共働き正社員夫婦の理想型のひとつ「パワーカップル」

 三菱総合研究所が最近発表したレポートが、ネットでちょっとした話題になりました。「パワーカップル」という、いかにもネットでバズりそうなキーワードを検証し紹介したものです。

 正社員共働き夫婦の合計年収が、他の働き方の年収より高くなることと、正社員共働き夫婦のライフスタイルには、いくつかの共通点があることを紹介したもので、ニュースにも取り上げられたようです。

 レポートではパワーカップルの定義として、夫婦の合計年収が1,000万円であることをひとつの基準としています。あるタワーマンションの購買層は半数がパワーカップルであり、パワーカップルは家事代行などのアウトソースにお金を払う傾向が高いことや、カット野菜などを活用した家事省力化にも積極的であり、またマネープランに関するセミナーの参加率も高いなど、消費行動に合理性と積極性が見られることを分析しています。

 このパワーカップル、もしかすると「パワー投資カップル」にもなり得るかもしれません。それはメリットもある一方で、注意点もありそうです。
 

年収が高いことはリスク許容度の高さであり、貯蓄額を増やす最高の方策である

 世帯の年収が高いことは資産形成上、いくつもの理由でプラスです。まず貯蓄余力を得られます。年収が高くなるとあわせて生活水準も高めてしまいがちなので、支出をコントロールする必要はありますが、年収の高い世帯のほうが貯めやすいことは間違いありません。

 そして貯蓄を多く持つことは、投資原資を捻出する余力も高いということです。資産形成の全額を投資に回す人はあまり多くないでしょうから、貯蓄額を増やせる人ほど投資に回す金額も多くできます。

 貯蓄が多くできることはリスク許容度も高いということです。運用によって短期的に生じた損失を踏まえても、資産全体のボリュームを増加できる人は、含み損を無理に売らなくても残高が伸びていきます。これは貯蓄ペースがゆっくりの世帯や、資産のほとんどを投資に向けている世帯にとってはなかなか厳しいことです。

 さらにその貯蓄額そのものが資産全体のリスクを抑える効果ももたらします。貯金額が500万円あり、iDeCo(個人型確定拠出年金)で月2.3万円の積み立て、あるいはつみたてNISA(少額投資非課税制度)で年40万円程度の積み立てをしている人が、550万円の資産を持っていたとします。仮に「預貯金500万円+投資資金50万円」とすれば、資産全体に占める投資ウエートは約9.1%です。

 

これは大きな含み損を生じる市場に直面したとしても、資産全体での損失インパクトを軽減します。市場が25%下落しても資産全体では90.9%分(500万円)には損失が生じていないし、投資資金9.1%の4分の1の損失ということは、資産全体では約2.3%のマイナスということだからです。リーマン・ショック級の下落でも、冷静に「全体」を見ることで回復まで待つことができますし、むしろ追加資金を投入する余地もあることになります。パワーカップルは投資においても強みがあるわけです。

パワーカップルはどんどん貯め、どんどん投資したい

 となると、パワーカップルの投資術は、積極的に貯める原資を確保し、その中からどんどん投資に振り向けていくことがカギとなります。

 夫婦の年収を共有したら(12月にもらう源泉徴収票ですぐ共有できます)、未来の幸せをイメージし、貯蓄目標を設定し合います。まずは、金額ベースで少し強気の夢でも共有してみることが大切です。そのうえで目標の貯蓄率と投資率を設定します。できれば10%以上、家賃や住宅ローンを払ってもなお年収の15~20%貯められると、かなりハイペースの資産形成になります。

 このとき、パワーカップルの資産形成は、積極的に進めて、老後までロードマップを描いてみましょう。というのも、せっかくの高所得にともなう豊かな消費生活を老後も維持したいと考えるのであれば、老後のための資産形成もしっかり行う必要があるからです。

 実は厚生年金には上限があります。毎月の保険料の適用範囲は月62万円、ボーナス150万円で打ち止めになりますが、これは厚生年金が報酬比例であるからです。たくさん保険料を納めた人にたくさん年金が反映されるといっても、無制限に高年金としては際限がないため、生活に不自由しない額になるくらいのところで保険料の徴収をストップ、年金額も打ち止めにします。

 ということは高所得で暮らした人たちほど、老後の年金が期待ほど高くならない可能性があるわけです。引かれている感覚は相当ありますから、「年金はやっぱりあまり多くない」という感覚になります。

 毎日の生活にある程度のリソースを配分したら、「ちょっと貯めすぎかな」くらいでもいいのです。貯めまくり、運用で増やしまくったお金は老後に20~30年かけてどんどん使えばいいのです。

 

ダブルiDeCo、ダブルNISAなら老後の安心が確実なものに

 具体的にはiDeCoを夫婦ともに開設すること(企業型確定拠出年金が会社にある場合はiDeCoに原則入れないのでマッチング拠出の枠を利用する)、NISA口座を夫婦ともに開設することです。

 仮にiDeCoが月2.3万円の上限とすれば年27.6万円で、つみたてNISAの年40万円を加えれば年67.6万円ずつ拠出枠があります。夫婦で満額まで使えば135万円にもなりますから、一般的なパワーカップルの投資金額を十分に吸収できる枠になるはずです。足りない場合は一般NISAの口座でもいいでしょう。

 手元に貯金も持っているという前提であれば、iDeCo内では定期預金を保有せず多くを投資に回していいでしょう(超低金利の利息が非課税になるより、年3~4%くらいの投資のリターンが非課税になるほうが有意義です)。

 投資手法については関心に応じて決めればいいですが、iDeCoではインデックス運用をベースにしつつ超長期投資の戦略をとり、NISAで好みの投資スタイル(個別銘柄で投資など)を採用するなど組み合わせを活かしてみてはいかがでしょうか。もちろんNISAもインデックス運用で問題はまったくありません。

 

ただし注意点もひとつ。あやしい投資勧誘に巻き込まれるな

 ただし注意点もひとつあります。高所得であり貯蓄余力があるが故に金融機関のターゲットとなりやすいということです。

 先に紹介したレポートでは、パワーカップルが投資を行う割合は平均の約2倍だそうです。セミナーなども積極的に受講する傾向があるようですが、これは自ら積極的に投資情報を取りに行くポジティブな側面と、あやうい投資話に巻き込まれる恐れが高まるネガティブな側面もあります。

 私も個人の方とお話していると、「そんなあやしい金融商品、わざわざ買わなくてもいいのに、どこで情報収集されたのですか?」と思うような商品に出合うことがあります。手数料が割高であったり、解約条件が厳しかったり、わざわざ海外に口座を開設させられたり、もっとシンプルな代替手段があるじゃないですか、と申し上げることも少なくありません。

 最近ではネット広告もターゲッティングされているので、投資に関心を持ち始めた人に対してさまざまなチャネルからアプローチが寄せられます。実は、関心が高い人ほど要注意なのです。

 過剰に高いリターンをちらつかせる投資話(金融商品と呼ぶのさえ避けたくなるひどいものもあります)、社会不安や「あなただけに特別にご提供」のような言葉を枕詞にして投機欲を刺激してくるような投資話について、パワーカップルは付き合う必要はありません。

 パワーカップルのパワー投資においては、投資のメンテナンスに必要なリソースはできるだけ軽くしたほうがいいと思います。本業の仕事で稼ぐことと、家庭内でリラックスする時間に人生のリソースを重点的に振り向けるべきです。

 普通にネット証券で取り扱っている金融商品だけで、個人の資産形成の選択肢は十分だと思います。それでも世界中を投資対象にすることができますし、むしろ無理に組み入れなくてもよい投資商品もたくさんラインナップされているほどです。

 資産運用は、最終的にパワーカップルの人生の目的ではありません。それは楽しい人生をエンジョイするための手段であることを忘れないようにしてください。

 共働き夫婦が経済的豊かさを手に入れる力として、投資にもその役割を上手に担わせていきたいものです。