。パラメータ26の標準偏差ボラティリティが相場のトレンド(方向性のある)局面を明確に示唆していることが判るだろう。

標準偏差ボラティリティを使った売買手法は、以下の通りである。

パラメータ21のボリンジャーバンドを表示させる

(株式インデックスは±0.6シグマ・通貨は±1シグマ)

パラメータ26の標準偏差を表示させる

  • トレンドの発生(保ち合い離れの判定方法)
    標準偏差が上昇しはじめた時
  • 新規建玉のポイント
    エントリー(新規注文)は相場がボリンジャーバンド±1シグマ(株式インデックスは±0.6シグマ)の外に飛び出した時
  • 損失を限定しつつ利益を伸ばす手仕舞いのポイント
    手仕舞い(エグジット)は相場がボリンジャーバンド±1シグマ(株式インデックスは±0.6シグマ)の内側に入った時

筆者は現在、トレンドが頻繁に発生している4時間足以下のタイムフレームのすべてでトレーディングをおこなっている。<標準偏差ボラティリティトレード>は、すべての市場と時間枠(タイムフレーム)の順張り取引に拡張が可能である。

ドル/円(5分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル/円(15分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル/円(30分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル/円(1時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル/円(4時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル/円(日足) アナログモデルとアダムセオリーの予測
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(5分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(15分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(30分足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(1時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(4時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

日経平均先物(日足) アナログモデルとアダムセオリーの予測
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

いくら相場を評論したところで、収益には結びつかない。ファンダメンタルズは重要であり、筆者も予測をするが、相場の分析で最も重要なのは、<価格そのものの分析>であろう。

スティーブン・バノンの失脚とトランプ相場の行方

NYタイムズが“影の大統領”と呼んだスティーブン・バノン首席戦略官がNSC(国家安全保障会議)から追い出された翌日、トランプは中国の習近平主席との晩餐会の最中に59発の巡航ミサイルをシリア政府軍の空軍基地に撃った。また、中国に対しては敵対から友好路線に転換したような報道が相次いでいる。

英国のBBCのDecoding the Trump 'war room' photographという報道の写真をみてもわかるが、スティーブン・バノンは窓際だ。トランプの娘婿でグローバリストであるジャレッド・クシュナーが、ナショナリストのスティーブン・バノンを押しのけて台頭しているらしい。スティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問をNSCのメンバーから外したのもジャレッド・クシュナーではないかと目されている。

「米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は7日、トランプ米大統領がプリーバス大統領首席補佐官やバノン首席戦略官兼上級顧問など政権幹部の更迭を検討していると報じた。同紙が政権高官の話として伝えたところによると、トランプ大統領はシリア情勢の緊迫化を受けて上層部の勢力争いに対する懸念を強めた。近く人事に関する発表を行う見通しという」(ワシントン 7日 ロイター)と報道されているように、トランプ政権は、権力抗争の末、軍産複合体(ネオコン)の流れをくむジャレッド・クシュナー(トランプの娘婿)などのグローバリストが、スティーブン・バノンなどのナショナリストの追い出しにかかっている。

マーサ財団をバックにトランプ政権の首席戦略官を務める"影の大統領"スティーブン・バノン、英エコノミスト誌がミスター保護主義と書いたウォール街の再建王と呼ばれるウィルバー・ロス商務長官、国家通商会議議長の経済学者ピーター・ナバロらを従えて、トランプ政権は反軍産複合体政権としてスタートしたが、過激なトランプ政権も、今後は徐々にオバマ政権化してくるだろう。

トランプの本意はまだよくわからないが、先週のレポートに書いたように、トランプ政権は現実路線に転換しているように見える。「歴史的にまず明らかなのは、反乱に成功した反逆者たちほど、かつて自分たちが非難し、駆逐した勢力の手法を採り入れていることだ。トランプは結局すべての人を失望させることになる。高給職は米国に戻ってこないだろう。メキシコとの国境に壁は築かれないだろう。オバマケアは解体されないだろう。クリントン家やブッシュ家のようなネオコンが裏で権力を保ち続けるだろう。連邦法人税率を引き下げても、地方税率の引き上げと景気の悪化で、また場合によっては賃金の増加と金利の上昇で、その効果は相殺されるだろう」と、Gloom, Boom & Doom(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート)でマーク・ファーバー(ヘッジファンド運用者)が指摘した事態が到来しそうだ。

昨日はトランプが、

  • ドルは強すぎる。
  • 中国を為替操作国に認定しないつもり
  • イエレン議長を敬愛しており、次期FRB議長はまだ決めていない。
  • ドル高は自身への信頼が理由
  • FRBの低金利政策は好ましい

という要旨の発言(ウォールストリートジャーナル とのインタビュー)をした。

これで、ドル円は5か月ぶりの108円台に下落した。

筆者が相場で必ず確認しているのはフラクタル・ハイロ―である。フラクタル・ハイロ―というのは、スィング・ハイロ―とも呼ばれ、目立った高値はその両側により低い高値を従えている高値、目立った安値はその両側により高い安値を従えている安値をいう。フラクタル・ハイロ―のポイントこそ、相場のスタート地点である。そして、直近の目立った高値・安値はターゲットプライスになりやすい。

ドル/円(日足)とフラクタル・ハイロ―

(出所:MT4)

「ドルが強くなり過ぎている。これは人々が私を信頼しているためで、私のせいでもある。だが、結果的には打撃となる」という発言はいかにもトランプらしいが、それを除くと、低金利バブル温存路線を標榜するなど、現実路線に転換していることがわかる。

トランプが現実的になると、市場が期待していた減税や財政出動などの政策も縮小均衡していくだろう。米国債の長短スプレッドをみると、トランプラリーは終了している。

米国債の長・短スプレッド(10年国債金利-2年国債金利)とNYダウの推移(2017年4月13日現在)
長・短スプレッドが拡大しない株価の上値は重くなる

(出所:石原順)

米10年国債金利(日足) 景気がいいという割に長期金利が上がらない
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

米国のイールドカーブ(2017年4月13日現在)
(この先、短期の金利が上がり、長期の金利が上がらなくなると、株式市場の急落が起こる。米著名投資家ラリー・ウィリアムズは、「GDPが450億ドルの伸びに対して、債務は2.2兆ドルに膨れ上がっている。この対GDPの債務率は過去最大である。金利の引き上げはGDPの低下に直結する。まるで、マイク・タイソンのパンチのように強烈なダメージをもたらす」と述べているが、FRBが急いで金利を引き上げるだけで米国のGDPは下がってしまうのである)

(出所:フィナンシャルタイムズ)

NYダウがそれでも値持ちがいいのは、米国の景気拡大期が94カ月に及んでいることと(まだFRBに利上げ余地がありイールドカーブが立っている)、企業決算発表を控えて売りにくいためだ。しかし、ここからFRBが利上げや資産売却を急ぐようだと、長・短スプレッドのさらなる縮小やイールドカーブのフラット化を招きかねない。

NYダウ先物(日足) アナログモデルとアダムセオリーの予測
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

好景気という報道の裏では、サブプライム自動車ローンや学生ローンの破綻も増えている。これらのローンは債券化されており、2007年のサブプライム住宅債券危機前と同じ状況なのである。米国債の長・短スプレッドの縮小は債券市場からの<危機>に対する警告であろう。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。