先週の為替市場振り返り        

 先週12月7日までのドル/円は、米長期金利の低下や米国株の下落、事前予想を下回った米雇用統計などから、上値の重たい展開が続きました。

 特に、カナダ当局が米国の要請で中国通信機器最大手、ファーウェイの副会長を逮捕したことから米中貿易摩擦への懸念が高まり、ドル/円は112円台前半まで下落。その後は米長期金利の反発や米国株も落ち着きを取り戻したことから、ドル/円も113円台に戻しました。

 しかし、ドル/円は売られ過ぎの反動で買い戻されただけで、再び上昇するという勢いは感じられません。

 

12月のFOMC後もドル/円の今年高値は届かない見込み

 来週12月18~19日にはFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(米連邦公開市場委員会)があります。大方が予想している利上げが決定されても、今年2018年の高値114.55円()に12月中は届かないかもしれません。今年の安値は104.56円()ですので、年間の値幅は9.99円(=114.55円-104.56円)となります。この10円未満の値幅は、日本が1973年から変動相場制に移行して以降、最も狭い変動幅でした。言い換えれば、変動相場というシステムの中で、ドル/円が最も安定した年であったということになります。

「高値」「安値」は銀行や証券会社などの各種情報やメディアの相場情報を参考に筆者が認定した数字です。参考値としてお読みください。

参考:固定相場制と変動相場制とは?

 為替相場には、固定相場制と変動相場制があります。現在、世界の大半の国が「変動相場制」を採用しています。

 日本の為替相場は戦後1949年に固定相場制でスタート。1ドル=360円の固定相場時代が始まりました。現在の水準と比べると300%以上の円安水準です。そして、1971年には1ドル=360円から308円にドルが切り下げられました。ドルの切り下げはドルの価値が下がるということです。

 その後1973年、固定相場制の維持が困難になり、日本は変動相場制に移行。変動相場制は、市場の需要と供給によって為替レートが決まる制度です。

 変動相場制では、各国の通貨が自由に売買され、為替レートは需要と供給によって毎日、24時間動きます。

 自由とは売買するために当局の認可を事前に取得したり、事後に売買報告をしたりすることなく取引が行えて、為替相場を誘導するような当局の市場介入もないことです。現在、私達が24時間、自由にドル/円を売買できるのは、日本が変動相場制を導入し、取引規制を緩和してきたからです。

 

2019年は円高方向に圧力か

 話が横にそれましたが、今年のレンジは変動相場制に移行して以来の狭いレンジでしたが、参考までにこの10年間の各年のレンジ(年間値幅)を紹介します。やはり、あまり動いていません。

直近10年のドル/円年間変動幅

注1:上記の表は、年間の始値、高値、安値、終値、そして年間値幅と変動率を表示
注2:「終値」「前年終値比」の赤字は前年終値より円高を示し、黒字は円安を示す
注3:年間値幅は「高値-安値」、年間変動率は「その年の値幅をその年の始値で割った数字」
注4:数字は絶対的なものではなく参考値(どの時間帯の始値をとるか、ワンタッチの高値や安値をとるかによって数値が変わってくるため)
注5:「前年終値比」の平均は、「+」や「-」を除外した絶対値で平均値を算出
注:62018年終値は12月7日時点の終値

 上記の表から、この10年間のうち、5回が10~11円で動いていることが分かります。

 一方、大きく変動した年は、2013年(18.88円)、2014年(21.10円)、2016年(22.70円)。2013年と2014年はアベノミクスによる日銀の黒田東彦総裁の超金融緩和によって大きく円安に動きました。

 2016年はBrexit (ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)とトランプ氏の米国大統領選挙勝利によって、ドル/円は上下に大きく振れた年でした。これらの特殊要因の年を除くと、ここ最近の年間の変動幅は10~15円となります。

 そうだとすると、来年2019年の変動幅も特殊要因が発生しない限り、10~15円になる可能性が高いことが想定されます。現時点ではBrexitや米国大統領選挙のように事前に分かる特殊要因はありません。しいて挙げれば、米中貿易交渉90日間猶予の期限が2月末にありますが、Brexitや米国大統領選挙のように事前に予想が全くつかず、その日のうちに白黒がはっきりするイベントではありません。90日間のうちに交渉経過が伝わり、徐々にマーケットに織り込まれていく可能性があります。

 今年は、米国景気が好調で数回の利上げがあり、米長期金利も上昇しました。それにもかかわらず昨年2017年の高値118.60円を超えられず、115円にさえ届くことができていません。来年は米景気の鈍化が予想されており、利上げペースも鈍化してくるという見方が高まっていることを考えれば、円安方向よりも円高方向に圧力がかかってきそうです。今年と同じように105~115円のレンジの中で円高バイアスが強まるシナリオ、あるいは15円の変動幅であれば、100~115円のレンジの中で円高バイアスが強まるシナリオが想定されます。

 もちろん、異なったシナリオも考えられます。今年のドル高要因にブレーキをかけていた米中貿易摩擦が交渉合意の方向に動き、米中双方の景気にプラスに働き、FRBの利上げペースも鈍化しないというシナリオです。この場合、10円の変動幅であれば110~120のレンジに、15円であれば105~120円もしくは110~125円のレンジとなります。レンジは5円刻みでなくても構いません。例えば108~118円、あるいは108~123円というレンジも考えられます。

「高値-前年終値」で分かる翌年の天井予測

 一つの目安があります。ここ3年間の高値をその前年の終値と比較したときに、あまり円安に振れていないという特徴があります。上記の表の右から2列目の「高値―前年終値」という数字です。

 2016年の高値121.70円は、前年の終値120.30円から1.40円しか円安に振れていません。同じように2017年は1.53円、2018年は1.84円しか円安に振れていません。

 もし、今年が112円で終わり、来年もこの3年と同じように円安圧力が強くならないのであれば、来年の天井は114円以下ということになります。逆に、来年、今年の終値よりも2円以上円安に動けば、これまでの相場構造とは変わってきていると見た方がよいかもしれません。ひとつの考え方として注目しておいてください。

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